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恩師との再会と新たな出逢い

 翌朝支度を済ませた私は、クロードとリヒャエルをつれて双太陽神教会の総本山である北聖区の大聖堂へやってきた。


 やはり北聖区は昨日泊まった中央聖区とは少し趣が違う。


 外界との窓口となる中央聖区は活気に溢れ商業都市といった感じだったが、北聖区は神聖な空気があり、聖区全てが教会と言っても良いだろう。


 区画の一等奥まった場所には二体の男女の彫刻が立体的に浮き上がるように壁一面を使って彫り込まれ、北聖区全体を……人間の世界を見つめているようだ。


 どちらもよく整った中性的な見た目をしているが、やはり双子神と言われているだけありその面差しは二神ともよく似ている。


 ロブルバーグ教皇聖下からの書類を見せて面会希望を告げて待つことしばし、出迎えに出てきてくれたのはエレナ大司教だった。


 互いに朝の挨拶を交わしてエレナ大司教の後に続き大聖堂内へと足を踏み入れる。


 堂内には甘辛い中に酸っぱさと苦さが絶妙に混ざりあった良い香りが立ち込めており、ここは神聖な場所なのだと嗅覚に訴える。


 どこか前世の仏壇に供える線香やアロマテラピーを思い出す香りに心が落ち着く。


 後ろを振り返ればリヒャエルが苦虫を噛み潰したような嫌そうな顔をしていたので多分この香りが合わないのだろう。


 しかしこの香り……これってレイス王国で謀反を起こした故右将軍ギラム・ギゼーナが纏っていた香りに僅かに似ている。


「ふふっ、いい香りでしょう? これはキャラと言う香木を熱して堂内に燻らせているのです」


「複雑な香りのする木があるのですね」


「えぇ、湿地に埋まり長い年月を掛けて熟成され掘り出されたものらしいですわね、同じ重さの金にも勝る高価なものだと聞いております」 


 金にも勝るってそんなに高価な香木を惜しげもなく焚きしめる双太陽神教会の財力に舌を巻く。


「この香は魔を清め荒ぶる精神を鎮めたりするそうです。 またこの大聖堂に参拝し続けた民の中には体調が良くなったと言うものもおります」


 うむ、もしかしたらアロマテラピー的な効能があるのかもしれないな。


 光苔の光が大聖堂に施されたステンドグラスを通して美しい光が堂内に差し込みとてもきれいだ。


 暫く歩くと上へ上へと続く階段に案内される。 


 人が三人は並べそうな過剰装飾が施された広い階段をひたすら登っていくと、これまでとは明らかに違うとわかるフロアに出た。


 床には大理石のようなタイルが敷き詰められ、その上に分厚い絨毯が敷いてある。


 精緻な絵画を思い出させる壁紙が続いた先に立派な両開きの白い木製の扉があり、金細工が施されている。


 高貴な人物の住処なのか扉には武装した神官が部屋の主を守っていた。


 エレナ大司教はためらいなく近づくと神官達には目もくれずに扉へ三度握り込んだ手の甲を軽く打ち付ける。


「教皇聖下、レイナス王国王太子シオル殿下をお連れいたしました」


「はいれ」


 入室許可が出たのでエレナ大司教が扉を開けると、二人の人物が立っていた。


 一人は見たことがない人物だが、私は目の前の小さな老人から目が離せなかった。


 それこそ産まれた頃から共に泣いたり笑ったりしてたくさんの事を教えてくれた恩師。


 ロンダークがもう一人の父親ならロブルバーグ教皇聖下は優しいおじいちゃんだろう。


 懐かしさと再会できた嬉しさに緩みかけた涙腺を必死にこらえて姿勢を正す。


 せっかく再会できたのにみっともない姿を晒したくはないじゃない?


「ご無沙汰しておりますロブルバーグ教皇聖下、レイナス王国王太子シオル・レイナスです。 本日はお招きいただきありがとうございます」


 きちんと挨拶できたはずなのにおかしいな、みるみる聖下の顔が苦虫でも噛み潰したような不機嫌なものになっていく。


「聖下……いかがなされました?」


 そんなロブルバーグ教皇聖下の様子を不審に思ったらしいエレナ大司教が声を掛けるが、聖下は憮然とした態度で私のすぐ目の前まで来るとちょいちょいと手招きした。


 私もかなり身長が伸びたから指示された通りに素直に膝を曲げて屈む。


 困惑を隠せないでいると、ロブルバーグ教皇聖下のキレッキレの手刀が頭頂部に直撃した。


 痛っ……た〜い! 


 両手で頭を抑えながら目の前にいるご老体を涙目でにらみつける。


「ふん、久しぶりの再会なのに辛気臭い顔をしとるからじゃ! しかも何じゃお前に敬称で呼ばれる筋合いなどないわ! 昔のように呼ばんかばかもんが!」 


 さらに遠慮なく手刀を繰り返される。


「そんなんだから心配でロンダークが双太陽神の元に上がれんのだ」


 ロブルバーグ教皇聖下……ロブルバーグ様の言葉にハッと顔を上げる。


「ロ、ロンダーク?」


「そうじゃ、お前はロンダークを来世に行かせぬつもりか」


 ロブルバーグ様の言葉に必死に首を横に振る。


 私を心配するあまりロンダークが来世に行けないなんてことあっていいはずが無い。


 ロブルバーグ様は誰もいないはずの壁を見ている。


「ロンダークもさっさと行かんかい、妻と子にはきちんと挨拶を済ませたのだろう? こやつはキチンと儂が叩き直しておくから安心してさっさと行け」


 壁に向かって真面目に説教をするロブルバーグ様の姿に私は目を凝らした。


 ロンダークが居る? 本当に? ふらふらと立ち上がりロブルバーグ様の隣に移動してロブルバーグ様の視線の先を辿る。


 私の必死な様子に、ロブルバーグ様と一緒にいたもう一人が私の手を取った。


「少しだけ力を貸しましょう、きちんと挨拶を済ませなさい……かの魂が神の元へ行けるように」


 髪も肌も白く瞳だけが血のように紅い少年が私を見上げる。


 少年が紅い目を閉じて何かボソボソと告げると、それまで見えなかったロンダークの姿が見える。


「ロンダーク! ごめんなさい、私……私は……」


 涙があとからあとからとめどなく溢れてくる。


 ロンダークの伸ばした手は私の頭をいとも容易くすり抜けた。


「ロンダーク、貴方が護りたかったもの全て私が護るって約束する、だから安心して来世に行って……ね?」


 乱暴に涙を袖口で拭い去る。 安心させるようにできる限りの笑顔で笑いかければ、ロンダークは僅かに頷いたあと光の粒子となり空へと消えていく。


「彼に双太陽神の加護があらんことを」


 少年の言葉に呼応したようにサクラの小さな遠吠えが部屋に響いた。


いつもお読みいただきありがとうございます。ブックマークと評価をいただきました皆様には感謝しかでません。今後もよろしくお願いいたします。

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