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私少年趣味の変た……じゃありません!

 馬車に取り付けたソリの試運転ですっかり体温を奪われた店主さんの手は職人にふさわしい分厚い皮膚に覆われていた。


「わっ、突然どうなさったんで?」


 勢い良く手を握られたらそりゃ困惑もあたりまえなのだけど、すっかり私の頭から抜け落ちてしまっている。


「店主さん、貴方が欲しい!」 


 そう言うと同時にスパーンと言う音とともに後頭部に衝撃が走った。


「痛った〜!」


 無意識に店主さんの手を放して痛む後頭部を撫で擦る。


「店主さんは物じゃありませんよレオル様」


 涙目で振り返ればリヒャエルが呆れたと言わんばかりにため息を吐いた。


 その手には丸められた羊皮紙が握られている。


 普通側近候補が羊皮紙でとはいえ主を殴るか!?


「リヒャエル〜!」


「はいはい、ほら見てください。 レオル様が変なことを言うからみんな引いてますよ」


 リヒャエルに促されて周りを見れば、ヒソヒソと話をしながら距離を置かれていて、地味に凹む。


「あ〜、はいはい。 私が悪ぅございました。 店主殿、もしよろしければ私の元でその素晴らしい腕を振るっていただけませんか?」


「えっ、そう言う意味だったので?」


 私の言葉に店主さんはホッと胸を撫で下ろした。


「そうですよ」


「いやぁ、先日の奴隷の子を引き取られた事件はこの小さな街では大事件でしたからね、双太陽神教の枢機卿猊下の奴隷の子を少年趣味の変た……」


『父さん!』


 少し離れた場所で様子をうかがっていた店主さんの息子さん達が、慌てて走ってくるなり、とび掛かるようにして店主さんの口を塞いだ。


 店主さんは何やらモガモガ言葉にならない事を言っているけど、息子さんが「良いから少し黙ってろって!」と言って引きずって行ってしまった。


 もしかして変た……ってヘンタイって言いたかったのかな?


「申し訳ございません、なにぶん父はなんと言いますか、思ったことが口にでると言いますか……えっと……そう! 普段偏屈なのですが変なところだけ素直と言うか迂闊と言いますか」


 ダラダラ汗を流す息子さんに苦笑いを浮かべる。


 息子さん達の連携を見るにどうやらこのような対応はよくある事なのかもしれない。


「お気になさらず、誤解を与えるような事を言った私が悪いんですから」


 そう告げればホッとしたように詰めていた息を深く吐いた。


「ありがとうございます」


「そう言えばお名前を伺っておりませんでしたね、私はレオル、こちらはリヒャエルです」


 そう簡潔に、むしろ名前だけで名のりでる。


「これは申し訳ございません、わたしはあそこにいる父ゴンサロの長男ノビロ、そして父を拘束しているのが次男のヘラノと申します」


 そう言ってノビロさんは深々と頭を下げた。


 店主さんあらためゴンサロさんを拘束したままでヘラノさんが小さくペコリと頭を下げた。


「実は素晴らしい漆工芸をもっと広く知って貰うために、ぜひうちで働きませんか?」


「うち……とはどちらでしょう?」


「レイナス王国に自宅がありますのでもしよろしければレイナス王国へ帰国する際に同行して頂ければと思っておりますが」


 私達の会話を聞いてヘラノさんの拘束からゴンサロさんがなんとか抜け出した。


「お断りする! ここは俺達の街だ離れるつもりはない」


 真っ直ぐにこちらを見たまま、悩む素振りすら見せずにゴンサロさんが断ってきた。


 意志の強そうな鋭い眼光に、あぁこりゃ駄目だと早々に諦めた。 

 

「残念です、私達は今晩こちらに滞在したあとスノヒス国の首都まで出立致しますのでもし気が変わりましたらいつでもお伝えください」


 私とゴンサロさんの会話が終わるまで、ノビロさんとヘラノさんがなにやらコソコソと話あっている。


「リヒャエル行くよ」 


 そう呼べばリヒャエルはそそくさとゴンサロさんではなくノビロさんに先日依頼したソリやカンジキの製作料が入った袋を手渡した。


 未だに金銭感覚が崩壊しそうな決算書ばかり相手にしていて、時勢に明るくない私から見ても、ゴンサロさんが受け取った巾着式の財布は重そうだ。


 はぁ……漆塗りの技法、出来れば漆の木の植林も含めてレイナス王国へ持って帰りたかった。


 そしたら漆のお椀で小麦粉を練って、味噌煮込みうどん作ったのに……


 内心ガックリとしながら宿の借り受けた部屋へと引き返していった。


 

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