ソリに塗られていたもの
試運転をしてほしいと言う事だったので、馬車を宿の前に引き出した。
馬車の轍だらけで凹凸が激しい雪道を、手を広げて親指の先端から小指の先ほどまでの幅広の板目が、順調に滑っていく。
「うん、いい感じです」
出来立てのソリは思っていたよりも雪離れがいいようで安心する。
「そりゃ良かった、昨日注文もらった時にソリの裏面をできるだけならしてほしいと言われたから、ウルーシの樹液を塗っておいたんだよ」
正解だったなと満足げに頷く工房の店主さんの言葉に首を傾げる。
「ウルーシですか?」
「ん? あぁもしかして知らねぇか」
そう言って、近くの木に近づくなり、懐から取り出した短刀で木の幹に切れ込みを入れた。
「この木はウルーシと言うんだよ」
ほんの短時間で染み出してきた樹液を短刀にすくい取り、こちらへと持ってきた。
採れたてのウルーシ液は白く、甘い香りがしてくる。
「ウルーシの木をこうやって傷つけると樹液が出てくるんだ。 それを器に採取してるんだ」
その甘い香りにつられて手を伸ばせば店主さんに手を叩き落とされた。
「触っちゃいかん。 樹液が皮膚に付くとかぶれる事もあるからな」
なんだろう、名前も触るとかぶれると言う特性も聞き覚えが……
「ウルーシは森の恵みだ、煮炊きして木製の家具や食器に塗れば品物は長持ちするし、秋に取れる実は蝋になり室内を明るく照らしてくれる、春になれば新芽は美味いし、腹痛の薬にもなるありがた〜い木だ」
味を思い出しているのだろう、店主はお酒でも傾けるような真似をしておどけて見せる。
「へぇ、食べられるんですか! ぜひ食べてみたかったな」
「残念だったな、この雪の量じゃしばらく先までお預けだ」
トホホとガックリして見せると店主は豪快に笑ってみせた。
「まっ、そんなわけでウルーシを塗ってあるから暫くもつだろ」
ウルーシ……多分漆の樹液をコーティングされたらしいソリの板を見る。
「しかしウルーシはこんな短時間で定着するんですね」
前世で友人と旅行に行った際に見学した漆塗りの工房では漆を塗って使用できるようになるまで数日かかると言っていたような気がした。
「これは口に入るもんじゃないし、薄塗りしただけだからな、ほんの数時間もあれば問題ないんだよ」
店主の話だとお椀の様に熱い食材が入る食器の場合は、少なくとも1ヶ月位は自然に置いた方が良いらしい。
なんにしても漆工芸の技術、ぜひともレイナス王国に欲しい!
漆塗りのお椀でうどんかはっとを食べたい。
試運転も終わり、宿の前まで戻ってくると私はおもむろに店主さんの手を取った。
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タイトル
『リストラされたので異世界と現実世界をまたにかけて起業することになりました。憧れの異世界で結婚式をあげてみませんか?』
あらすじ
『突然それまで勤めていた会社をクビになり、途方にくれた沖田一成がたまたま道で踏みつけたのは怪しげな求人広告だった。
面接先でコスプレ幼女に採用を告げられ、エレベーターに乗せられた一成は異世界へと強制連行されてしまう。
魔素の枯渇により破滅に向かう異世界を救ってほしいと懇願され、逆に魔素の濃縮で地球に天変地異が多発しており、このままだと地球も破滅へまっしぐらだと知らされる。
愛する妻と反抗期真っ只中の愛娘の未来を守る為、なんとか二つの世界の魔素を均等にできないだろうか。
愛娘が勝手に異世界へ同級生を連れてきて大騒ぎになったり、異世界の奴隷制度に巻き込まれてみたりと次から次へと問題が山積していく。
これはリストラされた父親が愛する家族を守るため、異世界と現実世界をまたにかけて起業し、奮闘する物語である』
https://ncode.syosetu.com/n7721en/
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