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側近候補

 スノヒス国の豪雪っぷりは北部では有名らしく、初めてスノヒス国へ行く人々は大抵装備不足でドラグーン王国へと戻って来るらしい。


 ドラグーン王国とスノヒス国との間にある最後の街には双太陽神教の聖地への巡礼者で賑わいを見せていた。


 比較的宿屋が多い街のため、何とか今夜の宿を確保することに成功した。


 護衛として同行した二つ年上のリヒャエルとクロードを引き連れて暗くなり始めた街を歩く。


 他にも何人か護衛を連れてきたが皆花街にキエテイッタ。


 まぁ良いけどさ……


 リヒャエルは金色の柔らかな巻髪に若草色の大きな瞳の青年で、私より握りこぶし一つ分くらい背が低い。


 その分機動力はピカイチで今回のスノヒス国弾丸訪問の護衛を選ぶ際に二人とも私より二つ歳上だが、同行した護衛としては最年少ながら既存の騎士を差し置いて上がってきた強者だ。


 平民出身だが、実力は申し分ない。


 しかも容姿が甘い為、相手が色々と油断しやすい。

 

 クロードはリヒャエルと反対で短く切りそろえた黒髪と鋭い瑠璃色の瞳の強面だ。


 だいぶ育った私より更に身長が高く、広く逞しい鍛えられた典型的なレイナス王国の脳筋タイプの体躯を誇るが、本人は武官ではなく文官になりたいらしい。


 この一見両極端な二人は今回のスノヒス国護衛を成功した暁には私の側近になることが内定している。


 二人ともレイナス王立学院を成績上位で卒業した者たちだ。


 ドラグーン王国のセントライトリア学園程レベルは高くないかもしれないが、幼い頃に通うことを義務付けられている小学で将来有望な若者は身分に関係なくレイナス王立学院へ集められる。


 補助金も毎年組んであるため、教科書や学用品はタダだ。


 そしてこの学院……全寮制で使用人や侍女侍従は連れて行けず、貴族は平民と部屋を組まされる。


 いざ戦争になれば、真っ先に貴族の子息達は国を守るために戦場へと駆り出される。


 もちろん戦場に余計な人足を連れて行く訳に行かないので、自分で服も来たことがないような貴族の子息は有事に備えて学院で平民から身支度などを学ぶのだ。


 自室の掃除や野外での食材調達、狩りや野営の仕度などもカリキュラムとして必須課題に組み込まれている。


 そして平民は貴族の子息から社交に必要な礼儀作法や社交術を学ぶのだ。


 同室の者の評価がお互いの評価に繋がる。


 貴族根性出して平民だからとルームメイトをこき使えば、ルームメイトの協力を得られず見事にブーメランとして返ってくる鬼仕様。


 本当なら私も学生として学院へ通うことが出来る歳なんだけど、私には必要ないって言われてレイナス王立学院に通っていない。


 学生のんびりライフ送りたかったよ〜!


 一国の王子を社畜の如くこき使い過ぎです鬼宰相。


 ちなみに同じ学院敷地内に淑女コースもあるよ。


 三人で街を歩き周囲の様子に気を配りながら、街の中心部に近い木造建築の酒場へとやってきた。


 雨風に晒されて焦げ茶色に変色している両開きの扉を押して中に入ると、楽しげな歌声や談笑する声があちらこちらから聞こえてくる。


「いらっしゃ〜い、何名かしら?」


 若草色のワンピースに生成りのエプロンを付けた女性が私達を素早く見つけてやって来た。


「三人です、席空いてますか?」


「う〜ん、二階なら空いてると思うわ、確認するから少し待っててね?」


 そう言って二階へ続く階段を駆け上がっていく。


「シオル殿下」


 クロードが声を掛けてきたが、私は彼の顔を睨みつけた。 


「クロード、レオルだ。 敬称はいらないと何度言えばわかるんだ?」


 クロードが正義感が強く真面目な奴なのはこの旅の間でよくわかったが、融通がきかないのはいただけない。


「クロードは鋼並みに堅苦しいからな〜、あっ、レオル様二階でさっきの美人さん呼んでますよ」


 そう言ってリヒャエルはヘラヘラと顔を緩ませて店員さんに手を振り返している。


 軟派なリヒャエルと石頭のクロード……二人足して二で割るとちょうど良さそうだ。


 ギシギシと音を立てる木の階段を上り、案内された席は二階から一階が見下ろせる場所だった。


「はい料理表」


 手渡された木の板に料理名だけが書かれたメニュー表を見るが、所々に聞き慣れない食材が散乱している。


 クロードははじめから「殿下と同じものを」と言っていたのでメニュー表はリヒャエルへ回す。


「貴女のおすすめは?」  


 挿絵や写真がないこの世界、肉か魚かすらわからないメニュー表よりも実際に働いて賄いを食べているプロに聞けば間違いない。 


「そうね……魚ならこれ。肉ならこの料理かしら」


 どんな料理なのかと問いかければ丁寧に解説してくれた。


「それじゃぁその二つと、ホットワインを二つずつ」


「あっ、俺も!」


 リヒャエルが声を上げたので苦笑しながらウェイトレスさんに同じものを追加で一つ頼んだ。


「平和だなぁ……」


 これまでの道程で

立ち寄った街や村とはまるで雰囲気が違うのだ。


「しかしなんっつうか教会関係者が多いね」


「あぁ、確かに……いくら双太陽神教の本拠地スノヒス国との国境沿いとは言っても多い気がするな」


 言われてみれば確かにこの酒場にいるだけでも数組が旅装束とは言え双太陽神教会のシンボルである二羽の白い鳥が刺繍された神父服を着ている。


「は〜いおまたせ〜。スーリークーの甘辛焼きと、スョウスョウシャンの姿揚げ、あとホットワインね」


 やはり人気メニューだからかすぐに先程注文した店員さんが他に二人引き連れて料理を運んできた。


 スーリークー……蛇の姿が大胆に残り尾頭付き甘辛焼きと、大皿サイズの巨大な出目金魚スョウスョウシャンの姿揚げに口元が引きつる。


 だめだ、これ見た目だめなやつだ。


「おっ、美味そ〜! お姉さんも美味そう〜!」


 そんな私を他所にリヒャエルが美人さんをナンパしている。


「も〜、褒めるの上手いんだからぁ、はいオマケ」


 満更でもなさそうに頬を染めると、こちらも人気商品らしいカリカリに上がった小さなイナゴがスナックのように盛られた小皿が出される。


 ちらりと横に視線を走らせれば、クロードが料理を見て見事にフリーズしていた。


 うん、わかるよその気持ち……


「旨っ! そうだお姉さん、なんか教会の神父さん多くね?」


 ためらいなくイナゴを口に放り込みながらリヒャエルが店員さんに話しかけている。


 葛藤の末、意を決して比較的抵抗が少なかったスーリークーの腹部にフォークとナイフを入れて一口食べれば、弾力があって噛み応えがある筋肉質な赤身に香辛料が効いた甘辛いタレが食欲をそそり絶品だ。 


 スョウスョウシャンもパリパリの鱗も柔らかな白身も大蒜と唐辛子に似た辛味の強い木の実がいいアクセントになっていて美味い。


 夢中で食べ始めた私の様子に、ようやく食べる決心がついたのかクロードも口をつけて、衝撃に目を見開いている。


 わかる、わかるよその気持ち……ただ自国の王子を毒味にするなし。


「ありがとう、それじゃあね」


 料理に夢中になっている間に、店員さんは席から居なくなっていた。


「レオル様、どうやら双太陽神教の教皇様が危篤らしくて、各地からコンクラーベの為に枢機卿クラスがスノヒス国へ集められてるみたいですよ」


 ホットワインを飲みながらリヒャエルが言った言葉に、スーリークーの肉片を噛まずに飲み込み喉引っ掛かり盛大に噎せこんだ。


 えっ、ロブルバーグ教皇様が危篤!?


 私の背中を撫でながらクロードがリヒャエルを睨みつける。


「リヒャエル……シオ……レオル様を殺すつもりか」


「やだなぁ、んなわけ無いでしょうが、あとスノヒス国は街道から外れると雪に埋まるから聖都まで行くなら街道を進めって」


「街道か……人手を掛けて荷馬車が通れる程に整備されているなら、通行料取ってそうだな」


「うん、お布施を要求されるみたいだよ」


 喋りながらも、リヒャエルの前に置かれた皿に乗った料理は次々とリヒャエルの口へと消えていく。


「明日からは街道を行くしかないか」


「この雪の中を無理して進み慣れぬ道で迷えば命取りですから」


 いつの間にか完食したクロードは私の言葉を肯定した。


「なるべく早く聖都へ向かうためにもどこかの商隊に混ぜて貰いますか?」


 クロードの言葉に頷く。


「あぁ、交渉たのんだ」


「お任せくださいシオル殿下」


「レオルだ! リヒャエル、交渉中クロードを見張っててくれるか」


「はいは〜い」


 クロードにどっと疲れながら、そう聞けば軽い了承が返ってくる。


 リヒャエルはそのうち不敬罪で揉めそうだ……


 

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