竜は摩訶不思議仕様
「さっ、さささっ、サクラっ!?」
動揺のあまり名前が変な呼び方になってしまったけれど、すっかりコンパクトになったサクラの前足の脇の下に親指を挟み顔の前に持ち上げた。
「キュウ!」
名前を呼ばれた為か、首を傾げるサクラの姿が可愛くて身悶える。
しかしこんな事ってあるんですね。青いネコ型ロボットが出してくれる物質の大きさを自在に拡大縮小しちゃう懐中電灯があるわけでもあるまいし。
どう? 可愛い? とでも言うようにペロペロと小さくなった舌で頬を舐められて擽ったさに身をよじる。
「すっかり可愛くなっちゃたね〜、でもこんな風に小さくなれるなら、なんで今までならなかったの?」
サクラの喉元を擽り撫でるとキュウキュウと嬉しそうに鳴く。
「はぁ、まぁ竜はこの世界でサクラしか見たことが無いって城勤めの生物学者や研究者も太鼓判を押してたもんなぁ」
異世界と言う地球とは違う星に転生しただけでも摩訶不思議としか言いようがないのに、その異世界にとってみても摩訶不思議生物の竜、常識なんて通じるはずないんだよね。
「しかし、もう大きなサクラには会えないのかな……凛々しくてかっこよかったし、一緒に空を飛ぶの気持ちが良くてすきだったんだけど……」
残念だけど仕方が無いか。
私の悲しげな声に、首を傾げたサクラが肩から地面へと羽ばたき降りる。
「えっ、サクラどうしっ……」
パタパタと羽ばたいて私から十分な距離を取ったサクラは、キュウと愛らしく鳴いたあと、眩い光を放った。
「うわっ!? 目潰し再び!?」
光に眩む目を両手で塞ぎ、脳裏から白い残像が薄れるのを待って目を開けると、元のサイズに戻ったサクラがいた。
「まさかのサイズ自由自在!? なんつうチートっ、あっ……夢か〜な〜んだぁ」
夢オチかとホッとして目を閉じる。
しかしサクラはそんな私の様子が不満だったらしい。
目を開けると足元に影が出来ていて、視線を上げるとサクラの大きな口がカプリと私を閉じ込める。
「いや〜、私を食べる為に大きくならないでくれないかな!?」
慌てふためく私の様子に、グールグールと猫のグルーミングの様な音をさせると、サクラは直ぐに口の中から出してくれた。
それから直ぐに三度目の目潰しをくらい、小さなサクラとともに城へ戻り父上とシリウス宰相にことの顛末を伝えて、サクラをスノヒス国へ同行させる許可を得た。
夕食後、身体を清めて就寝の支度を整えベッドに潜り込むと、枕元にやってきたサクラが、小さな身体を丸めて寝入ってしまった。
「まさか寝ている最中に元の大きさに戻ったりしないよね……」
一抹の不安はあるものの、サクラの背中を撫でると眠りについた。