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ロンダーク死す

「シオル様っ、危ない!」


 ドンと背中を強い力で押されてバランスを崩した身体が地面に倒れ込んだ。


 振り返り見上げたロンダークの背中が目に映る。


 ロンダークの左脇腹にはヌラヌラと赤く濡れた白銀の剣が背中から突出していた。


 ロンダークは一瞬苦痛に歪める。


 口の端から、逆流してきたらしい鮮血が顎を伝う。


「ロンダーク!?」


 ロンダークは自分の腹部に剣を突き刺した男を振り向きざまに自分の剣で斬り捨てる。


 男は斬られながらも決して剣から手を放さず、自らが倒れる反動を利用してきっちりロンダークの腹部に刺さっていた刀身を引抜き絶命した。


 地面に倒れ込んだロンダークに駆け寄り、腹部を両手で強く抑える。


 両手の指の間からとめどなく流れる血液が、横たわるロンダークと地面を濡らしていく。


「ロンダーク! くっ、血が止まらないっ、死んじゃだめ!」


「シオル殿下、応急処置をします! 場所を譲って!」


 駆けつけたゼストが持っていた幅広の包帯をロンダークの身体に巻きつけて、剣の鞘を帯と身体の隙間に差し込みぐるぐると捻って圧迫していく。


「うっ……」


 小さく呻いた声にロンダークの顔を覗きこむ。


 血の気が失せて蒼白い顔、薄っすらと目を開けたロンダークは私の顔を見ると血まみれの手を伸ばしてきた。


 私は素早くその手を掴まえると自分の頬に押し当てた。


「シオル様……ご無事で?」


「あぁ、ああ大丈夫だよ。 ロンダークが助けてくれたから」


「そう…ですか……よかった……」


「ロンダーク、国に一緒に帰ろうね、ミリアーナ叔母様が待ってるよ?」


 ロンダークは私の言葉に、薄っすらと微笑むとゆるく首を振った。 


「私の……命は国まで持ちまっ……せん」


「そんなことない!」


「ふふっ……シオル様の混乱した時に女性の様に……話す癖……治りませんでしたね……ゼスト殿……」


「ここにおります」


 もう目も見えていないのか、ロンダークが彷徨わせた手をゼスト殿がしっかりと掴む。


「ミリアーナ様と……子供達をお願いできませんか……?」


「任せてください」


 ゼスト殿は悩む事もなく即答した。


 その迷いない答えに安堵したのか、微笑みを浮かべたロンダーク全身からすべての力が抜け落ちた。


「ロンダーク! ロンダークっ!」


 縋り付く私を力ずくでロンダークの遺体からゼスト殿が引き離していく。

 

 ここは戦場、剣戟、怒号、悲鳴、そのすべての音が私の中から消えた。


 残ったのは赤……すべてがロンダークの流した赤で染まっていく。


「うわぁぁぁぁ」


私の中の何かがブツリと音を立てて焼ききれた。


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