ロンダークには敵いません
「終わりだな」
ギラムの言葉に人生の終焉を覚悟した……が、痛みはいっこうに訪れず腹部を圧迫していた重みが消えた。
「勝手にうちの王子様殺そうとしないでくれますかね? 一応その方に何かあれば陛下にどやされますから」
長年実の親よりも当たり前に聞いてきた声に目を開けると、急いで駆けつけたのだろう上がった息を整えるでもなく怒りも顕にロンダークが立っていた。
ヤバイ、すっごく怒ってる。
「ロンダーク!」
「ロンダーク、じゃありません! どうして貴方は毎度毎度このような無理をなさるんですか!」
ロンダークは後ろからやって来たゼスト殿に、意識を刈り取られ地面に倒れたギラムの身体を引き渡す。
「ごっ、ごめん」
「ごめんで済むなら近衛や側近はいりません! 大体貴方はいつもいつも無茶ばかり、少しはご自分の立場と言うものをですね」
クドクドネチネチと続く説教を聞きながらひたすら、ハイ、スミマセン、ゴメンナサイと謝罪し続ける。
無意識に地面に正座で座り込み叱責を受け入れている私を見ているはずなのに、すっかりこの状況に慣れているうちの国の騎士達は一切助けてくれません。
いやね、王子様が人前で臣下から叱責を受けるとかありえないと思うんですけど、ロンダークは父様……アルトバール陛下の忠臣中の忠臣。
また私の教育係なので、時と場所は選ぶけれど、今回のレイス王国行きの同行騎士達が信頼のおける者たちばかりなのもあり、容赦なく説教と言うなの雷が落ち続けている。
「ところでロンダーク、この川って下流はどこに繋がっているかわかるかな?」
説教の勢いが削がれたタイミングを見計らい声をかける。
「主流はレイス王国からドラグーン王国を通りレイナス王国へ続いております。支流まで入れればマーシャル皇国経由でフレアルージュ王国やグランテ王国にも繋がっておりますが……なんでそんな事を?」
「うん、ナターシャ姫と乳母が流されたっぽい」
私が背後の滝に視線を流せば、ロンダークが崩れ落ちた。
「はぁ……そんな情報を掴んでいたなら、なんでギラムなんて手練を相手にして窮地におちかけてるんですか!? 構わずに逃げれば良かったではありませんか」
「いやぁ〜、でもギラムと一線交えながら得た情報だからね、これ」
頭を抱えながら苦悩するロンダークには悪いことをしたなと思うけどさ。
「人を川沿いをくまなく捜索する。 必ず姫を見つけ出せ」
「御意……」
その後数日かけて川沿いを捜索したが、見つかったのはすでに息絶えた乳母の物言わぬ遺体だけだった。