王都潜入
レイス王国の王都に近づくにつれ、避難していく民は減り馬で近づくのは困難になっていった。
人通りも減り、監視の鋭い明るいうちに王都へ入るのは困難だと判断した私達は、日が落ちてから王都へと潜入するために動くことにした。
王都へと入るための門は、ギラムの私兵が封鎖しており、出入りが制限されている。
門前には篝火がたかれパチパチと音を立てて炭が弾けている音が離れた私のいるところまで聞こえてくる。
同じような服を纏った私兵が出入りしているのを確認できる位置に身を隠しながら周辺の警戒をしておく。
「う~ん、見事に封鎖されてるね……ねぇロンダーク、ちょっとあの私兵捕まえてくるつもり無い?」
門から見えない場所に身体を隠すようにして、様子を伺う。
「わかりました。 捕まえて参ります……ゼスト殿、シオル様から目を離されませんようにお願い致します」
同じように外壁にもたれ掛かるようにして隠れていたゼスト殿に、私の監視を念押ししたロンダークは、王都の外に出ていった私兵を追うように気配を殺して走り出した。
「シオル殿下、王都へと潜入を果たしたらいかがなさるおつもりですか?」
門から視線を外すことなく、左腰に下げた剣に手を添えて聞いてきたゼスト殿の声は硬い。
「出来れば王妃様とナターシャ姫を救出したいところだけどねーー」
「殿下!」
「ーー大丈夫だ、私はレイナス王国の王子だからね、無理はしないよ」
私の言葉を遮ったゼスト殿を安心させるように頷く。
「シオル様、ご希望の品をお持ちいたしました」
背後から現れたロンダークは既に私兵たちが来ている揃いの制服に着替えており、私とゼスト殿に、奪い取ってきたらしい制服を差し出した。
「ありがとうロンダーク、ゼスト殿私達も大至急着替えましょう、ロンダークは他のみんなと周辺警戒を頼む」
「御意」
それまで来ていた一般の平民が普段着ている生成りの色を生かした衣服を大胆に脱ぎ捨て、ロンダークが持ち帰った私兵の揃いに着替える。
少し制服の両足と両腕の長さが足りないが、この際気にしない事にした。
「これから私とロンダーク、ゼスト殿で外門の一つを速やかに制圧する。 制圧成功の合図として松明の一つを振り合図を送るから速やかに合流せよ」
『はっ!』
背後から聞こえた押し殺した返事から漲る闘志を感じながら私とロンダーク、ゼスト殿が歩み始める。
もしばれたらと鼓動が跳ねる。 一歩一歩近づくにつれ、緊張感が増大する。
「シオル様、落ち着いてください。 そんなに殺気立っていてはかえって気付かれます」
慌ててロンダークを見やれば、しっかりと頷く。
どうやら私は無意識に殺気立っていたらしい、焦りや焦燥は思考を鈍らせ、本来なら犯さないようなミスを招く。
一度目を閉じて深く息を吸い込み、口から吐き出す。
それだけで無意識に詰めていた呼吸が改善され、荒れていた心に余裕が生まれる。
「ありがとうロンダーク」
「どういたしまして」
後ろを歩くロンダークに半身で振り返り礼を告げれば、しっかりと頷かれた。
煌々とした松明の脇を通り過ぎ、私兵のそばを通過する。
松明の側に一名、門の左右にそれぞれ二名づつの計五名。
制服が同じせいだろうか、全く警戒されずに門を抜けることができた。
「門を守備しているのは五名、ロンダークは門の右側二名、ゼスト殿は少し遠いですが松明の側に居る兵、私は左側の二人を狙う。 なるべく衣服を汚さずに倒せますか?」
「造作もありません」
頼もしい返事を聞きながらタイミングを図る。
救援を呼ばせずに速やかに無力化するために、歩調を揃えて門に背を向けながら歩く私の支持を待っている。
「では、手はず通りに」
踵を返しシルバの柄に手を掛けて、一気に立ち話をしている私兵へ駆け寄り、一人の後頭部へ柄を叩き込む。
「ガッ……」
「おいっ! どうしっ!? ぐっ……」
低く唸り声を上げて倒れ込む同僚に動揺したもう一人が剣を引き抜こうとしたが、すぐさま身体を捻り返した剣の柄をもう一人の鳩尾に叩き込んだ。
意識を完全に刈り取るべくこちらも頚椎に一撃を加えて倒し終わる頃には、既にロンダークもゼスト殿も制圧し終えており、既に倒した私兵の服まで剥がして拘束を終えており、私の様子を観察していたようだ。
「う~ん、まだまだ無駄が多いですね」
うっ、たっ確かにロンダークの熟練の技から見たら私の拙い剣技は駄目駄目だろう。
「精進いたします……」
ロンダークに意識を刈り取った私兵たちから制服を剥ぎ取るのを手伝ってもらう。
待機していたレイナス王国の騎士達を呼び寄せたゼスト殿は、騎士達に剥ぎ取ったばかりの私兵の制服に着替えさせており、着替えている間に門の脇に、設置されている石造りの堅牢な守衛所に次々と拘束した私兵をまるで酒樽でもかつぐようにして手際よくせっせと運び込んでいる。
う~ん、一体私はいつになったらロンダークやゼスト殿に追いつけるんだろうか……
門の制圧を完了した頃、次第に明るくなり始めた空に映し出されたレイス王城から火の手が上がった。