第四話 立つ鳥跡を濁さずを実践してみた
「立つ鳥跡を濁さず」:立ち去る者は、見苦しくないようきれいに始末をしていくべきという戒め。また、引き際は美しくあるべきだということ。(故事ことわざ辞典より)
今日は幼稚園の卒園式。普段の行事(ピクニックなど)はお手伝いサンに任せているのに、今日は珍しく母親が参加している。やっぱり卒園式は親にとって重要なものかな。父親?あんなの知らないよ。
「縁、おめでとう!4月から新一年生ね!ランドセル背負う縁は絶対に可愛いわ!!何色が良いかしら?黒は普通で地味だから、水色なんてどうかしら?」
「んーしろがいーなー」
「白?縁、本当に白が好きなのね。個人的には水色のランドセルにいつもの白い服を着たらまるで空に浮かぶ雲のようだと思うわ!どう?水色も捨てがたいわよ!」
「んーよくわかんないけどしろがいいー」
ボクは白が好きだ。何色にも染まっていないあの色が好き。黒なんて言語道断!悪役が常に黒が好きだと思わないでよ?逆に、ボクの敵の方が悪役染みた人が多かった気がする…地獄の魔王って普通悪役だよね。
「残念ね~水色は絶対に似合うと思ったのに…」
あ、卒業証書授与がボクの番になった。取りに行こう。ボクが受け取った時、凄まじいまでの光が瞬いた。母親もしくは一緒に来たお手伝いサンがカメラで連射でもしているのだろう。思い出に写真を写すってこの世界での文化だと思うんだ。ボクの世界でもカメラはあったけど、あれは諜報用だったからね。いつもも思うけどボクの世界って結構シビアだね。
卒園式が終わると、かずまクンとかずまクンのオトモダチがボクの所へやってきた。もう一人の子の名前なんだっけ…亜麻色の髪しているから亜麻クンとでも付けておこうかな。そういえばかずまクンの家は神社らしいね。本当に祈祷とかできるのかな。まあ、ここの空気が綺麗にならない限りボクの喘息は治らないから無意味かなー。残念。
「ゆかり!ぼくたちとおなじしょうがっこうにいくのか?」
「ゆかりくんとおなじところ?ならうれしい!」
かずまクンと亜麻クン(仮)達が通う小学校って『霜降ヶ丘学園』というらしい。何で霜なのか、霜降って霜降り肉のことなのか、とか突っ込みたいけど相手がいないからやめておく。残念ながら、ボクの通う小学校は彼らとは違う。
「ボクがいくがっこうは……んーよめない」
ボクがそう言った途端、二人はずっこけた。二人とも案外仲良いねー。ボクが通う学校は『舞白学園』と言い、「白」が名前に付いているから気に入って母親に言ってみたらあっさりとそこへ通うことが決定した。二人には残念だけど、違う学校って言い辛いなー。あ、でも正直に言っちゃおっと。嘘吐きは泥棒の始まりらしいからね。ボクは泥棒にはならないよ。
「ははうえーぼくのがっこうってしろがつくがっこうだよねー?」
「ええ、『舞白学園』と言うのよ。本当に白が好きなのね、縁。学校が違ってごめんなさいね二人とも」
近くにいた母親に学校の名前を聞いておく。6歳児が漢字を読めたらおかしいからね。当初、ボクは英才教育とやらで小さい頃から漢字を読める設定にしようかと思ったけど、ここの貴族の英才教育ってマナーとか立ち振る舞いばかりを教えていて教養はまだなんだよね。小耳に挟んだ話によると、「立ち振る舞いは大きくなってからでは遅い」らしく、教養は大きくなってから各科目の家庭教師を付けると言っていた。ボク勉強嫌いだよー。立ち振る舞いの授業は食事を優雅に食べる~とかいう授業でケーキ食べたから嫌いじゃないなー。んー食べ物で釣られている気がするけど、別にいいやー。うまうまー。
「ゆかり、ちがうがっこうなのか!?」
「いやだよ!ぼくゆかりくんとおなじとこいくー!」
ボクが違う学校へ行くと聞いて仲良しな二人は大慌て。亜麻クン(仮)はボクの服を握りしめて泣き始めた。この子意外に力強い…けど泣き虫だな。かずまクンはボクの肩を鷲掴みにして揺らしている。ちょ、ちょっと待ってよ…!なんか込み上げて……!
「和眞君、裕仁君!やめたげて!彼のライフはもう0よ!」
おうふ…母親に無事救出されたよ。危うくどこかの国にしかいないと言われているマーライオンになるところだった。ボクは卒園の日にそんな醜態晒したくない。全くボクが病弱設定であることを忘れたのかい?
それからも、駄々を捏ねるやっと名前が判明したゆうじクンと、離れたくないらしいかずまクンを宥めてようやくボク達は帰路についた。宥めるのに1時間以上もかけてしまったよ。おかげでボクのおやつの時間が減ってしまったじゃないか…あの二人に今度、特大の呪いでも送ろうかなー。食べ物の恨みは大きいんだよー?
もう卒園したから言っちゃうけど、ボク達の代で園長さん辞めちゃうんだって。しかも、ボク達を担当した先生や、園の先生も揃って退職しちゃうらしいんだよね。一部では贔屓にしていたボク達が卒園したからだとか囁かれているけど、ボクは知ってるんだよー。教育委員会という組織の人とかが頻繁に幼稚園を出入りしていたってこと。この件に関して、母親がボクのスケッチブックを持って奔走していたことを追記しておくよ。
立つ鳥跡を濁さずっていうことわざを実践してみたよ。なんて気分が良いんだろう!これでボク達がいなくなった後の幼稚園は綺麗になったね!
今回で幼稚園編は終わりです。
縁くんはやっと裕仁君の名前を知ることができたようです。