第三話 かくれんぼをする際には探検しすぎないように注意しよう
この話には少し性的表現が含まれます。ご注意!
幼稚園の卒園まで後1ヶ月切ったある日のこと。ボクは体調が良かったので幼稚園に来た。今日は外で遊びたい気分だったのでみんなでかくれんぼをすることになった。かくれんぼって絵本では見たことあるけど、実際に遊ぶの初めてなんだー。
「じゃあ、ぼくがおにをやってやる」
「かずまくんがおにー!かくれろー」
見所あると前にボクが評価した、黒髪の男の子はかずまクンというらしい。初めて知ったなー。かずまクンが30秒数えている間に他の子達は一斉に散らばり、隠れていく。かくれんぼの範囲ってどこまでか定めていないから、どこに隠れても良いってことだよね?よし、ならボクはあそこに隠れよう。あそこなら子供たちどころか先生まで来ないからね!
それから30秒どころか1時間経ったのだけど、誰も見つけてくれない。最初はワクワクしていたんだけど、やっぱりここは5歳児には見つけられない所なのかな?暇だから職員室に行ってお菓子あさりでもしに行こう。
職員室には誰もいなかったので、職員室にある冷蔵庫を開けてみた。な、なんと…!中にはお酒が入っていたのだ!なんて先生たちなんだ!これは訴えることができるレベルだよ…よし、持ち帰ろう。母親に見せたらきっと動いてくれるよね。ボクはまだ5歳児だから行動しないんだよ。あ、ボクもう6歳児だった。
職員室を出て、これからどうしようかと考えていると、職員室に近い場所に位置している園長室から何か声が聞こえた。もしかして、職員が呼び出されて怒られているのだろうか、防音室なはずの部屋から声がここまで聞こえる。誰が呼び出されているのか気になり、園長室の扉に寄り掛かり、聞き耳を立ててみた。そしてボクは、盛大に後悔した。
「あっ、えんちょ、あーっ!」
「はぁ、はぁ…」
……なんてこった。この幼稚園はここまで荒れ果てていたのか…この世界は相当危ないようだ。しかも園長の相手はボクの組の先生だった…情操教育に悪い幼稚園だね。流石に今のを見なかった事にはできないので、職員室から提出していたボクのスケッチブックを持ってきて、同じく職員室から借りてきた鉛筆にさっきボクが見たことを描くことにした。子供がこれを妄想で描けるわけないとみんな思っているだろうから、ボクが提出したらこれは証拠になる可能性が高い。ボクが何故こんなに頑張るのかと言うと、単にボクの後輩達が可哀そうだからだ。もし彼らに見つかったらそれはもう、大変なことになるだろう。その前にボクが彼らに大変な目を合わせるのだ。ボク偉い子-。
それからボクは再び同じ場所に戻って隠れた。今のボクの持ち物はスケッチブック、お酒、鉛筆だ。子供たちはまだボクを見つけれていないのでボクが出てくるわけにはいかない。ボクはスケッチブックに職員室を描き、その次のページに冷蔵庫の中身を描いた。恐ろしいことに、職員室の冷蔵庫の中にお菓子なんてものは一つもなかった。あったのはワインボトル、お酒のビン、缶ビールなどなど…お酒ばっかりだった。ビンの形でも絵に描いていたらお酒だと察することはできると思う。あの形状って大体お酒だよね。
スケッチを続けていると、不意に足音が聞こえてきた。足音の軽さから、この足音の主は子供であることが分かった。もしかしてかずまクンかなーと思い、息を潜めてみる。しかし、その後聞こえた声にボクは彼ではないことを知る。
「うっ…ひっく…」
どうやら泣いているようだ。目を凝らしてみれば、男の子の服に付けられたネクタイの色が黄色だったので年下であるひな組の子のようだ。ちなみにうぐいす組のネクタイの色は緑色だったりする。とりあえず泣いている年下の子を放っておく訳にもいかないので(しかもこの道をそのまま進んだら園長室についてしまうから危ない)声をかけてみた。
「どーしたのー?」
「うぇっ!?だ、だれ?」
変な声を上げて驚いた男の子は、ボクを見て言った。驚いた拍子に涙が止まったようだ。とりあえず聞かれたことには答える、これが礼儀だよね。
「ボクはゆかり。キミはー?」
「ぼくは、あきら。えっと、ないしょにして?」
「んー?ないたことー?なんでないていたのか、いったらねー」
ボクの答えに戸惑い、嫌がっていたあきらクンだが、ボクが「はやくしなよー」と少し殺気を向ければおずおずと口を開いた。全く、結局言うなら最初から言えばいいのにー。
「みんな、ぼくのめがきもちわるい、っていうの。ははうえは、きれいっていってくれたのに」
そう言ったあきらクンは再び泣き出した。思い出し泣き、というものだろうか。この世界の人は随分感情的なものだ。この言葉から、彼が慕った母親はどうやら死んだらしい。母親が死に、自分の目を気持ち悪いという人に囲まれて限界を迎えたようだ。しかし、ボクは彼に言われるまで彼の目がオッドアイだということに全く気付かなかった。まあ、前世でオッドアイは飽きるほど見てきたからか、見ても何も感じない。ボクの敵の3割がオッドアイだった気がする…そういえばボクを倒すため色々やったその果てに目の色が変わったとボクにブチ切れした人もいたなー。他にも右目に魔眼とか入れて目の色が変わった人もいたなー。
「ボクはきもちわるい、とかおもわないけどねー。じぶんでかえるよりはキレイなんじゃないのかなー?」
ボクの言葉に、あきらクンは目を見開いてボクを見た。そんなに見ないでよ、穴が開いたらどうしてくれるの。
「ぼくのめ、きれい?……ありがとう」
にっこり笑ったあきらクンは本当に嬉しそうだった。まあ、ボクが悩みを解決したなら誇らしいものだね。オッドアイって生まれつき出てくる人もいるんだねーボクの敵にも教えてやりたいよ。君らのオッドアイはあきらクンの足元にも及ばないんだって。
それからボクがかくれんぼの事を思い出したのは、あきらクンと別れてお手伝いサンが迎えに来る時間に、かずまクンが泣きそうな顔で謝った時だった。「みつけられなくて、ごめん」なんて謝るなんて律儀な子だね。やっぱりこの子は将来、大物になりそうだなー。
かくれんぼをする際には、探検しすぎないように注意しよう。いけないものを見てしまう可能性が高いからね。ただ、新たな出会いがあったら、その時は思い切って声をかけてみよう!
次話で幼稚園編は終わる予定です。