第一話 幼稚園で子供らしいこと以外はしてはいけないの?
幼稚園編は3~5話くらいを目途に終わらせる予定です。
ボクは3日ぶりに幼稚園に行くことになった。この3日間、ボクは喘息で休養を取っていたのでこの家で働く30人のうちの10人のお手伝いサン達を巻き込んで双六をしていた。子供の我儘はあっさり通り、5人は少なすぎるとごねたボクの我儘を通した。これだから貴族は鼻にかける人たちが多いんだよ。ちなみに結果はボクの一人勝ち。周りを蹴落としながら進むのって快感なんだよねー。
僕の通う幼稚園の名前は『うぐいす幼稚園』。「うぐいす」ってなんだろう。「動く椅子」が訛った単語かな?とにかく不思議な名前の幼稚園に通っている。ボクの組は「うぐいす組」で、年長の子達の組だよ。他にも「ひな組」、「たまご組」なんてあるんだけど、もしかして「うぐいす」って成鳥のことを言うのかな?この世界の独特の言葉だね、覚えておこう。うぐいす組にはボクを合わせて20人が在籍していて、このうち、よく休むのはボクだけのようだ。みんなは空気が汚染されているのに、気にならないのかなー?
「おはようございます、縁くん。久しぶりねー体調はどうかしら?何かあったら先生に言ってね」
「おはよーございますーせんせー。うん、わかったー」
幼稚園に入ると挨拶してきた名前の知らない先生がボクに挨拶してきたので、ボクも挨拶を返す。この世界の人って律儀に挨拶するんだね。ボクの世界の人達は言葉じゃなくて拳(または剣や魔術など)で挨拶する人が多いから驚きだよ。言霊を大切にしてるのかな?偉いねー。
先生を通り過ぎて教室に向かう。幼稚園なのに豪華な装飾を付けたドアを開けると、ボクより先に来ていた子供たちが一斉に振り向く。いち早くボクに気付いた子がボクに駆け寄ってきた。名前なんだっけなー。
「ゆかり!びょうきってははうえがいってた!だいじょうぶなのか?」
「うん、だいじょーぶ」
ボクはうぐいす組の中で人気があるらしく、一日休むだけでみんな心配してくる。みんな心配性だなーボクは双六できるほど元気があるのに。あ、みんなも誘っておけば良かったかなー?
「よかった!ゆかりくん3にちいなかったからみんなしんぱいしたんだよ!…しんぱいってなんだろう」
「なにかあればいえよ。ぼくはおまえをまもってやるからな!」
亜麻色のふわふわな髪をした男の子が慣れない単語を使ってまで気にかけてくれる。名前は知らないけど、ちょっと嬉しい。しかし同じく名前の知らないもう一人の黒髪の男の子は何を言っているのだろうか。喘息からボクをどう守るのだろうか。もしや神社とか言う神聖な場所で行う祈祷というものかな?将来見どころがある子になりそうだね。
しばらくお喋りをしていたら、先生が来て朝の日課である体操を行う。何の為にやっているのか理解に苦しむが、みんな楽しそうにしている。ボクはあまり動きたくないのでそこらへんで逆立ちでもしておく。
「縁くん!?こんな危ないことしちゃダメよ!」
「なんでー?」
「頭を打ったら大変でしょう!?もうこんなこと二度としちゃダメよ」
「えー」
先生は言葉に責任を持たないのかな。「二度としちゃダメ」という言葉に縛られたら将来逆立ちの授業をするときに大きな障害になりそうだ。言うなら「もっと大きくなってから」だと思うのだけど。あまり好きになれないなーこの先生。
自由時間になってみんなは外に出て砂遊びをしている。中にいる子はままごとをしているようだ。誘ってくれた子もいたが丁重に断ってボクは家から持ってきた本を読むことにする。
この本は誰かがトイレに忘れてしまった本だが、内容が興味深かったので誰にも言わずに読んでいる。ちなみにタイトルは『国内外の輸入と輸出から読み取る近年の経済状況』という。置き忘れた犯人は恐らく父親だと思われる。ボクが内容に感心しながら読み進めていると、先生がやってきた。
「縁くん、何読んでる…っ!?ゆ、縁くん…これ、わかるの?」
「うん、おもしろいねー。さいきんは、ちゅうごくってくにからのゆにゅうとゆしゅがおおいんだよねー」
「そ、それより!!縁くん、みんなとお外で遊ばない?」
「やだー」
ボクは先生の誘いを断り、本を読み続ける。先生は何度かしつこくボクに遊ぶように言ってきたが、ボクが反応しないと諦めてどこかへ行った。全く、そんなにしつこいから結婚できないんだよ。
それ以外はいつも通りの一日で、夕方になればお手伝いサンが迎えに来てくれた。先生が何か言っていたようだけど、今日のことかな?報告するほどでもないと思うんだけどなー。お手伝いサンが驚愕した顔でボクを見ていたからやっぱり何かあるのかな。前世ではこの歳には序列1位になって世界を侵略し始めていたんだけど、やっぱり世界の壁って厚いね。
それにしても、幼稚園って子供らしいこと以外はしてはいけないのかな?
縁くんは自由奔放。やりたいことをやる。そこに善悪は存在しないのです。