私はモブになりたい。
乙女ゲーについては詳しくないのでかなり適当です。ご了承ください。
『』は(主に主人公の)心の声です。
突然だが、私は転生者である。前世ではアニメ好きなちょっとオタクな普通の大学生だった。
ある日、そうあれは3歳の誕生日なる少し前だったろうか、唐突に自分が転生者で、前世の記憶が所々残っていることに気付いた。前の自分の名前や死因など個人的なことはぼんやりしてあまり思い出せないが、普通の常識や勉強したことなどの情報はおぼえており、なにより3歳児にはない理性ある知性が身についてしまった。
その弊害として幼児プレイを耐えるために無表情に、また年相応な言動をするために考えてから言葉を口に出す癖が極まり口下手=無口な少女になっていた。
それでもそれなりに順調に人生を歩んでいたのだ。
私は自分で言うのもなんだが割と整った顔立ちだったし、勉強も前世の記憶をいかして優秀な方だった。ちなみにその顔と無口・無表情といった自分と特性を鑑みて中学の頃から伊達眼鏡をかけ、クール系にしてみた。おかげで無口・無表情でもぼっちにならず友達もでき、なんとかやれていた。
そんな私も今年の春に高校に進学して新たな生活がはじまるはずだった。
だが、そのおめでたいはずの高校の入学式がまさかの悪夢のはじまりになるとは……。
そう、入学式で挨拶をした生徒会長を見た瞬間、私は気付いてしまったのだ。
――ここが乙女ゲーの世界なのだと。
その名を「君の心に花ざかり」通称「君花」。君花はこれを題材にしたドラマやアニメが放送されており、ゲームをやったことのない私でもある程度内容を知ってたほど有名な乙女ゲーだった。内容はよくある転校生な美少女とそれを取り巻く生徒会のイケメンたちの恋模様だった。
まあ、内容はこの際どうでもいい。いや、よくはないがひとまず置いておく。転生だけでも驚きなのに転生先が乙女ゲーの世界ってどんだけ~!(…古い) あっ、でもイケメンいっぱいで目の保養になるかも…とか思っていた私にさらなる衝撃が!!
会長が挨拶をする後ろに控える生徒会メンバーの中に美少女が!しかもよくよく思い返してみると会長の彼は3年生と紹介されており、ゲーム開始時より一学年上がっているのだ。そしてメンバーの様子を観察した。
結果その時、私は心の中で絶叫した。
『もう逆ハールートで攻略済みかよっ!!!』
誰が想像しただろう。乙女ゲーに転生したにも関わらず、その展開に巻き込まれも傍観もしないうちに攻略し終わっているとは……。
別に主人公になりたかったわけでも、ましてや傍観者になるつもりが巻き込まれていつの間にかウフフな展開とかになりたかったわけでもないが、(むしろ完璧な傍観者として遠くから眺めたかった派だが、)なんだろう。このそこはかなく漂う虚しさは……。
この時、私はこのまま彼らの事など忘れて、自分の高校生活に取り組むべきだったのだ。
後に悔いると書いて“後悔”。あれから何度この言葉を思い浮かべただろう。些細な好奇心が己を悪夢へと導くことになろうとは……。
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まだ明るい未来が見えていたあの春から時は流れ。
体育祭、文化祭といったイベントの終わりを受け前期生徒会が引き継ぎ・引退をし、新たな生徒会が発足していた。といっても3年の4人が抜け、2年のメンバー3人はそのまま残留、そしてそこに新たに1年が3人加わっただけで、しかも引退したはずの3年のメンバーが度々来るのであまり変わり映えした感がない。ちなみに私もそこに加わった1人である。
我が校の生徒会はかなりの自治性を有しており、だからこそ秩序ある自治のため、受験を控える3年は別にしても各年の生徒が必ず在籍すること、また自薦他薦の他に教師による推薦によって最低各学年1人は在籍することが義務付けられており、私はその教師推薦で生徒会に入った口である。
教師から生徒会入会の打診があったときは、キラキラしいイケメン&美少女を間近で見れて楽しそうだし、何事も経験っていうから入ってもいいかとか気軽に引き受けたが、そんな自分を殴り飛ばしたい今日この頃。おそらく他薦により同期に入会した1年トリオの2人も同じ気持ちであろう。
心の暗雲に比例して、私たち1年トリオの結束は日々強まっていくのだった。
ここで逆ハーメンバーを簡単に紹介しよう。
まず主人公たる転校生美少女こと花咲美姫。
2年C組 生徒会書記
ゆるくウェーブのかかった栗色の髪に、翠の瞳。ハーフらしい。
天真爛漫で誰にでも優しい天使のような女の子(某チャラ男談)。
ちなみに私はこいつも転生者で逆ハーを目指すような痛い腹黒ではないかと推察。
ハーレム要員① 西園寺御門
3年A組 前生徒会長
赤い髪を跳ねさせ、鋭い眼光をしている。瞳は黒。
オレ様な西園寺財閥の御曹司。カリスマタイプ。世界は自分を中心に回っていると思っている(某ドS眼鏡談)。3年間ずっと主席。学園の多くの生徒からは御門の名前を文字って「キング(御門⇒帝⇒王⇒キング)」と呼ばれている。
ハーレム要員② 司貴輝
3年A組 前生徒会副会長
黒目黒髪で、長めの髪を後ろで一本に結び、銀縁の眼鏡をかけている。
冷静沈着な参謀タイプ。優しげな丁寧な口調に反し、メンバーの中で一番ドSで腹黒(某ボケンズ談)。御門とは幼馴染。成績はずっと次席。わざと次席を狙ているとの噂あり。
ハーレム要員③&④ 甲斐田右京(兄)&左京(弟)
3年B組 前生徒会書記(右京)、会計(左京)
髪も瞳も染めたりカラコンを入れたりと年中変わっているため詳細不明。但しいつも二人は色形が同じ。一卵性の双子で二人の見分け方は、泣きホクロの位置。右京が右目の下、左京が左目の下にある。
二人でいつもふざけていて無邪気そうに見えるが、実は計画的愉快犯(某チャラ男談)。誰彼かまわずあだ名で呼ぶ。
ハーレム要員⑤ 榊光流
2年A組 現生徒会長
蜂蜜色の髪に蒼のカラコン。
女好きのチャラ男だが、意外と真面目な常識人な面もある(某ドS眼鏡談)。
ハーレム要員⑥ 一条狼
2年C組 生徒会副会長
黒の短髪に黒い瞳。
美姫の幼馴染。小さい頃から剣道をやっていてその腕は全国クラス。比較的高身長な生徒会メンバーの中でも一番大きく、がっしりしている。無口。狼というよりは犬(某オレ様談)。
こいつらが毎日毎日来る日も来る日も、主に生徒会室でキャッキャウフフ…とやってる視界の端で1年トリオが黙々と業務をこなす日々である。しわ寄せは来るは、頭湧いてんのか的な発言を向けてくるは、とにかくツッコミとストレスだらけの日常に、一日も早く任期があける日を心の友共々に待つばかり。
逆ハー攻略後の奴等に巻き込まれるなんて地獄だ。人の目の前でイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ…………(エンドレス)
はっきり言おう!お前らは「君の心に花ざかり」じゃない。「君の頭に花ざかり」だ!!
頭に花咲かせてないで他の事しろよ! 3年、受験どうした!? 2年、生徒会の仕事しろ!
「もうやだ。だーれーかー、助けてくださーい!!!
私に癒しを……!!」
日々荒む心、擦り減る神経……そんな私の日常のひと幕をお届けします。
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――とある放課後の生徒会室にて
「美姫、あなたがこの間ノワールのケーキを食べたいと言ってたので美姫の為に買ってきたんですよ。一緒に食べましょう」
『おいおい、そんな生もの学校に持ってくるなよ…。ってゆーか今までどこに置いてたんだ?』
「わぁ嬉しいですぅ~。貴輝センパイ、ありがと~。
あっじゃあティータイムにしよう!美姫がお茶入れてくるよ~ っきゃ!!」
立ち上がった少女の後ろ左右から同じ顔の男たちが抱き着く。それに顔だけ振り向くと少女は頬を膨らませて言った。
「もぅ!右京くんも左京くんもすっごいびっくりしたよ~」
「「ごめんね~。だってヒメが可愛いんだも~ん」」
『グハッ』
「え~、そんなことないよ~。ヒメなんて~普通だもん」
『おい!今、自分で“ヒメ”って言っちゃってるぞ』
「何言ってるの。ヒメは誰よりも優しくて~あま~いにおいがして~かわいいよね~、右京」
「うんうん、そーだよ。ちょーかわいいに決まってるじゃん!ヒメは俺たちのお姫様だよ、ねぇ左京」
「そうそう!だから… 「「貴っち、抜け駆け禁止!!」」
「(ちっ) 何のことですかね」
「わー貴っち、しっらじっらしー」
「貴っちの腹黒ー」
『……それは合ってるな』
「煩いですよ、ボケズ」
「「わぁ貴っちがいじめる~。ヒメ慰めて~」」
ガラリ
開かれた扉から新たに3人が入ってきた。
「おい。貴様ら何してやがる。
美姫、お前はこっち来い」
「「キングの横暴! ぶーぶー」」
『“ぶーぶー”って……。 いい年した男がッキモ!』
「うるせー。いいから美姫を放せ」
「本当だよ、マジ何してんすか~?あ・ん・た・た・ち・はっ」
ッゴ
「「っいった~!! 殴ることないじゃん、ひかるん」」
「自業自得っすよ。
美姫ちゃん大丈夫?」
「あ、うん」
「……ミーはやさしいな」
「そんなことないよ~。 心配してくれたの?狼」
「……(コク)」
「ありがと~」
「おい、美姫、いい加減こっち来い」
「え、は~い
きゃっ! 何で御門センパイの膝の上なの~」
「お前はここにいりゃーいいんだよ」
「「キングずる~い!」」
「そうですよ、いくら御門でも許しがたいですね」
「ホントっすよ」
「……」
「うっせー」
「もう!みんな私の為にケンカしないで!!」
『言った―!! あの台詞をマジでいう人間っているんだ…』
「「「「「「……ごめん」」」」」」
「うん。美姫はみんなことが大好きなんだから美姫の為にケンカしないでね!
じゃあ皆でティータイムにしよ!貴輝センパイが美姫のために買ってきてくれたケーキがあるんだよ」
『…………』
「そうでしたね。美姫を悲しませるなど姫の騎士失格ですね。
さあ、向こうのソファーの所で食べましょうか」
『寒っ、くさっ』
「「ケーキ!ケーキ! ヒメ、早く食べよ~」」
『子供かっ』
「うん。あ、お茶入れるんだった~」
「ああ、美姫ちゃんは座ってて。お姫様にそんなことさせられないよ」
「光流くぅん。でもぉ~…」
「おまえは俺らの側にいりゃーいいんだよ」
「そうだよ」「……(コクコク)」「「おいでおいで」」「座ってらっしゃい」
「御門センパァイ、みんな~。
うん。ありがと~。みんな大好き!!」
「「「「「「俺(私)(僕)も愛してる」」」」」」
『他所でやれやーーーーー!!!』
そんな少女と6人のイケメンによる逆ハー劇場が一段落すると、オレ様な声が生徒会室の端で黙々と仕事をこなしていた(実はこの教室には私を含めてあと3人存在していた)私にかかる。
「おい、そこの眼鏡の女。茶入れてこい」
『おいー!!』
「そんなぁ~。悪いよ~」
『悪いなんて思ってないだろ。立つ気ないのがまるわかりじゃー!』
「いいんですよ。そもそもお茶入れは一年生の仕事のようなものですし。
それに万が一、美姫の美しい手が火傷でもしたらどうするんです」
『ちょっと待て、そこの色ボケ!私の手なら火傷てもいいんかいっ!』
「貴輝センパァイ。美姫の心配してくれるなんて~嬉しいですぅ~」
『お前もかー!!』
「悪いけどお茶頼むよ。ついでに今日はお茶入れたら終わりにしていいよ。残りはまた明日の朝よろしくね」
『結局お茶は入れさせるのかよ! しかも朝から仕事って……お前らがやれ!』
「「お茶まだ~?」」
『黙れ、ボケンズ(ボケ+ツインズ(私命名))!』
「え~、かわいそうだよ~。きっとあの子、普段は皆みたいなカッコイイ人といられることなんてないから少しでも一緒にいたいんだよ、きっと…」
『おいおい、さり気なく人のこと貶してるな。てゆーかあんな残念なイケメンどもなど願い下げだよ』
「それを言ったらあっちの男の子たちもヒメといたいからまだ残ってるんじゃな~い?」
「そうかも。でもヒメは僕らのヒメなのにね! プンプン」
『“プンプン”ってお前は佐藤〇緒か!
……隣から冷気が流れてきてるんですけど。ボケンズめ、死にさらせ』
「まったく、美姫の周りには何度駆除しても虫が湧いてくるんですから、ここまでくると美姫の可憐さは罪ですね。貴女は私だけにその色香をまいていればいいんですよ」
「ごめんなさぁい。でもぉ~、美姫ぃ、なんにもしてないのにみんなのこと惑わせちゃうみた~い」
『!!!!!……虫が湧いてるのはお前らの頭の中のほうじゃーっ!!』
「……ミーは悪くない」
「狼っ、ありがと~」
『悪いのは頭だもんね…』
「そうだよ、そうだよ。てゆーかこれ以上ヒメの近くにいられるの不愉快だよね~」
「そうだね、不愉快だね~。てなわけで君たち早く帰りなよ。
あっ、もちろんヒメのことはさっさと諦めなよ~」
「そうだな。この際はっきり言っておくか。
悪いが俺も美姫ちゃんのことしか考えられない。悪いな。
だがもし美姫ちゃんに何かしようとするなら容赦は出来ない」
「……(コク)」
「「そうそう!」」
「つーわけだ。
わかったらさっさと茶いれろ。俺の美姫が待ってんだろ。
んで帰れや」
「………………はい」
この時もまた、私たち一年トリオの心は見事に一つになっていた。
『『『爆発しろっ!!!』』』
そんな内面を一切さらすことなく私たち一年トリオは淡々と帰路につくのだった。
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そして今日も私は、寝る前の恒例儀式として乙女らしく星に願いを掛けるのだ。
「私を生徒会に推薦した教師どもと、あの逆ハーどもの頭に十円ハゲができますように……」
そんな細やかなだが120%本気の願掛けを済ませると、ベッドに入り目を閉じて思う。
あんなメンドくさい連中と関わらずにすむ平穏を…。
『私はモブになりたい……。』
突発的に思いつき書いたのでかなり荒いと思います。
それでも最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
本当は1年トリオの会話とかその他もう少し書きたかった気もするのですが力尽きてしまい……(*´Д`)
もし読んでくださった方がいたらまた書くかもです。
いつかまたお会いできる事を祈って……