小さなことで落ち込む自分
電話を切った後しばらく天井を見上げたままだった。
夏騎の言うように冬哉が夏騎に気を利かせての事なら、わざわざ夏騎が携帯番号を聞きたがっているというような事は言わないはずだ。
やはり、冬哉は春菜をからかったのだろうか。今は仮にも憧れていた冬哉にからかわれるのは誰にそうされるより堪える。
手にしていた携帯が鳴った。
すぐにディスプレイを見ると、同じクラスの例の三人ぐみの一人、水口葵だった。
「どうしたの?」
「ごめん、寝てた?ちょっと聞きたいんだけど、数?50ページからの問題の事なんだけど」
細くてたどたどしい声が聞こえた。
「数??」
「うん、今、教科書見てたんだけど私、全然わからないんだけど」
このクラスに入って一番驚いたのは数学の授業の進む速さだ。とにかく余裕がないのだ。呑み込む前にもう次に進んでいるという状態が授業があるたびに繰り返される。週一回の塾に通っても追いつかない。
三人組の一番の悩みの種だ。
「ごめん。私に聞かないで。私も分かんない」
教科書の問題も見ずに速攻で答えた。
「塾の先生にも質問して、教えてもらったんだけどわからないの。どうしよ?」
もし、呑み込んでいても塾の先生より上手に教える自信は全然ない。
「偉いね、葵は。勉強してたんだ。明日、お昼休みに茜に聞いてみようよ」
「うん、分かった」
{多分葵は一人で直接、数?の先生に聞きに行けないから道連れを作ったんだ。そんな葵は何となく自分に似ていて優しくしてあげたくなる}
急な葵の電話が冬哉の事を少しだけ忘れさせてくれた。
あまり、気にしないでおこう。
もし、からかわれていたとしてもいつものように壁を作って、今までどおり毎日を過ごせばいいだけだ。
半分乾きかけている髪にドライヤーをあてながら鏡を見た。
秋穂ほど綺麗な顔なら考え方とか変わっていただろうかと自分に問いかけた。