母反撃
家に帰るとすぐにキッチンへ行き空の弁当箱をテーブルに置いた。
専業主婦の母は洗濯物を取り込んでいるのかキッチンにはいなかった。
そのまま2階にある自分の部屋へと向かう。
部屋に入り鞄を置くとすぐにベットへ倒れ込んだ。
見なれた天井を見上げる。
西日がきつく差し込んでくるので目を閉じた。
そして、冬哉と夏騎の顔を思い出した。
体型も雰囲気も全然違う二人。
本当に仲がいいのだろうか?
でも、似ているところはある。
二人とも自分とは違い他人に必要とされているところだ。
夏騎は学校の剣道部にはいなくてはならない存在だろうし、冬哉はクラスや生徒会役員の中
でいなくてはならない存在だ。
そうなる事で行動や言動に自信を持つことができ、光輝いて見える。
春菜は小さい頃から何につけても劣等感の塊のような子供だった。
あからさまにイジメにあうという事はなかったが、ドッチボールでは一番
先に狙われ、いつも外野に回されたり、走りも遅かったので
全員参加の学級対抗リレーなどはみんなに追い越され半泣き
で走った記憶がある。
そんな中でクラスで一番走りの早い男子にバトンが渡ると誰よりも心の中で彼に声援を送っていた。
一人でもいいから抜いてと。
遅れを挽回してと。
自分はそんなリレーの時間だけ、彼を必要としていた。
今思えば虫のいい話だが今もその頃と対して変わらない自分がいる。
今日、自分を有り難く感謝してくれた夏騎の笑顔が浮かんだ。
春菜は起き上がり、制服を脱いで部屋着に着替え始めた。
リビングに向かいソファに腰掛けテレビのリモコンでスイッチを入れる。
夕方のワイドショーが始まっていた。
母がキッチンから驚いたようにリビングに入ってきて
「春菜、お弁当に入れたフルーツ全部自分で食べたの?」
「ううん。男子にあげた。あんなに食べきれるはずないじゃない」
「せっかくおじいちゃんから送ってもらったフルーツ家族全員食べないから
意地になってたくさん詰めたのよ」
「もう、食べられないって思っているんだったら入れないでよ」
母はたまにこんな能天気な事をする。
「春菜……もしかして……あれだけのフルーツ平らげてくれるような彼氏が出来たの?」
母の顔が輝いた。
「出来てないっし」
「春菜、前から言っているけど彼氏が出来たらすぐに言ってよ。お母さん応援するから」
「応援いらないし」
「はぁ。せっかく春って名が付いているのにどうして青春がこないのかしら」
「名前、関係ないし。もっとかわいい顔なら青春も出来たかもしれないけど親に似ちゃったからなぁ」
「あーら。顔は十人前でも春菜はお母さんに似ておっぱい大きいから男の子飛びついてきそうだけど。現にお父さんは飛びついてきたわよ」
警察官の癖にやくざ顔の父が母のおっぱいに飛びついた想像をしてしまい気分が悪くなった。
「娘にそんな事言わないでよ。はずかしい」
母はふんふん、っと言いながらしてやったりの顔をしてリビングを出て行った。