冬哉と夏騎
携帯番号とメルアドの書かれたメモ用紙を受け取ると冬哉はすぐに立ち上がり
「夏騎に渡しとく。ありがとな」
「ううん」
冬哉が教室を出ていくまで春菜は席に着いたままだった。
一人になって大きくため息をついた。
冬哉が自分に気を向けてくれた。驚きだ。自分の姓が杉本だっ
て知っていたんだ。
これも驚きだ。
そう思うのは大げさではなく、このクラスで自分の存在はそういうものだと自覚していた。
春菜を含むいつもお昼を一緒に食べているメンバー三人組はクラスではそういう位置にある。
三人ともよく似た性格で、クラスの中で何も悪いことをしていないのにコソコソ行動するタイプで自分たちからクラス内で出来上がった大きな輪に入ることしない。
入りたくないわけじゃないけど入り込めない。
一応このクラスは国公立進学組で理数系を除けばこの高校では一番成績のいいクラスだ。
そんな中にいる春菜たちは頑張って必死にしがみ付いているいわゆる落ちこぼれ寸前組。
それとは対照的に回りからの推薦だっただろうが生徒会長に立候補して生徒会長になった秋穂は何につけても自信ありげで輝いて見える。
そんな彼女を中心にクラスの輪が出来上がって、春菜たちはいつの間にかその輪からはじかれていた。
月日を増すごとに目に見えない厚い壁が教室に出来上がっていたのだ。
でも、今日その壁の中から、そっと優しい手が差し伸べられたような、そんな気がした。