「夏の海ってどんなとこ?」
さらさらと降る粉雪が、モミの木に降り積もっていた。なんとなく、下から枝をちょっと引っ張ってみると、雪と一緒に見慣れないものが落ちてきた。
何かの植物で編んだものだ。丸い円盤状になっていて、中心がくぼんでいる。
人差し指をくぼみに入れて、くるくると円盤を回転させてみた。ちょっと面白い。
これは、いったい何だろう?
ちょっと思いついて、円盤を自分の頭にのせてみると、思ったとおりくぼみはわたしの頭にすっぽりとはまった。
冬に生まれて、春には溶けていなくなってしまう雪女のわたしだけれど、天狗のおじいちゃんに聞いたことがある。
これはきっと、「麦わら帽子」というやつに違いない。このあたりは、夏にはハイキングコースらしいから、きっと、誰かが落としていったんだろう。
そっと雪を蹴って、宙へ浮かぶ。そのまま風にのって、モミの木のてっぺんにそっとつかまった。風に揺られてふわふわとしながら、飛ばされないように帽子を押さえる。
遠くに、海が見える。だーれも、いない。夏になったら、いっぱいの人が麦わら帽子をかぶったり、水着ってやつを着て海であそぶんだってさ。
夏って、どんなだろう。わたしも、水着ってやつを着て、夏の海で泳いで見たいな。
冬の間に、冷蔵庫とかにもぐりこんでたら、誰か夏の海に連れてってくれるかな?
今度、こっそりためしてみようっと。