そこ退けそこ退け 孤独の王様
そこ退けそこ退け王様が歩く
道を塞ぐと喰われるぞ
やれ行けそれ行け俺様が通る
邪魔する奴らは喰われるぞ
威張り散らしてみたけれど
蹴飛ばし怒鳴ってみたけれど
不満の穴は埋まらない
いくら獲物を狩ろうとも
空いたお腹を満たそうと
いつも何かが欠けている
何かが足りない
何が足りない?
王様は周囲に問い掛けました
シマウマは答えた
「王様!
あなたには笑いが足りないのです
わたくしが楽しませてあげましょう!」
そのあとシマウマは王様のディナーになりました
カバは答えた
「王様!
あなたには悲しみが足りないのです
わたくしが悲しませてあげましょう!」
やがてカバは王様の朝食になりました
キリンは答えた
「王様!
あなたには怒りが足りないのです
わたくしが怒らせてあげましょう!」
そしてキリンは王様のお昼ご飯になりました
三食満腹な王様
しかし何が足りないのか
誰も教えてはくれません
「誰か教えてくれないか
さもなくば皆殺してやるぞ」
「それは聞き捨てなりません」
あらわれたのは小さな野うさぎ
王様よりもはるかに小さい
くたびれた茶色のうさぎ
「わたくしはただの旅うさぎ
しかしわたしは王様に足りないものを
知っている」
「それは本当か
言ってみろ」
うさぎは答えた
「王様!
あなたには友達が足りないのです
わたくしが友達になってあげましょう!」
王様はうさぎを食べずに
うさぎと友達になりました
うさぎは王様に
愛や悲しみや笑い方や憤りを教えました
王様は闇を覗かせていた穴が
塞がっていくのを感じました
「俺様は君と出会って
悲しみも笑い方も憤りも知った
愛も知った
だから俺様はもう他人を食べられない」
「ならばわたくしを食べなさい
あなたはわたしの友達だ」
そう言ってうさぎは火のなかに飛び込みました
王様は泣きながらうさぎを食べました
そして孤独なライオンは友達というものを知りました