必要な道具
「あの人。仕事は遅いし、物覚えも悪いし、おまけに空気は読めない」
「そうそう。本当にどうしょうもないよね」
そんな陰口はどこでも聞かれるものだ。
そして、どこにでも一人はいるものだ。
何をしても上手くいかない。
「だけど、それなのに書類のデータ入力だけは早いのよね」
「そうそう。何時間も休憩なしで続けられる上に、機械がするようなエラーも一切起こさない」
それなのに何か一つだけ誰にも負けない能力を持っている。
その能力だけは他者はおろか機械にも負けない。
「まぁ、それだけ出来てもね」
「そうそう。こちらとしては助かるのだけど……」
そんな会話が取り留めもなく続く、お昼休み――。
*
ところ変わってこちらは天界。
「今度は随分と奇妙な進化をしましたね」
人間を熱心に見つめる神様に天使が言う。
神様が見つめるのは一つの能力だけが奇妙に成長した不自然な人類だ。
「特定の能力だけ他者や機械より優れていて、それ以外はまるでダメって。これじゃ、まるで……」
「道具だな」
天使の言葉を引き継ぎ神様は言う。
「人間はあまりにも長く『上の存在』に依存した生活を続けすぎた。だから、上の存在を満足させる『道具』に進化するのも不思議ではなかろう」
残酷で、端的な言葉。
人間の進化の方向が『道具』であるなんて……そんな滑稽さがあるものだろうか?




