高咲さんはちょっぴりおかしな人。
「あぁ〜、今日の3時間目体育か…体操服忘れちゃったな。」
鞄を開いてから気づいた僕は、1人教室で途方に暮れてる。頼れる男子はこのクラスに誰もいない。
棒立ちしている僕の後ろから誰かに背中をなぞられる。
「ニャッ!」
「おやおや、かいくん。何かお困りですか?」
声をかけてきたのは同じクラスの同級生。高咲さんだ。
「…今って女子保健じゃなかったっけ?」
僕は呆れた声を出しながら、高咲さんの頭を撫でる。
「かいくんの困った声がしたから飛んできた。」
「飛んできちゃったかー…。」
僕の友達、高咲さんはちょっぴりおかしい。
「体操服ないなら私の貸そっか?」
事情を話すと、頭を僕の肩に乗せながら、高咲さんが言う。
「え?ほんと。ありがとう」
「え?今好きって言った?」
「何が聞こえたんだ…。」
そんなことを話したのち、笑いながら高咲さんがロッカーに体操服を取りにいく。
こんなことしてる間に教室に人は居なくなってた。授業遅れ確定。これは怒られるな。
「はい、かいくん。」
「ありがとう。あ、でもこれ名前が書いてるよ。」
服にデカデカと書かれた高咲の文字を指さしながら、僕は高咲さんに体操服を返す。
「……どうしよっか。私が服になる?」
「何言ってんのかな本当に。」
高咲さんのボケに僕が「それじゃあ危なくて走らないでしょ」と言うと、「そこじゃないでしょ」とつっこまれる。
「そうだね。なら、ジャージという選択もあるよ?」
「この真夏にジャージか。これは焼け死ぬな。」
「もし焼かれてても美味しく食べてあげるよ。」
「本当に恐怖でしかない。」
適当に雑談をしながら、ジャージを受け取り着替えようとするが、高咲さんは微動だにしない。
「…着替えるので出ていってもらっていいですか?」
「うん。もう出たよ。これは残像だよ。」
「残像は喋んないだろ…。」
どうやら真っ正面から着替えを覗く(ガン見)するご様子の高咲さんに僕は頭を抱える。
「高咲さんに持って欲しいことTOP 3。羞恥・知能・常識。」
「テストの点数はいいよ?」
「他がダメなんだよなぁ…。」
絶対に僕の着替えを見たいらしい高咲さんに僕は仕返しをすることにする。
「…はぁ、いいよ。じゃあ、お望み通り。」
「え!え!!!」
動かない高咲さんに、僕はそう言いながら上の服を脱ぐと、高咲さんは顔を赤らめて、すぐさま教室を出て行った。
僕は高咲さんがいなくなったのを確認して、一息つく。
「…こうすればよかったのか。」
「かいくん…意外と逞しい…!!!」
誰もいない教室には、ジャージと僕だけが残った。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「起立、礼!さよーなら」
帰りの挨拶が終わり、鞄を手に取りすぐさま帰ろうとしたが、先生に呼び止められる。
「渡辺かい、高咲ちな。2人とも今日授業半分サボってたよな〜。今日居残り掃除だぞ〜?」
呼び止められた僕と高咲さんは一瞬目を見合わせて、鞄を置き、口を開く。
「自分今腹痛の急用ができました。20分が腹痛が来るので帰ります。」
「どんな急用だよ。」
「今家にお母さんがいません!帰って早く遊びたいので、居残りは無理です!」
「高咲それでいけると思ったのか?」
流石に無理か。まぁ、無理があったよな、これは。
2人で失敗だなと話しながら仕方がなく先生の話を承諾する。
「実や不本意ではありますが、優等生なんでやらせていただきます。是非!」
「優等生はまず授業をサボんないぞー。てか、2人っていつの間に仲良くなったんだ?あまり接点とかないだろ。付き合ってんのか?」
先生からの意外な発言に僕と高咲は目を合わせて、「付き合ってはないけど多分…」と前座を添えてから、笑いながら言った。
「「親友以上夫婦未満ってとこです。」」
2人で放課後の校内を歩く。部活動で外はまだ騒がしいが、文化部は今日は帰ってしまった。
「確か掃除場所は…。使われてない音楽室Bか。」
「確か楽器とかが沢山あるんだよね。行ったことないしラッキーかも」
「高咲さん楽器できるの?」
「うん。オムライスぐらいなら。」
「何言ってるの?」
本当に話が噛み合わないが、なぜか一緒にいて楽しい。そんな関係だ。
「私こっちの方やっとくね。」
…今になって先生の言葉が引っかかる。
僕たちの関係は恋愛感情のようなものはない。それは断言できる。ただ、友達、親友のような関係ではないほどの関係な気がする…。
ま、なんでもいっか!!!
僕も掃除を始めようと道具を手に取る。と、同時に後ろから耳に息をかけられる。
「ヒャァッ!!!」
僕は驚いてすぐさま後ろを振り向く。
「びっくりした?」
「音も立てずに背後を取らないで…。」
情けないビビり方をしてしまったな。
てか、高咲さんはちゃんと掃除してるのか?
「高咲さん、ちゃんと掃除した?」
「うん、完璧だよ。今からやるから」
「それを完璧とは言わないんだよなぁー。」
頭を擦り寄ってくる高咲さんを撫でながら、次は髪をいじる。
「かいくんってたらしだよね。」
「人聞きの悪いこと言わないでくれるかなぁ……」
僕はこんなこと他の人にやらないしと付け加える。
「そうだよね。かいくんは私のものだし。私はかいくんの物だもんね。」
「うわぁ、激オモ構文ありがとう。」
流石に少し引きながら、僕は手を離し箒を渡す。
「そろそろちゃんとやんないと帰れないよ。」
全然手付かずの僕たちは掃除をまだ1秒もしていない。
「もういいでしょ。帰りましょ。」
「どこに良い要素があるのかわかんないけど…。」
上目遣いでこちらを覗き込んでくる高咲さんを無視して、俺は廊下を覗き込む。
「…ま、バレないだろうしいっか。帰ろう。」
「やったー!!!かいくん大好きチュッチュッチュ。」
別に入らないファンサを貰いながら、僕たちは鞄を持ち、教室を出る。
「今日帰り道モックやろっか。」
「久しぶりのハンバーガーだぜ。高咲さん奢ってくれるの?」
「嫁にしてくれるなら」
「なら良いや。」
廊下で笑いながら歩く2人。そして、綺麗になっていない音楽室を1人で掃除する担任であった…。




