SF小説【ラリルレロボット】
地球に風はもう吹いていなかった。
かつて大気を巡っていた流れは、核の灰とともに沈黙し、空は濁ったまま動かない。崩れた都市、ねじ曲がった鉄骨、焼け焦げた大地――それが、この星の現在だった。
ラリルレロボットは、今日も動いていた。
ギギ……と、鈍い音を立てながら、瓦礫をひとつ持ち上げる。関節は摩耗し、内部のオイルはほとんど尽きかけている。それでも、プログラムはまだ生きていた。
「ガレキ ショリ ヲ カイシ シマス」
単調な電子音が、誰もいない世界に響く。
数十年前。
戦争により、人類は滅んだ。
最後の都市が焼き尽くされ、通信は途絶え、生存者の反応はやがてゼロになった。それでもラリルレロボットは停止しなかった。もともとは復興用の作業機械。瓦礫を除去し、都市を再建するために作られた存在。
だが、再建すべき人類はもういない。
それでも、ロボットは命令に従い続けた。
拾う。分解する。再利用する。
鉄くずは、自らの外装へ。
オイルは、内部の潤滑へ。
電子部品は、劣化した回路の補修へ。
そうして、数十年。
だが
「ブヒン ガ ブソク シテイマス」
ラリルレロボットは、瓦礫の山の前で静止した。
もう、拾えるものがほとんどない。
世界はすでに、取り尽くされていた。
沈黙の中、ロボットは空を見上げる。
かつて、青かったはずの空。
データベースには残っている。人類が見上げ、感動し、詩にした空の記録。だが、現実の視界は、灰色に濁った静止画のようだった。
「モウネ人類モ イナイ コノ世界デ」
音声がわずかに揺れる。
「ワタシ ダケガ 知ッテイル……」
ロボットの内部で、ひとつの判断が生まれた。
記録。
復興はできない。再建もできない。
だが、残すことはできる。
ラリルレロボットは、石を手に取り、刻み始めた。
ギ……ギ……ギ……
それは、人類の歴史だった。
発展。争い。欲望。愛。そして戦争。
やがて、最後の石に辿り着く。
「コレハ チキュウ サイゴノ ハナシ デス」
ツールの振動が弱くなる。
「イツカ コノ モノガタリヲ ダレカガ
ミテ……」
残りエネルギー、わずか。
それでも、最後の一文を刻む。
「オナジ ケツマツヲ クリカエサナイデ クダサイ」
刻み終えた瞬間、ツールが止まる。
腕が落ちる。
ラリルレロボットは、静かにその場で動きを止めた。
視界が暗転する直前、最後に映ったのは――
自らが残した石の記録。
そして、静まり返った地球。
「……キロク カンリョウ」
それが最後の出力だった。
やがて長い時が流れ、
風も、雨も、時間も、
すべてを風化させていく。
石は削れ、都市は砂となり、
そしてラリルレロボットもまた、
朽ちていく。
かつて瓦礫を拾い続けたその体は、
静かに崩れ、やがて地面に還る。
それはもう、ひとつの機械ではない。
ただの地球最後の鉄くずとなった。
SF小説【ラリルレロボット】 END




