043 真壁透
オフィスに戻ったが、すんなりと解放された。
西岡はすっかり相馬達を見放し、須藤に対しての興味すら薄れたようだった。
部屋を出る前に「明日も必ず来い」とだけ強く命じて来た。
真壁によると、変に絡んで来ないので気は楽かも知れないが、あの状態は非常に危険らしい。
思い通りにならない人間を、壊れたオモチャくらいにしか思っておらず、いつ危険な命令が来るか分からない。何かしらの実験に使われてもおかしくない、と。
そして今日の事もあり、長谷川は相馬を警戒し、真壁に監視を命じたらしい。
「てわけで日中なら会えますよ。夜は急な連絡に対応できるようにしなきゃいけないので、逆に無理ですが」
と言うので、昼休みに会社近くの喫茶店で、凛を除く三人で集まる事にして解散した。
凛は残念そうにしていたが、学業を優先して欲しい。
出社して仕事をこなす。最近は定時に帰りたい思いもあり、効率よく動けている。
相変わらず新規案件も持ち帰る事もできているので、定時きっかりに帰ったところで上司から何か言われる事もない。
石上に「なんか変わったな。ギラギラしてる」と言われたが、よく分からない。
昼休みに約束通り、喫茶店へ行くと、ボックス席に一人で座っている須藤がいた。
ここは会社から近いが、軽食くらいしか置いてない。それも、提供にそれなりに時間がかかるので、会社の人間が昼に使うことはほとんど無い。
軽く声をかけて向かいに座る。
「よぉネェちゃん、ひとり?隣いい?」
「ふっ、セリフ似合わねえ〜」
「時間大丈夫か?」
「大丈夫、休憩の外出ついでに、備品の買い出しに行くってことにしといたから。ちなみにその買い出しは先に済ませてきてある」
とソファに置かれたエコバッグを指差す
「しごでき〜!さすがです〜」
本当に流石だ、サボりにも余念がない。
仕事ができる人間は、力の抜きどころも上手いというのは本当のようだ。
営業職の相馬は大体いつも時間の融通が効く。
一応は会社の規定で、12時から1時間休憩とは設定されているが、移動も多く、人を相手にするとなっては時間通りに行く日の方が少ない。『休める時に勝手に休む』というのが暗黙の了解となっていた。
二人共ランチセットを注文する。飲み物とパスタかサンドイッチの軽食のセット。
飲み物は当たり前のように、揃ってコーヒーを選ぶ。
店員が店の奥へ消えると、本人の到着までに軽く打ち合わせる。
そうしていると、食事より先に真壁が到着する。眼鏡をかけているのは変装だろうか。
「こんにちは。翔太さん、玲奈さん」
「おつかれー。まぁ座って座って」
スペースを空けて、相馬側に座らせる。
食事は必要ないようで、アイスティーだけを注文した。
忘れないうちにと、まずは連絡先を交換する。
お互いの事を少し話すと、年齢は21歳で、近くにある実家から、西岡の所に通っているらしい。
夢の中の印象では気弱でネガティブだったが、落ち着いて話すと、意外によく話す。
眼鏡は普段の方がむしろしているそうで、尾行等をする際は、特徴を消すために逆にコンタクトにするそうだ。
「なんか色々考えて監視してたんだねぇ。真面目だ」
「真面目な変態なんだよな。一番こえーよ」
「うっ、なんか翔太さんは僕に当たりキツくないですか」
「こっちは家までバレてんだぞ。あ、玲奈の家は?」
「知りませんよ。・・・タクシーで巻いたでしょあなた達」
「やーっぱりついてきてたか!警察だ警察」
「ぁあっ、ごめんなさいごめんなさい」
またテーブルに額をぶつけんばかりに頭を下げる。
「翔太、あんまりいじめないの」
「このくらいにしといてやるか。仮にも仲間だもんな」
その言葉を聞き、真壁の表情は一気に明るくなる。
タイミング悪く、テーブルにランチが運ばれてきた。店員にどう見られていただろうか。
「最終確認だぞ。本当にこっちに付くんだな?正直言うと西岡達の方が全然強いぞ」
「いいんです。僕、感動したんですよ。あの社長に立ち向かう玲奈さん。僕でも役に立てるかも知れないと気付かせてくれた翔太さん。ここしばらく罪悪感ばかり抱えていました。胸を張れるようになりたいんです」
「うんうん、照れくさいけど真っ直ぐで良いねぇ。翔太も見習って欲しいわ」
「ブレーキ付いてねえのかってくらい真っ直ぐに突っ込んで行く女もどうかと思うけどなー」
二人の小競り合いを楽しそうに眺めている真壁。
「あの、二人はやっぱり付き合ってるんですか?」
「「はあ!?」」
「いや、仲が良いですし、アイコンタクトで意思疎通してるとこも何回か見てましたし、言葉を必要としない関係すごいなーって・・・あれ?」
「ふっ、真壁くん?大人っていうのはそれくらいできるものよ?」
コーヒーカップを持ち、足を組んで遠くを見る須藤。
そんなに歳が変わらない事は、先程確認済みだが、ここは歳上としての格を見せつける場面と判断したらしい。
(こいつの大人像どうなってんだよ)
「えっ、でも社長に『大事な人を危険な目に合わせて自分は安全なとこで偉そうにしている人間の方が賢いと言うなら私はそうじゃなくていい!』って言ってましたよね」
「一字一句違わずに!?掘り起こさないでよ!」
「いや、本当に格好良かったので、つい」
「大事な人『たち』ね!あれは言葉のあや!」
「そうなんですか。恋人というよりバディって事ですね。分かりました」
(耳まで真っ赤にしている玲奈を初めて見た。なかなかやるな真壁透)
相馬はこの天然の前で下手に喋ると、自分も墓穴を掘りかねないと思い、沈黙を選択していた。
その後もランチをつまみながら、しばらく会話をして解散した。
「じゃあまた今夜、待ってます!」
と先に店を出る真壁。
三人でいるところを万が一にも見られないためだろう。隠密行動が板につきすぎている。
少し遅れて店を出て、二人肩を並べ会社へ向かって歩く。
「俺らはいいのか?一緒にいるとこ見られて」
「同期が話してて何がやましいってのさ。みんな良い大人なんだから大丈夫でしょ。あ、ていうか翔太さぁー・・・ぁ?」
須藤の言葉が止まり、目を大きく開いて何かを目線で追っている。
目線の方を見ると、須藤と似たようなスカートスーツの女性。
どこかで見たことある若い女性、須藤の後輩である事務の子だ。つまり同じ会社の社員。
向こうも大きく開いた目が合っているだろうが、無言で二人の前を横切って行く。
「・・・今のは、いいのか?」
「ぁああ〜〜〜〜〜」
頭を抱え、その場にしゃがみ込んでしまった。
会社では相馬としか呼んでいない。それは後輩も知っている。
二人でいる時は名前で呼んでいるのだろうか。
そんな憶測が噂話となって、しばらく社内の一部部署で囁かれる事となった。




