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041 監視者


しばらく街を歩くが、大男は見当たらない。

あんな風貌だ、目の届く範囲にいたらすぐに分かるはずだ。

そもそもあれは人間で、自分達と同じように生活をしているものだろうか。

カフェでゆっくりしたり、服屋で新作を手に取ったりするのだろうか。

それとも路地裏や、地下、廃墟のようなビル等、人が立ち入らない場所で、息を潜めているのだろうか。


(探すと言っても、どこを?)


やはり相馬がおとりとして派手に動き、誘き出すしかないのか。

しかし、今日は二人も一緒にいる。

見つけるならまだしも、見つかるのは無しにしたい。

そして、このまま何の策も無く、遭遇してしまったらどう対処したものか。

闇雲に立ち向かって行くだけでは、命がいくつあっても足りない。


(今会ったら、死ぬまで戦わざるを得なくなる)


では報告せずに逃げるのか。


(監視のいる可能性を捨てきれないうちは無理だ。報告されて、バレたら何をされるか分からない。身動きを封じられて、あれを呼び出すエサにでもされたら完全に詰みだ)


「うーん・・・」

「何考えてるんですか、翔太さん」

「お、凛ちゃん相馬のこと名前で呼ぶんだ?」

「いやー、あのチームは好きになれませんけど、名前呼びのルールだけはちょっと羨ましかったなんてー。あはは・・・いいですか?」

「あ、ああ、別に凛ちゃんが良ければ名前でいいよ」

「やったー!翔太さん!」


無邪気にはしゃぐ姿を見ると、学生らしい若さを感じる。基本的には大人びて見えるが、兄に甘える妹というのが本質なのかも知れない。

実の妹ですらないが、妹どころか、孫を見るような慈しみの目で見てしまう。


「鼻の下伸びてるよ、お兄さん」

「ののの伸ばしてねえよ!」

「はーん?まぁいいや、私も翔太って呼ぶ」

「お、おう、構いませんけど?俺も玲奈って呼ぶし?」

「わー、私達もすっかりチームって感じですね」


チームの妹分は、照れ臭さを隠すのに必死な大人の気持ちなど、知るよしも無い。

大人二人は、無駄に前髪を弄んで、顔を合わせないようにしている。

しかし凛が言うように、不思議と結束が深まったような気持ちになった。

相馬は集中を取り戻すため、大きく息を吐く。

緩んでしまった空気を引き締めるように、咳払いをひとつして歩き出すと、知らない男に話しかけられた。


「あのー、すみません。ちょっといいですか?」

「あ、はい。何か?」


年齢はおそらく20歳前後。

髪は黒く、細身で、やや体に合っていないスーツを着ている。就活中の学生だろうか。


「初めまして、真壁透(まかべとおる)と申します。あの、これ」

「あ、はい、どうも。相馬翔太です・・・」


虚を突かれ、思わず反射的に名乗ってしまった。

渡された紙を受け取り、それに視線を落とす。

ここ最近で嫌と言うほど見た名刺。

名刺には、ついさっきオフィスのドアで見た、よく分からないフォントを使った西岡の社名。


「西岡の!?何の用だ!」


三人それぞれ身構える。突然現れた五人目のメンバー。


(いつからいた?どこまで会話を聞かれていた?なぜ存在を明かした?)


一気に警戒を強める。

重心を下げ、いつでも跳び出せるよう備え、相手の出方を窺う。

真壁と名乗った男は、誰の顔も見ずに、足元に目線を落としている。

その表情は暗く、泣きそうですらある。


「あの、皆さんにお願いがありまして」

「どうしたの?」

「あの、僕を助けてくださいっ」


言い切るや否や、真壁の目からは大粒の涙が流れる。


「ええ〜・・・?」

「だ、大丈夫だからね。ほらとりあえず座ろうよ」


もはや何が何だか分からず、気の抜けた声を発する木偶の坊となった相馬に代わり、須藤が優しく声をかけて、近くの落ち着けそうな店へと導く。


夜のチェーンの喫茶店は、人もまばらで空いていた。

目立たないであろう、カウンターから一番遠い席に真壁を座らせ、その間に凛が適当に飲み物を四人分注文し、トレイに載せて持って来てくれた。


(なんか俺だけ役立たず?)

「ぅう、皆さんすみません」

「大丈夫ですよ。アイスティーでいいです?翔太君と玲奈さんはコーヒーですよね」

「ありがとー、凛ちゃん」


名前ひとつで少女のようにはしゃいでいた女の子が、こういう時には頼もしい。

相馬は状況に流されている事に気付き、頭を回転させる。何よりも現状の把握だ。


「真壁、くん?それで『助けて欲しい』とは?」

「皆さんは社長と戦おうとしてるんですよね?」

(罠か?分かっていた事とはいえ、言質を取って正式に俺達を裁く気か?)


スーツ姿の男。ボイスレコーダーなんてどこにでも仕込んでおける。そもそもスマホでも十分だ。まずはそこを確認してから話をー

考えを巡らせ始めた途端、横から須藤が答える。


「そうだよ、戦う。あそこにいても、私達にとって良い事にはならないからね」

「ちょ、玲奈?今どう答えようか考えててー」

「いいよ、もう分かってる事でしょ」

「そりゃあ、まぁ・・・」

「すみません。さっきは助けて欲しいって言いましたが、いや、助けて欲しいのは間違いないんですが、ぁあもうなんて言ったらいいかな・・・」

「仲間に入れて欲しい・・・とかですか?」

「そ、そうですね。仲間とまで言わないので、協力して社長を止められたら、なんて」


社長を止める?協力?

真っ先に密偵の可能性を考える。

だが圧倒的に優位な立場の西岡が、ついさっきまで明かさなかった五人目の存在を晒してまで、密偵なんて手段を使うだろうか。


「翔太はどう思う?」

「まず動機は?」

「わっ、探偵みたい・・・」

(やめて凛ちゃん。今自分でも入り方ミスったなって思ってるとこ)

「その、僕はあのオフィスで一番新人なんですけど。社長のやり方について行けなくて。そんな時に、皆さんが社長に言った言葉が胸に刺さっちゃって・・・。自分の身可愛さに、僕はとんでもない事を」

「とんでもない事?」


真壁の話は罪の告白と、謝罪から始まった。

やはり今この瞬間も含めて、相馬達の監視を命じられていたらしい。それは現実世界でも同じで、相馬の部屋を監視して、三人のことを報告したのも自分だと。

気味の悪い話ではあったが、予想の範囲内だったので驚きは無い。むしろ早いうちに監視の存在を明らかにできたのは幸運とも思える。


「それは予想してたし別にいいよ。キモいけど」

「ちょっと翔太、ちゃんと聞こう」

「ひっ。し、しかも、それだけじゃないんです。僕らは他にも元社員を・・・」

「元?社員が他にも?」

「はい、翔太さん達の前にもいたんです。スタッフ全員で探して、仲間に引き入れて、今みたいに社長が無理を命じたりしていました」


真壁は言葉を選びながらゆっくり話す。

目はずっと泳ぎ、挙動不審そのもの。

嘘を吐いているという感じではないように感じるが、明らかに様子はおかしい。


「その人達はどこに行ったんですか・・・?」

「その人達は・・・死んでいます」


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