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040 決裂


「戻りました」


部屋に戻ると、西岡と長谷川が部屋を出た時と変わらずに、自分の席に着いていた。


「どうだったかね?」

「かなり動けると思います。シュウと同等くらいか、場所によってはそれよりやれるかも」

「あん?最後はオレが押していただろうが!」

「まあまあ落ち着きたまえ。即戦力という事が分かったんだ。それでいいじゃないか」


ぴたりと口を閉じる二人。よく教育されている。


「期待通りだ。ではショータ君はコートの男と戦う時に前衛を任せよう。それも一番槍だ。まずは一人で戦い、やつの体力を削ってもらいたい。次にシュウ君と、とどめは私が」

「なぜですか?そ、翔太があいつに殺されかけてるの見たんですよね?初めから大勢で囲むとかー」


相馬より早く須藤が食ってかかる。


「落ち着きたまえレナ君。すぐに、という話ではない。作戦の日取りは未定だ。それまでに更なる能力の向上を見込んでのことだよ」

「さっき『後から身につくものではない』って言ったじゃないですか。それって鍛えて向上するもんなんですか?」

「それを決めるのはショータ君だが?しかしレナ君は思ったより気性が荒いようだな。君の会社で見た時には、もっと淑やかで、品があると思ったんだが。それじゃ育ちが知れるというものだぞ。私の秘書としては不十分だ。君も前線に立ってもらうことになるぞ。賢くなりたまえ」


やれやれと大仰に溜め息を吐き、首を振る。

相馬は流石に反論をと思い、一歩踏み出すが須藤の様子がおかしい事に気付く。

笑っているー?


「れ、玲奈・・・?」

「ふふふ、お察しの通り。世間知らずな田舎育ちの不出来な女ですよ。でも、大事な人を危険な目に合わせて、自分は安全なとこで偉そうにしている人間の方が賢いと言うなら、私はそうじゃなくていい!」

「ーんなっ。そこまで愚かだったか!」


須藤の思わぬ剣幕に、周りの人間は誰も間を割って入って行けず、唖然とする。

まだ会って間もないが、須藤がここまで感情を露わにして刃向かうタイプには見えなかっただろう。


「玲奈さん・・・。うん、私もです。ここで飼われるように過ごすくらいなら、友人達と戦います!」

「待ちなさい貴方達。もっとよく考えー」

「いや、いい、タマキ君。幻滅したよ。ここまで愚かだったとは実に許し難い。この三人が望む通り、仲良く前線に立たせてやろうじゃないか」


西岡の表情は、大きな手で覆われていて見えない。

言葉には温度を感じず、残酷な言葉とは裏腹に、怒っているのかすら分からない。


「しゃ、社長さすがにそれはマズいんじゃないスか?」


伊藤の言葉に顔から手を剥がし、無表情で冷たい目を向ける。


「なぜだ?」

「い、いえ。なんでもないです・・・」

「さて相馬君、君の答えはまだ聞いていないが?」


相変わらずの冷たい目。激情を露わにするタイプかと思っていたが、本当にキレると冷たく、どこまでも残酷になれるらしい。

ここでこいつを怒らせるプランでは無かったが、仲間がそうすると言うなら、乗るしかない。

自分の事を大事な人と言ってくれたのだ。一緒に戦うと言ってくれたのだ。合理的では無いが、その想いは何よりも優先される。


「これでもリーダーなんで、メンバーのケツくらい拭いてやりますよ」

「分かった。だが、この会社のリーダーは私だ。君たちの仕事は街の中を散策し、あの男を探す事に決定だ。見つけ次第私に連絡し、全力でその場に足止めしておけ」


突然の雑で危険極まりない命令。足止めとは言うが、要は碌な策も無く、特攻しろと言っている。

冗談で言っているわけではない事は、聞くまでもないようだ。

相馬達の圧倒的に不利な状況は変わらない。結局は言うことを聞かないと、あの男との決着をつけるより前に、こいつらにどうにかされてしまう。

危険な選択肢しか残されていないのなら、せめめ自分で選んだ方がいいか。


「はいはい、分かりましたよ」

「返事は一度でいい。今すぐ行け」


『今日からかよ』とは思ったが、言葉は返さず部屋から出る。

エレベーターで降り、そのまま歩いて住宅地を抜け、繁華街へ出る。

辺りはすっかり暗く、どの建物にも人工の明かりが灯る。

周りを見ても、あの会社のメンバーは誰も着いてこないようだ。

都合はいいが、監視もなくどうする気だろうか。

それとも、まだ見ぬ五人目にすでに監視されているのだろうか。


「もしや実質的にクビなのか?」

「あー、かもですねー・・・」

「う、ごめんね二人共」

「いや、全然いいよ。スカッとした」

「本当ですよねー!さすがでしたよ玲奈さん!」


凛は須藤に抱きついて、頭を撫でる。

背が高く、大人っぽいので、その姿はいつも須藤を姉のように慕う姿よりもしっくり来ているように見えた。

しかし実際さっきの反撃は、胸の空く思いだった。

以前は合理性を重視し、感情を優先するような輩をどこか冷めた目で見ていた相馬。

今では結果に最短でたどり着く事だけが、正解だとは思わない。


(実際に俺も救われたしな)


自分で自分を追い詰めた時、他人に赦され、温もりを感じてどれほど救われたか。

あの日を思い出し、須藤の顔を見る。


「お、なんだぁ?相馬もハグしたいの?」

「しねえよ!?」

「ジロジロ見るからさぁ」


急に現実に戻された。まだ油断を許さない状況なので、助かったのかも知れない。

三人だけになると空気が軽くなるような気がした。

オフィスにも、彼らなりの空気というものがあるのだろうが、一人の人間による支配や、上下関係、ルールは窮屈に感じた。


「仕事終わってから、また仕事なんかしたくないわな」


言ってネクタイを緩める。

監視があろうが関係ない。どうせ捨て駒にされることは決まってしまったのだ。

これは奴らのためではない。そもそも自分達でやろうと思っていた事だ。

自分のために、仲間のために、街の散策を開始する。

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