003 公園でふたり
「ここでいいかなー」
「いつもの公園じゃん。急にどこ連れてかれるのかと思ったら。今日はキッチンカー、来てないよ」
二人は会社から少し離れた公園にいた。
昼時になると、キッチンカーが弁当を販売しに来ることもあり、相馬たちも時々利用している。
過ごしやすい気温の日には、そのまま公園のベンチでその弁当を食べることもある。
「いいよキッチンカーは。いつ来るかも知らないし」
「それは相馬がちゃんとSNS見ないからだよ。あのお弁当屋さん、色んなとこ回ってるけど、どこにいつ行くかはSNSで公開してるからね」
「それはなんとなく知ってるさ。でも、なんていうかこう・・・ガチャ感? たまたま出会えた方がレアな感じがして美味いだろ」
「ふへっ、わっかんね~」
ケラケラと笑う須藤は、もう会社の事は特に気にしていないようだ。夢とはいえ、切り替えが早くて助かる。
「で、ここで何するの?」
「いや、別に何ってことはないな。遊ぶだけ、マジで遊ぶだけ」
「はあー? そんなの一人でやってよー」
「ごもっともだな。でも、今日のテーマはそうじゃなかったってことだよ。いつもみたいに一人でも楽しいけどさ、たまには変化が欲しいじゃん」
「いつも一人で仕事中に遊んでんの。営業ってそこまで自由なんだ」
そんなわけはない。いつもとは『夢の中』の話であったが、特に弁明はしなかった。
須藤の言葉にリアクションはせず、公園を見回す。
オフィス街の一角にある、綺麗に整備された公園は、近くの会社員たちの憩いの場とはなっているが、遊具は少ない。
その代わりと言っては何だがベンチは多く、数メートル間隔でいくつも置かれていて、相馬も須藤もそこに腰掛け弁当を食べたこともある。二人きりで、ということはないのだが。
とりあえず公園の入り口から1番近い鉄棒に手をかける。冷たい鉄の感触、久々だ。
そして、そのままくるりと逆上がりをして見せる。
(よかった。まだできる!)
須藤の方を見ると、「それで?」と言わんばかりに腕組みをして、こちらを何の感情も無い顔で見ている。
「あのねえ、子供じゃないんだからこれで、『うわー! 翔太くんすっごーい!』とはならないからね」
「べ、べ、別に、須藤のためにやったんじゃないんだから!!」
鉄棒から手を離すと、意地悪っぽく笑う同僚の横を通り過ぎ、次に数少ない遊具の中から滑り台に狙いを定め、駆け出す。
選んだ理由はこの公園で一番「高さ」があるから。
「よっ・・・と!」
十分な助走から跳躍し、天辺の転落防止用の柵を越え、踊り場へ降り立つ。
2メートル以上はあろうその高さを越える跳躍は、人間業ではない。
この程度なら造作もなく準備運動にもならないが、現実でできたらテレビ局が大挙して取材に来るだろう。
須藤がどんなリアクションをするのかと踊り場から振り返り、数メートル先の表情を読み取ろうと目を凝らす。
呆れたような顔で苦笑しつつ、「元気だねぇ」とだけ言ってくれた。
(夢とはいえ、こんなにリアクション薄いんだ。今のは凄くないか? 泣いちゃう。俺のイメージ不足かな)
「須藤は、元気が足りないなあー」
自分の行動を正当化するように気丈に振る舞うが、正直、肩透かしである。
こんなことで称賛されるつもりはなかったが、いつも要領よく仕事をし、余裕がある同僚の驚く顔が見たいという思惑があった。
歳も入社も同じなのに余裕があり、社内の評価も高い須藤を、どこか目上の存在のように感じていた。
敵意どころかライバルだとも思っていないし、なんなら尊敬すらしているが、それは認めたくない複雑な心境がある。自分のテリトリーでくらいは、優位に立ちたいというものだ。
「まあ、せっかくだし、たまにはいいか」
言ってから須藤はため息をつき、滑り台へと近付いてくる。
しっかりと手すりを掴んで階段を登り、相馬と同じ踊り場へと立つが、踊り場は狭い。自然と二人の距離は近くなる。
「・・・なに?」
登ってきたはいいが、これまでにない至近距離に目も合わせられない。
お互い、ほぼ同時に顔が赤くなっていることを自覚し、背を向ける。
数秒が数分にも感じる緊張の中、ふいに須藤の背中が密着し、体重を預けてくる。
驚きはしたが、それを嬉しくも感じた相馬は、特に抵抗もなく、しかし何か話すと離れていってしまいそうで、黙って受け入れることにした。
背中越しに感じる、大して重くもない須藤の存在を感じながら、ゆるやかな時間が流れていく。




