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037 作戦会議


いつも通りの業務をこなし、須藤とはタイミングをズラして会社を出る。待ち合わせ場所は近くの喫茶店。

最近はなぜか、新規の案件の獲得率が高く、なかなかに忙しい。

今はあまり仕事にリソースを割きたく無かったが、いずれは現実で生きていくのだから、蔑ろにはできない。

早足で前を歩く人々を追い抜いて歩き、喫茶店の前に着くと、すでに凛と須藤がいる。


「ごめんお待たせ!ううん私も今来たとこ」

「なんです?それ」

「持ちネタにするには弱いよぉ?それ」


真顔で可愛く小首を傾げる凛と、ジト目の同僚。掴みは失敗に終わったようだ。

とりあえず無かったことにして話を進めてしまう。


「さて、ここからタクシーに乗ります」


と、言うなり、目の前を通り過ぎようとしていたタクシーに手を挙げて停める。


「え、うち行くんじゃないの?」


混乱しながらも、大人しく乗り込んだ。

運転手に目印を何個か言って、そこを通って最終的な行き先を告げる。その目的地は須藤の住むマンションに違いはないが、大きく迂回するルート。

老練の運転手は不思議そうな顔をしたが、特に何か言って来る事も無く助かった。


十分な遠回りをしてマンションの前に到着し、キャッシュレスで手早く支払いを済ませ、素早くエントランスへ。

須藤と凛も、何が起きてるかは分かっていないだようが、置いていかれまいと歩調を合わせてくれた。

あっという間に部屋に入り、ようやく一息つく。


「わぁー、ここが玲奈さんの部屋・・・!シンプルですね!」

「はは、何も無いでしょ。適当に座っててね」


妙に間が空いた凛の言葉。それはそうだ、褒めるところも貶すところも見当たらないシンプル過ぎる部屋。コメントのしようもない。


家主は得意のコーヒーの用意に取りかかっている。

漂う香りに、胸が躍る。

どうやらすでに、あのコーヒーを気に入っている。


閉じられた部屋でしばらく待つと、フードが付いたシンプルなルームウェアを着た部屋の主が、コーヒーを提供してくれた。


(え、高橋ジャージは!?)

「玲奈さんそのウェア可愛い〜!どこのですか?」

(こんな無地のシンプルなもんが可愛い・・・?わからん・・・)


女同士のじゃれ合いを眺めつつコーヒーを口に含む。

鼻から抜ける香りが気分を落ち着かせてくれる。前回とは違う豆な気がする。おそらくだが。

違う物だったとしても、その美味しさは健在で、効果は絶大。気を張ってここまで来た気分が、柔らかくなっていくのを感じる。


「で、どうしたの今日は?誰かにつけられてるの?」

「たぶんな、確証は無いけど。俺なら絶対そうするし。だから気付いてる事を気取られたく無かった。ごめんな、落ち着いて話してる時間も無かった」

「私も昨日の今日だし、気をつけて歩いてきたつもりだけど・・・あのメンツがいたら気付くと思うけどな」

「気を付けようがないんだよ。つけてきている奴がいるとするなら、あのオフィスにいなかった五人目だろうから顔を見ていない」

「え〜あのメンバーまだいるんですか!」


「どこまで合っているか分からないけど」と注意深く前置きして考えを共有する。

オフィスに机は5つあり、そのどれもが今も使われている様子だった。

張本が公園にタイミング良く、場所も寸分違わず突然現れる事ができたのは、現実の方に協力者がいれば説明できる。

相馬達の姿を確認し、夢から覚めた人物が、張本に情報を渡す。入れ替わりに張本が眠りにつけばいい。西岡の右腕らしき長谷川が遅れてやって来たのは、そちらのフォローに回っていたからではないか。

そして本来なら真っ先に気にするべき、相馬達に他に仲間がいないかを確認して来ない点。「三人」とも言い切っていた。おそらく現実で三人でいるところを見られ、人数を把握されている。

そのようなスパイじみた隠密行動が得意な人物がいる可能性が高い。

彼らにとって、そんな人間の顔を知られるのは得策ではないだろう。あの場に居なかったのかも頷ける。


「なるほど・・・やっぱりすごいね相馬。味方で良かったよ。確かにそう言われると、今日なんかは特につけられてる可能性高いもんね」

「本当ですねー。言われてみれば簡単なんですけど、言われなければ思いつかないと言うか。私は瞬間移動とか、超能力なんじゃないかと思いましたよー」


いや、ここまで来れば立派な超能力だと思った。

今ある情報から可能な仮説を立ててみた。しかし可能ではあるが、相馬達とは能力の精度が段違いだ。まず自分で起きたり、眠ったりと、コントロールが効くところが凄い。


「今日はここにしてごめんな。なるべくバレないようにしたつもりだけど、俺んとこはちょっと遠いしセキュリティもガバガバだから、室内の音声も拾われるかも知れない」

「いいよいいよ、どうせそのうちつけられるだろうしさ。ていうかもうバレてるかも知れないし、同じ事だよ。一応セキュリティもちゃんとしてるしね。っていうかそこまで気付いてて、私んちなんでしょ?」


にやりと笑う須藤。内容は楽しいものではないはずだが、相馬の思惑に気付けた事が嬉しかったのかも知れない。


「お、おう。俺が夢で西岡と会った日、すでに顔が割れていた。記憶力がいいとは言っていたが、公園での戦いを見られた時から、俺に狙いを付けていたんだろう。とすると、俺の部屋はもう知られているかも。三人で鍋やった日も監視されていて、そこでこちらの人数の確信を与えてしまったのかな、と」

「なるほど、行動が早いね・・・」

「でもここがバレるリスクを与えてしまったからには、明日から帰りは俺が送って行くよ」

「ふへっ、騎士じゃん」

「おいー、西岡かよやめろ〜」


三人で笑い声をあげる。


夢で殺せば原因不明の死になる以上、わざわざ現実で手を出して来ないとは思うが、今後どうなるかは分からない。警戒するに越したことはないだろう。

凛の家は、聞くところによると須藤よりさらに豪華なマンションなうえに、石上湊という最強の兄セキュリティがあるから大丈夫だろう。

それに今日は言われた通り、泊まる準備をしてきている。外で張っていても無駄骨だ。


「玲奈さんのお家でお泊まりなんて嬉しいんですけど、夜更かしできないのがな〜」


「ふへへ、いつでもおいでよ」

「ありがとう、会社から近くて助かるわ」

「おめぇじゃねえよ」


的確なツッコミではあるが、たまに口が悪い。

たまに出る粗野な言葉は、地元の訛りの名残だと言っているのを聞いた事があるが、本当だろうか。そんな地域怖すぎやしないだろうか。

ひとしきり笑った後、少しの沈黙ー


「さて、そろそろ俺は帰るけど最後に話がある。無策であそこに行くとロクな目に合わなそうだ。俺の方針というかスタンスを話しておきたい。それに乗って来るかどうかは二人に任せる」


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