035 能力の使い方
昼下がりの公園に男女5人が、3対2で向き合う。
遠めに見ても、仲が良さそうとは言えない。緊張した空気を放っている。
その中でスーツを着た、一際背が高く、がっちりとした男が話し出す。
「相馬君に言った通り、我々は君達をチームに引き入れたい。理由は簡単だ、我々としてもこの世界から抜け出したいのだ。なぜならこの世界には危険がある。君達も遭遇したあの趣味の悪いコートの大男。あれは我々のような、意識を持った人間を殺すことを使命にしているというのが我々の見解だ。そしてあの人間離れした力。そしてこの世界には独自の法則のようなものがある。こちらは人数と知恵で法則を知り、対抗する手段を増やしていくしかない」
「人間でトライアンドエラーを繰り返すということですか」
「まあそうなるな。しかし危険なことをさせるモルモットということでは無いから、安心したまえよ」
「それなら西岡さんのチームってのに入らなくても協力関係は築けますよね?」
「それはできない相談だ」
(やっぱりそう来るか)
「仲間だから安心して、この身も、情報も任せられるというものだろう?うかつに情報を渡して、それが悪意のある者だったらどうする。情報を逆手に我々が嵌められるかも知れない。人手は欲しいが、だがそのせいで、自らの首を絞めるようでは、本末転倒というものだろう」
詭弁だと相馬は感じた。相手は自分を真っ直ぐに見つめ、一見すると真摯にも見える。
だが、言葉の端々に感じる違和感。
この男は、他人を尊重できるような人間には見えない。
やはり結論を慎重にして正解だった。この男の中にあるのは、支配欲なのではないか。
(もう少し探ってみるか・・・)
「俺達がチームに入ったら新人にりますよね?やっぱ新人は危険な任務を、率先してやらなきゃいけないんじゃないかと思って心配ですね」
「そんなことは無いぞ!見たところ相馬君はかなり動けるようだ。それに須藤君には私の秘書をお願いしよう!隣に華があると、私のやる気も違うというものだ。そちらのお嬢さんも見目麗しく、他のスタッフも気に入るだろう。共に現場に立ってもらえれば現場の士気が上がり、伊藤君なんかは姫を守る騎士になってくれるさ、なあ!」
伊藤の背中を叩き高笑いをしている。背中を叩かれた伊藤も愉快そうに笑う。こいつらにはこれが日常なのだ。隠そうともしない支配欲。いや自覚がないのか。
ちらりと後ろを見ると、須藤の笑顔は剥がれて眉間にしわが寄り、凜もあからさまに引いている。
それはそうだ、ここまで必死に三人で足掻いてきた。辛い思いもした。仲違いもしそうになった。
しかし力を合わせて前を向き、なんとか生き抜くために試行錯誤を繰り返している。
だというのに今、その努力は踏みにじられ、見下され、置き物としての自分を求められている。
(終わりかなこれは・・・)
「悪いが西岡さん、この提案は飲めない」
後ろに控えた二人の顔が晴れる。さすがに相談するまでもない。
それとは反対に西岡の顔は歪み、苛立ちを隠そうともしない。
「まぁもちろんそうなる事も考えていたよ。君はあまり賢そうではないからね」
「おっ、遅かったッスねハヤト!」
「ハヤト・・・?」
凜が知らない名前を復唱する。
はじめは伊藤が相馬達に声をかけたかと思ったが、もちろん張本という人物はいない。
声をかけたのはさらにその奥。はっと気付き、振り返ったがもう遅い。
黒い塊が凜に近づいたかと思うと、その首を鷲掴みにする。
「ぇ・・・ぁ・・・痛っ」
「凜ちゃん!!」
思わす舌打ちをした。突然現れた男は凜の髪を乱暴に掴んで体を寄せ、もう片方の手は首に置かれている。
「動くなよ・・・俺に殺させるな」
「凜ちゃんを離して!こんなことして仲間になんてなれると思ってるの!?」
睨みつける須藤だが、その効果は全くと言っていいほど無いようだ。
西岡と伊藤は、余裕の表情でその場を動こうともしない。
ハヤトと呼ばれた黒ずくめの男は、足音もなく突然現れた。
現れた瞬間は見なかったが、外からは入って来ていない。一瞬でこの場に現れた。
「私だってこんなことはしたくなかったがね、我々の存在だって情報だ。先ほど言ったが仲間でもない者に渡すわけにはいかないさ」
「嘘をつくなよ西岡さん。これ眠りにつく時に、狙った場所で起きられるやつだ。交渉が決裂する前からこうする計画だったって事だろ」
「なんだ、これは知っていたのか。さすがに舐めすぎたようだな。とはいえまんまと引っかかってくれたから同じことだが。はっはっは!」
「凜ちゃんを離しなさいよ」
「ぉお怖いな須藤君。そんな言葉遣いはこれから私の秘書となる女性にふさわしくないから、直しておきたまえよ」
「まだ勧誘できると思っているのかよ!もうどうしようもなく決裂だろこんなもん!」
怒りは本物だとしても、大げさに声を張り上げる。
人が集まってくる事を期待したが、しかし周りを見ても反応しているこの世界の住人はいない。それどころか事態は悪くなるばかりのようで、こちらに歩いてくるスーツで眼鏡をかけた、見覚えのある女性が見えた。
「あ、タマキさーん!うまくいったッスー!」
「声が大きいわシュウ。社長自ら出てこられたんだもの、当然だわ。ハヤトもお疲れ様、殺しちゃ駄目よ」
一人は捕らえられ、三人が目の前に立ちはだかっている。
そして自分たちにとって窮地を事も無げに、身内で会話をしている異質さ。
脱出の糸口を探し周囲の状況を確認する。
「逃げて、ください相馬さん、玲奈さん・・・!」
「おいおいこれじゃ俺らがワルモンじゃないスかー!大丈夫スよー、怖くないですからねー」
駄目だと思った。こいつらは人間として壊れている。話が通じるとは思えない。
夢の世界だと思っているからなのか、元々の本人たちの気質なのだろうか、人を人とも思っていない。
今は交渉の材料としての脅しだろうが、恐らく本当に殺そうと決めたなら、躊躇しないだろう。
長谷川は西岡の隣を離れ、余裕で相馬の目の前を横切って黒ずくめの男に近付いていく。その手にはナイフが握られていた。
(詰みー、か)
「わかった。西岡さんのチームに入る」
「ちょっと!相馬!」
「相馬さん・・・」
「ははは!さっきは侮って悪かった。君は賢いようだな。仲良くやっていこうじゃないか、チームとして。さて、我々のオフィスへ案内しようじゃないか」
相馬達の隣に一人ずつスーツ姿の人間が付き、先頭を西岡が鼻歌交じりに歩き出す。
長谷川の手にはいつの間にかナイフは無かった。ハヤトという男も、凜の髪を離していることを確認して、ほんの少しだが安堵する。
須藤も凜も暗い表情のまま項垂れ、足取り重く歩いている。
この世界にではない、同じ人間に完全な敗北。
相馬は四人の様子や、オフィスまでの道のりを注意深く観察しながら歩く。
今はとにかく、少しでも多くの情報が必要だー




