034 軽薄な男
集合的無意識の層。
もうここに来るのも何度目だろうか。
今日は会社に寄ってから合流したかったので、近くにあるあの公園に集合ということにしてある。
あの日の事を思い出すと良い気分ではないが、使いやすい位置にあるのだから仕方がない。
時間は昼を少し過ぎた頃、人通りもまばらにあり、公園の中では老人達が数人で談笑している。
「お待たせー!話って何?気になって仕事に集中できなかったわ。ねっむいしさぁ」
「こんばんはー!いや、こんにちは?相馬さん。昨日は一人で大丈夫でしたか?」
「それがこういう時に限って面倒が起きてさー・・・」
ベンチに須藤と凛を座らせて、相馬はその前にしゃがみ込む形で昨日あった事を伝える。
自分達以外の意識ある人間からの接触。勧誘を受けたこと。そして西岡達の存在を現実でも確認したこと。公園で大男と対峙した際にその場にいたらしいこと。
「私を止めたあの人がそうだったなんて・・・。言われてみれば、こっちの世界の人にしてはやけに干渉してきましたね」
「西岡雄二って、うちの会社と古い付き合いっていう広告代理店の担当でしょ?相馬が寝てたら怒ってきたっていう」
「よく覚えてんなあ!?」
「そりゃあね、その日の帰りに石上くんと三人でご飯行ったじゃん。愚痴聞いた覚えあるもん。それにその人、違う会社なのに、やけに『何か困ってないかね?相談乗ろうか?』って絡んで来るから私も苦手だったんだよねぇ」
「うわー、ちょっと気持ち悪いですね」
須藤のやけにクオリティの高い西岡の真似を見るに、同一人物なのは間違いないようだ。
確かに、一年目は会社で度々見かけることがあり、あの日に絡まれてからは避けていた。
いつの間にか姿を見なくなっていたのは、独立して相馬達の会社とは、関係が無くなっていたということか。
「一応さっき会社で名刺は回収してきてあるから、連絡は取れるが・・・どうする?」
「うーん、私は会ってみてもいいよ。確かに信用はできないけどさ。一番大きな手掛かりなのは間違いないしねぇ」
「私もお二人がいいならそれで。私は会ったことないですし」
「じゃあとりあえずここに呼び出そうか」
電話をかける。3コールもしないうちに電話は繋がった。
「もしもし、西岡だが」
「相馬です。昨日はどうも。端的に言いますが、会えるならまたあの公園に来てください。来る人数は二人までにして欲しいです」
「わかった。すぐに向かおう」
不躾に突き付けられた条件に、何の質問もせず、すんなりと受け入れられた。相馬達のことを信用しているのか、そもそも条件を無視するつもりなのか、現時点では分からない。
「相馬さん、二人ってのは?」
「こっちは三人だからな、向こうが全員で何人いるか分からない。人数のアドバンテージが欲しかった」
(とは言えそんな条件を聞く義理も、離れたところに待機しておく事もできるだろうし、あまり効果は無いが・・・)
「あ、そうですよね!何かあってもバラバラに逃げれば、一人くらいは逃げきれそうですし!」
「私と凜ちゃんの存在はバレているとして、全部で三人しかいないこともバレてるかな?」
「それは確証は無い、はず。でも多いとは思ってないだろうな。俺の態度でこっちで素人同然ってのは分かっただろうし、すまん」
しばらくすると、公園の土を踏みしめる音がした。見ると、スーツ姿の二人組が近付いてくる。
片方の手をポケットに入れ、背筋を伸ばしゆったり歩く姿は、やはりどこか芝居がかっていて鼻につく。
隣には同じくスーツ姿の男。二人という条件は受け入れられたようだが、先日の長谷川という女性ではない。やはり離れたところに人を置き、そちらを任せているのかも知れない。
目だけ動かし、見える範囲を確認してみるが、さすがにあからさまに分かるところに人は置かないか。
しかし対策は考えてある。もし囲まれたとしても、相馬の脚力があればこの場から離れるなんて数秒だ。突然囲まれて、身動きが取れないなんて事にはならない。
男たちに向かって歩き、公園のほぼ中央で顔を合わせる。ここなら全体を見渡せて、人が近付いてきてもすぐに見える。
正面から向き合い、お互いに足を止める。まず口火を切ったのは意外にも、西岡の横についた初めて見る男。
「ちゃーっす。おっ、二人ともめっちゃ可愛いー!すごくないスか西岡さん!?」
「やめたまえ伊藤君。軽く見られるぞ」
伊藤と呼ばれた男は「すみません!」と背筋を伸ばした美しい直立姿勢になる。
初めの軽薄な言葉から一転、美しい程の姿勢の良さと、短めに切りそろえた髪が相まって、まるで軍人のようだ。
歳は相馬達と変わらないか、少し下くらいだろうか。背はそれほど高くはない。しかし、スーツの上からとはいえ無駄を感じさせない体は、何かスポーツをやっているのかも知れない。
「うちの伊藤が失礼したね。でも彼の言うことも分かる。久しぶりだね須藤君、今日も実に美しい。ここで見かけた時はまさかとは思ったが、本当に須藤君だったとは・・・。ここの危険を考えれば喜ばしいことではないのだが、運命を共にできることにだけは神に感謝しよう」
「あはは、お疲れ様です。久しぶりですね西岡さん」
自分の言葉に酔いしれるように、恍惚の表情を浮かべ、両手を広げる西岡に、須藤は余所行きの笑顔を張り付け、何事も無いように対応していた。
普段の姿を知っている者なら、内心の苛立ちは察するに余る。
「あ、ずるいっスよ西岡さーん!自分ばっか口説いてー。でも西岡さんがそっちの子狙いなら、ジブンはこっちの美人さんいっちゃおうかなー!ねぇねぇ君ってさぁー」
「え、えぇ・・・?」
凜が後ずさりするのと入れ替わるように、すかさず相馬が一歩前に出る。
「ありがとうございます」と小声で背後に回る凛。
「うちの須藤の存在を知って、ナンパ目的で声をかけてきたんですか?」
「おいおい違うに決まっているだろう!しかし美しく、それも見知ったを女性を前にして、黙っているのも失礼とは思わないか?」
「思いませんね。俺達の状況を考えたら、そんな気の抜けた事はしていられないはずだ」
「まぁ、いいだろう。君の意見を尊重し、自重する。伊藤君も黙りたまえ」
再び起立の姿勢となり、口をしっかりと閉じる伊藤。
相馬の後ろでは、須藤が微笑みを顔に貼り付けさせたままでいる。
手を体の前で組み、礼儀正しく立っているようで、握られた手には力が籠っているように見えた。
「君たちの代表者は相馬君でいいのかな?私の見たところ須藤君の方が優秀に見えたがー」
「俺ですよ。荷が勝ちますけどね」
西岡は何か考えるように、自身の大きな顎をさすっている。
「ふむ、では早速だが本題に入ろうか」




