029 裏話〜二人〜
相馬が二人に黙って集合的無意識の世界に入り、コートの男と戦う事になった日の夜。
須藤は眠りにつく準備を済ませて待っていたが、いつまで経ってもメッセージが来ない。
手に取ったスマホの画面の明かりが、暗い部屋を薄く照らしては、暗闇に戻る。そんなことを、何度も繰り返している。
嫌な予感がするが、メッセージを忘れただけかも知れない。最近は頼りになると思っていたが、基本的にはあのやる気が無くて、仕事の要領も良くはなさそうな同僚なのだ。
凛にはベッドに入った事をメッセージで送ってしまったので、もうあまり待つ事もできない。
今日は忙しかった。相馬も忙しかったのか一度も姿を見ていない。
最後に見たのは夢の中。ひどく落ち込んでいたようだったが、同時に悔しそうでもあり、あの不気味な大男に対して怒っているように見えた。
少し危うくも感じたが、心は折れていないようで、信じる事にした。
相馬にも信じて欲しい。あんなにすごい動きはできないけれど、きっと何かできることがあるはずだ。
必要ならば囮にだってなってやるとさえ考えている。
怖くないわけはない、でもそれ以上に覚悟を決めたのだ。
(まずい、眠れない)
寝付きは良い方だ。しかし嫌な予感が大きくなるばかりで、考える程に眠りは遠くなる。
諦めて起き上がり、念のためにと用意していた睡眠導入剤を飲む。
間も無く眠気がやって来る。
(よし、これならいける。相馬のことも気になるけど、そもそも眠ってないのかも知れない。とりあえず凛ちゃんと合流しよう・・・)
夢の中で目を覚ます。電車の中だった。
隣には凛がいる。どうやら凛の肩を借りて眠っていたということらしい。
周りの景色や、案内に目を凝らして確認すると、次がいつもの駅。
「起きて、凛ちゃん」
「あっ、おはようございます・・・夢です?」
「そう、夢。そろそろ降りるよ」
眠そうな足取りの凛を支えて、駅に降りる。
どこから乗っていたのかなんて覚えがない。
真っ直ぐに駅から出て夜の街を見回す。
スマホを取り出し相馬にコールするが反応は無い。
「相馬さん来てるんですかね?待ち合わせしてます?」
「ううん、してない。今日は会社でも会ってないし」
「・・・二手に分かれて探しましょうか」
凛も昨日の様子に、ただならぬものを感じていたようで、決定は早かった。
二人で別方向に走り出す。
須藤は会社へ、凛は繁華街へ。この二つの距離は大して離れてはいないが、やはり一番可能性が高い場所であり
、真っ先に探した方がいいと思った。
須藤は会社に到着したが、すでに施錠されて中には入れない。会社の周りをぐるりと周り、灯りのついた部屋がないか、物音はしないか確認していく。
「いない?どこ、相馬・・・」
スマホを確認するが連絡は無かった。
凛も繁華街へ到着。アーケードの前に立つが、予想外に人が多く、週末の夜のようだ。
「え、なんで?平日だよね。夢だから?」
焦りが加速する。
この中から相馬を探す?できるだろうか。そもそもいるのだろうか。
しかし嫌な予感がする。昨日の様子は普通ではなかった。とりあえず左右を見ながら、アーケードの端まで真っ直ぐ走る。
本当はひとつひとつの店まで、しらみ潰しに探したかったが、そんな事をしていたら、時間がいくらあっても足りない。外からその姿が見える事を祈る。
だが見つけられない。
次にアーケードの隣の道を探してみる。
アーケードの半分くらい走っただろうか、明るく賑やかな店が軒を連ねる通りとは、反対に歩いていく人達が何人もいる。
足を止めて、人々が向かっていく方向に顔を向けると、耳慣れない音がした。
「工事・・・?」
先に歩いていく人達を追い抜き、音の正体を確かめに行く。公園が見えて来ると、その入り口に人だかり。
そして公園の中心に人影のようなものが二つ。
「いた!・・・えっ」
暗い公園の中で何度も交差する影達。
たまに電灯が相馬の姿を照らし出す。傷だらけで、血だらけだった。
そしてその動きに、思わず息を呑む。
話には聞いていたが、ここまでなんて。
人間にこんな動きができるのだろうか。
そして対峙している大きな男は、なぜ人にこんなに酷いことができるのだのうか。
我に返り須藤に電話をかけ、震える声で状況と場所を説明した。
自分でも何を喋っているかよく分からないほど狼狽していたが、須藤は状況を汲んでくれて、すぐ来てくれるという。
「相馬さん・・・!」
「君!危ないぞ!」
駆け寄ろうとしたところを、スーツの男性に腕を掴まれ止められる。
力がかなり強く、腕を振るが、凛の力では振り払えない。
「でも!でも!あのままじゃ死んじゃう!」
「ほら、今警察が来るから!」
言われて気付くと、サイレンの音。それも近付いてきている。
そして間も無くして到着。
ドアの開閉の音が響き、警察が公園の中へ走って行く。須藤の姿も見えた。
安心して腰が抜けたように座り込むと、野次馬達は用が済んだと言わんばかりに、凛だけをその場に残して散って行く。
少し距離はあるが、警察と、須藤の背中と、倒れている相馬が見える。コートの男の姿はいつの間にか無い。
段々と視界が暗くなっていき、そこで意識が途絶えた。




