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002 須藤玲奈


帰宅後、気が付くとまた会社にいた。

すぐには自分の状況を掴めず、直前の行動を思い返してみる。

いつも通り退勤して、自宅から1番近いコンビニで弁当を買った。

値引きシールが貼られていたのは幸運だった。

自室に帰り、小さなソファに腰掛け、ネットで適当な動画を見ながら弁当を食べた。

食べ終わった弁当の容器を捨てて、ソファに再び腰掛け、サブスク登録してある動画サイトから夜ふかし用の映画を探してー


「ぁあ、ここで寝たわけだ」


今の曖昧な意識と、直前の行動を脳内で整理する。


「よし、いつもの夢だな、これは」


この独り言を言うまでがルーティン。

改めてあたりを見回すと、いつも通りのオフィスだ。


「しかし、週末の夜に楽しめるのはありがたいんだけど、さっき帰ってきたばかりでまた会社って」


ぶつぶつと小さく独り言が続く。

自分の想像力の乏しさと、染みついた社畜根性に辟易とする。だが、それはそれとして、自由な時間の訪れに「何をしようか」とポジティブに思考を切り替える。

しかし、夢とは言え、あまりにも非現実的な行動はできない。

自身がありえないと思うようなことは実現できない。

未だ空は飛べないし、手からビームを放つこともできない。

それでも現実よりは何倍も自由で、繰り返し夢に没入していくうちに、走る・跳ぶ等の運動を何倍もの能力で発揮できるようになった。

今では車くらいの速さで走ったり、自販機を跳び越えるくらいは難なくできる。

その能力で街を自由に駆け回ることが、今の自分にとって最高の娯楽だ。


(とりあえずは会社でできることはないし、外にでも出ようかねー)


周りの状況を把握し終え、廊下へと繋がるドアに視線をやった瞬間に、隣の席から声がかかる。


「ねえ、なんで立ちっぱなしでキョロキョロしてるの? 仕事しないの?」

「あ、須藤か」

「『あ』、じゃないって。挙動不審だよー。調子でも悪い? もしくは記憶喪失?」


周りに気を遣って、いつもよりトーンを落とした声で、注意とも心配とも取れる言葉をかけてくれる同僚。


(部署の違うこいつとなぜ隣の席の設定なのかは置いといて、せっかくだから須藤で何かするか・・・?)


「え、なに? 人の顔じっと見て・・・惚れたのかあ?」

「んなわけ!」


考えに集中していて、無言で須藤の顔を凝視していたことに気づき、思わず声をあげてしまい、誤魔化すように強引に話を進める。


「なぁ、ちょっと外行かないか?」

「仕事中ですけど? 大丈夫?」

「いいから、大丈夫だから、来て」


戸惑う須藤の手首を掴み、外へ連れ出す。


「ちょ! マジで!? どこ行くの!?」


同僚に手を引かれ、突然拉致られかけている人間がどんな表情をしているかは分からないが、そこまで強い抵抗も無いので、問題なく歩みを進めていく。

他の同僚は何も言ってこない。この世界は都合のいいようにできていることを、相馬は何度も体感している。この程度では周りの人間に影響がないことは分かっていた。

歩みを進め、冷たいドアノブを掴み、外へ出るドアを開いた。

ふと現実の自分はソファで寝落ちしてしまい、まだ歯も磨いていない事を思い出した。


「やべ、早めに起きられたらいいなー」

「起きる!? 今から寝るの!? どこ連れて行こうとしてる!?」


少し抵抗が強まった同僚を、引きずるように進むその足取りは軽かった。



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