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027 話し合い


二人きりの狭い部屋で凛を待つ。


「なんか偉そうな言い方になってごめんね、そもそも私達の力不足で悩ませてるとこあるのにね」

「いや、それは俺が先走っただけだから。・・・でも公園で、滑り台にジャンプで乗った時に、須藤全くリアクションしてなかったじゃん。てっきり夢なら当然の事なのかと思って」


思い切って例の件に触れる。今となっては須藤の方があの世界の先輩で、あの時の須藤はこの須藤だという事実からは逃れようがない。二人で登った、踊り場での思い出には触れず、あたかも忘れているかのように平然を装う。

恥ずかしがっている場合ではない。こういうささいな齟齬が、後から大きな失敗に繋がるのだ。

須藤は意識的に避けていた話を、予想外のタイミングで切り出され、目を丸くしている。


「あの時はまだ相馬に意識があると思ってなかったし、夢だから、こんなこともあるかーくらいの感じでー」

「お互い今度から、ささいな違和感でもちゃんと話し合ってこうな・・・」

「はい・・・報連相、基本でしたね」

「・・・・・うん」


それ以上言葉が続かず、頭を掻くと、全く同じタイミングで須藤も頭に手を伸ばしていた。目が合って、固まる。気まずい。

沈黙を破ったのはドアをノックする音。


「あ、きっと凛ちゃんだよね。はーい!」


とドアへ駆けていく。空気にも足の痛みにも耐えられそうも無かったので助かった。

玄関から小さく話し声が聞こえ、凛が入って来た。


「おじゃましまーす。あ、相馬さん。無事で良かったです〜」


ベッドに腰掛け、片手を挙げて応える相馬の姿に、安堵したのか、力が抜けたように床に膝をつき、目には涙を浮かべている。


「こっちはハグ無しか・・・」

「あぁん!?」


小さな呟きを聞き漏らす事なく、須藤に睨まれた。

しかしその顔は少し赤くなっている。


「ん〜?」


凛は二人の妙な空気を察したようだが、スルーしてくれたようだ。そのままその場に座り、会話に参加する姿勢。

相馬は話に入る前に、凛にもしっかりと頭を下げる。


「やめてください相馬さん。許すも何も無いです。私も、もっと頑張りますから、頼りにして欲しいです。もう一人で戦うなんて、本当に止めてくださいね」


やはりこの子は強いなと思った。相変わらず小さく弱々しく聞こえる声だが、その内容は力強く、しっかりしている。


「で、リーダー的にはこれからどうしたい感じ?もちろん私達抜きって案は却下ね」

「そうだな・・・とりあえず、最低限の逃げる術は欲しいよな」

「あ、やっぱり私達も練習して相馬さんみたいにー」

「いや、まずはとにかくこの周辺を散策しまくって道を覚える」

「え?」

「ぁあ、期待してないとかじゃないから!」


あの男と戦って気付いた事を伝える。

相馬の力に驚いていたこと。対等にやり合っているようで、パワーやタフネスでは負けていたこと。それだけの力を持っていながら、人目は避けたがっていること。

そしてやはり須藤を狙っていること。


「意外と炙り出すのは簡単なんだと思う。須藤に粘着する理由はまだ分からないけど、俺みたいな異物を見つけても追ってくるようだから」

「玲奈さん可愛いですからねぇ・・・」

(玲奈さん?いつの間に)

「いや、そういう理由か?まぁいいや。それでこちらから誘い込む分にはいいけど、見つかった時に逃げ切れる可能性を少しでも高めておきたい」


さらに続けて説明をする。能力を向上させる事には賛成、期待している。だが時間がいつまであるかは分からない。


黙って話を聞き、何やら考え込んでいた須藤が話し始める。


「なるほど、私達が練習したところで、あんなに動けるようになる確証も無いもんね」

「うん、うまく言葉にできないがー。勘だけど、感覚的に、できるならもうできてるはずというか」

「そうなんだ。で、運動能力で敵わないなら頭を使うわけだ。繁華街やオフィス街ならいくらでも隠れるとこあるもんね」

「さすが理解が早い。ついでに道だけでなく、建物の中まで網羅する。上にも下にも逃げられるように。あと知ってる道も再確認。現実をそのまま持って来たような世界だけど、タケさんの考察を参考にするなら、みんなの記憶でできたこの街が、どこまで正確かは怪しい」


ここまで話して、二人の様子を窺うと、納得したように力強く頷いてくれている。


「本当は罠でも仕掛けられたらいいんだけど、前回やり合って壊れたベンチが、戻っていた。夢の中で何か置いても引き継がれないのかも」

「じゃあ逆に現実で仕掛けたら反映されませんか?」

「それは俺も考えた。そのうち試してみたいけど、優先順位は低いかな。『みんなの記憶でできた世界』のみんなってのが、どれほどの人数か分からない。さっきの戻っていたベンチだけど、近くで確認した。あれは新しい物じゃなく、元々あった物が再現されていた。あれほど精巧に再現されるものが、一人や少人数の記憶によるとは思えない。それこそみんなが、普段無意識に見ているものの集合体なんだと思う」


「確証はないけどね」と続ける。現実でも昼食時にたまに座っていたベンチは、本当に100%同じ物かと言われると自信が無いが、覚えのある汚れはあった。


「はぁ、やっぱりすごいねリーダー。あんなに暴走してたのに、冷静に見てるとこは見てるねぇ」

「う、もちろん間違ってる可能性もある。あくまで説の一つってことで」

「でもやる事が見えてきていい感じがしますね。玲奈さんと私も、発見があったんですよ。ね!」

「うん、でも結論は出てないんだけどね・・・。私達以外の人ってさ、この世界の住人で、何か異常があっても無反応だと思ってたの。でも今回の相馬とあの男との戦いでは違った。気付いてた?あの野次馬達」


薄れてゆく意識の中で聞こえた喧騒、見えた人だかり。

警察も来ていた。

確かに一人でどんなに、人間離れした動きをしていても、反応が無かった人々が、あの時は集まって来ていた。

そのおかげかトドメを刺されず、なんとか生き残る事ができたのだろう。


「あの戦いでは人が大勢いたし、警察も動いてくれた。タケさんの時も野次馬が集まってた。でも初めてあの男に会って相馬が殴り飛ばされた時、私があんな大声を出したのに誰も来なかった。なんでだろうって」


いくら前向きに考えても、明確な答えが出てきてくれるわけではない。

そして考える程に謎に気付き、分からない事が増えていく。


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