024 後悔
無事に合流し、次にどう動くかを話し合った結果、公園近くのビルから、あの男がどうなっているかを見に行く事になった。
適当に入れるビルを見つけて、上層階へ上がっていく。
屋上に出て、下にある公園を見回したが、案の定倒れていた場所にその姿は無かった。
相馬が叩きつけられ、踏み台に使った木製ベンチを見ると、明かりに照らされたその姿は、砲丸でも叩きつけられたかのように割れている。これが人間の仕業だと言うのは信じ難い。
「やっぱりいないよな。これで終わってたら楽だったんだが」
「どこ行ったのかな?本気で追ってきてたらとっくに追いつかれてるもんね。相馬も速かったとはいえさ」
「そんなにすごかったんですか?」
「ほらあれ見て、あのベンチまで相馬は殴り飛ばされたの。何が起きたか分かんないくらい速くって。でも相馬もすごくてさ、あのベンチからー、あの辺かな?ひとっ飛びしてそのまま蹴り飛ばしたんだよ。それで私を抱えて、あっという間にさっきの場所まで走ったの」
「えー!どっちもどうなってるんですか〜!映画みたいですねー・・・」
眼下の公園に指を指して状況を説明する須藤。
声をあげて驚く凛。
それを見て愕然とする相馬。
さっきから感じる違和感。
「待て。俺がおかしいみたいに言うけど、お前らもできるだろ?蹴りは置いといて、あれくらいの跳躍はさ」
「できるわけないじゃん!ほらっ」
その場で何度もジャンプを披露してくれだが、相馬の期待をずいぶん下回る、ごく普通の高さ。当然ふざけているわけでは無い。
態度に出ないようにはしたが、胸を締め付けるような焦燥感。
凛を巻き込み、三人でこの世界に立ち向かおうと思っていたのは、全員が自分と同じ運動能力を有する事を織り込んでいた部分が大きい。
相手がどんなものかは分からないが、戦えずとも最悪逃げることくらいはできると思っていた。
しかしついに姿を現し、一瞬で強大な力を見せつけてきた敵。それに抗う術を持たない味方。自分の想定が一瞬にして崩れ去る。
「どうしたの?ぼーっとして、やっぱりどこか痛む?」
「い、いや大丈夫。さすがに疲れたなって」
「だよねぇ。とりあえず戻ろっか」
須藤と凛は並んで階段を降りて行く。
後ろに続いて歩くが、現実味が薄く、頭に靄がかかっているかのよう。
足音をコンクリートが跳ね返す音が、やけに響いて聞こえる。
戦えると思っていた。
力を合わせれば何とかなると。
逃げ切れると思っていた。
三人で力を合わせればどんな困難にも打ち勝てると。
何がリーダーだ。
冷静な判断と決断?浅慮で早計なだけだ。
「相馬っ!」
「あ、ごめん。なに?」
「何度も呼んでるのに。本当にどうしたのさ」
遠くから声が聞こえる気がする。実際には目の前にいることは、見えていたので分かっている。
気付いたらいつの間にかビルから出ていて、駅前のロータリーの隅にいた。二人が心配そうに顔を覗き込んで来る。
「あ、ごめん・・・考え事してた」
「もしかして、なんか落ち込んでる?」
「いや、なんか色々甘かったなって」
「仕方がないよ、相馬のせいじゃない。ここは現実とは違うって頭では分かっていたのに、実際ここいると現実にしか思えなかったもん。まさかあんなやつが出てくるなんて思わなかったよ」
「そうですよ。それに悪いことばかりじゃないです。そんなバケモノみたいなやつがいても、相馬さんなら対抗できるって分かったんですから!でもケガには気をつけてくださいね?」
二人の優しさが沁みる。
沁みると言っても良い意味ではなく、傷口に塩を塗られているような気分。
二人に非は全く無い。変わらず期待を寄せてくれているし、心配してくれている。
いたたまれず逃げ出したい衝動に駆られるが、耐える。
「ごめん、二人ともー」
正直に自分の考えの甘さを謝罪する。信用を失う事は怖かったが、それ以上にこの二人そのものを失う事を考えれば、自分の信用なんて無価値に等しいと判断した。
誰でも自分くらいは動けると思い、最後はその運動能力頼りになると思っていた。それなのにその能力の確認を怠った浅はかさ。
どこかで敵を侮り、自分を過信していたのかも知れない。過信したまま、無責任に凛を引き込んでしまった。
とにかく今は頭を下げるしか無い。
信用できなくても、対抗できるのが自分だけである以上、近くに置いて責任を取らせて欲しい。
「本当にー・・・申し訳ない、ごめん」
視界に映るのはアスファルトと、三人分の足。
頭を上げることができない。
「相馬さん、私は後悔していませんよ。むしろなんの取り柄もなくて申し訳ないくらいで・・・」
「なんで全部自分の責任だと思ってんのさ。私達にだって、自分の考えがある。相馬を頼りにしてるけど、頼りっきりになるつもりは無いよ」
分かっていた、この二人なら許してしまうのだろうと。
それが悔しくて、情けなくて、消えてしまいたくなる。
いっそ怒ってくれた方が良かった。
気を抜くと涙が出そうだが、もはや泣く資格すら無い。
「それより私も、須藤さんも、もしかしたら訓練すれば相馬さんに追いつけるって事はないですかね?」
「あ、いいねぇそれ。やってみる価値はあるかも。ほら、いつまでも落ちてないで。頼むよリーダー」
「相馬さんがリーダーなんですか?いいですねー!ぴったりです」
二人は許してくれた。しかし、自分では許せない。
かと言って、落ち込んだ姿は見せるべきでは無い。
今、自分がすべきは虚勢でも胸を張って、安心させる事だ。
そして本当に安心できるようにすることだ。
何をしてでも。




