022 日曜日の愛嬌
カーテンを開く音と、朝陽で目が覚めた。
瞼を通しても、視界が明るくなっているのが分かる。
「おはよう。天気良いよ」
「おはよう〜ぅ」
眠い目を擦り、時計を見ると朝の7時。
いつもの睡眠時間を考えると、まるで足りないが、他人の家で二度寝をかますわけにもいかず体を起こす。
ついでに記憶を呼び起こす。
「夢見なかったわ、須藤は?」
「いや、見てないねぇ。2日連続だね」
朝から須藤は元気が良さそうで、布団の片付けや朝食の準備を要領よくこなしていく。
手持ち無沙汰の寝癖だらけの男を、身支度を整えるようにと洗面台へ追いやる。
須藤のあの様子では、もう随分と前から起きていたのだろう。自分より短い睡眠時間で、あの動きには全くもって頭が下がる。
部屋に戻ると、トーストとコーヒーが用意されていた。
トーストには目玉焼きが乗っている。
「ごめんね夜に続いて大したもん無くて」
「いや、ご機嫌な朝食だよ」
いただきますと言って早速ご馳走になる。
普段の朝は食べないことがほとんどだったので、本当にありがたい。
いつもコンビニ派の人間にとっては、コーヒーも朝から出てくるには上等すぎる。寝不足の頭が徐々にクリアになっていくのを感じた。
食べ終わった食器を洗い終わり、キッチンから戻ってきた須藤に、今朝起きてから何となく考えていた事を聞いてみる。
「もしかしてちゃんと寝ないとあの夢って見ない?」
「え、そうなの?」
聞き返されてしまったので、自分の考えを続けて話す。
「なんとなく昨日、今日と、夢を見なかった事を考えたら、どちらも寝るの遅かったなって」
確かに、と須藤も記憶を巡らせているようだ。
相馬も更に記憶を呼び起こす。
「最近で言えば、前回ここに来た時も帰ったのが結構遅くなってさ、その日も見てない」
「ぁあ〜朝から鬼電してきた時の」
「そ、それはいいだろ。あと昼寝でも見た事ないはず、休日、平日どっちも」
「平日どこで寝てんのさ・・・」
「いや、あのほら外回りして、車の中で昼飯食べるとそのままウトウトと・・・ね?」
「ふひ、羨ましいねぇ。休憩時間だし、居眠り運転するよりは良いかぁ」
話の分かる同僚で助かる。
社会人1年目、とは言っても冬に入り、そこそこ職場には慣れてきた頃に、休憩中デスクでうとうとしていたら、怒られたことがある。それもなぜか外部の人間に。休憩中も勤務時間。「自分のように外部の人間が訪問することもあるのだから、社員の自覚を持ちたまえ!」と。
若く見えたが、ずいぶん時代錯誤な男だと感じた。だが、それから何となく意識するようにはしていて、社内では寝ないようにしている。
「今度凛にも聞いてみるか。なんとなくの思いつきだけど、これが当たってるなら大発見だ」
「今日も泊まっていけば?夜更かしなら付き合うよ〜!あはは」
「勘弁してくれ、そろそろトイレットペーパーが切れそうなんだ。買い物して帰るよ」
少し喜んでしまった事を悟られないよう目を逸らし、帰り支度を整えて部屋を後にすることにした。
玄関が閉まる寸前、ドアの隙間から笑顔で手を振る須藤に感謝を伝えて歩き出す。
降りてくるエレベーターの階数が表示されるモニターを見ながら、つい先程の事を思い返す。
(なんかあいつ、やたら可愛いかったな)
記憶を振り払うように頭を振る。
笑顔で手を振る姿が頭にこびりついているばかりか、気を緩めるとこちらまでつい笑顔になってしまいそうだ。
この余韻に浸ったままゆっくりしたかったのだが、保留にしたままの買い物をこれ以上先延ばしにはできないので、目当ての店へ向かう事を固く自分に誓った。
繁華街は混んでいた。
日曜日、ほとんどの店が開いた時間なので当然のことだろう。
目当ての物をあらかた買い終わり駅に向かう。かさばる物は家の近くで買うことにした。多少安くても12ロールも入ったトイレットペーパーの袋を持って電車には乗りたくない。
乗ったいつもの電車は3駅しかない道のりなので、今日も座らずドアの近くにもたれかかり、目を閉じる。居眠りはできないが目を閉じて頭の中を整理する。
凛と行動を共にするのも、話を深掘りするのも問題無くなった。ただ須藤の意見を尊重し、あまりにも感情を無視した言動はできない。そういえば凛との合流はどうしようか。
それと夢を見る条件のことだ。今まで意識していなかったが、睡眠の状態はどうも関係があるように思える。
しかし、これはさすがにサンプルが少なく、確実ではないので今は当てにできない。
団体行動はせずに、個々に現実と夢から思いつく限りを試行して観察すれば、飛躍的にあの世界の理解は深まるだろう。だが凛の参加を安全の保障を条件に認めたようなものなので、今更そんな提案をしたら今度こそ愛想を尽かされる。効率的でなくてもしばらく3人固まって安全の確保に努めることが優先される。
窓の外の流れる景色を見る。見慣れた景色だが、ここらへんは夢で見たことは無い。
場所の条件にしたって謎だ。城のある公園と、大学のように、自分が知らない場所でも明瞭に再現されている。
その場所を知っている人間がいればいいのだろうか。その人間は自分達のように意識があることが条件なのか、必要ないのか。
予想はできても事実は何も分からないし、調べようがない。自分達が体当たりで経験し勝ち取っていくしかないのだ。
最寄りの駅に到着し目を開く。
まずはトイレットペーパーを買いに行こう。
そして今日は早く寝よう。いくらなんでも眠くなってきた。




