015 裏話〜転機〜
相馬と須藤がお互いの秘密を共有する日から、数日前のこと。
須藤は夢を見ていた。
恐ろしい夢だ。
この世界にいると楽しいこともあるが、生きた心地がしない。
今日は無難に、会社からのスタート。
周りに人がいると安心できる。タケさんの話を信じるなら、この世界には私達のように「意識がある者」を狙っている危険なやつがいる。
だが、何回かここで過ごして分かったことだが、ここは夢とはいえ、ほとんど現実と変わりはない。
秩序やルール、法律があり、犯罪を起こせば普通に捕まると聞いた。
その殺人鬼も、捕まるリスクを冒してまで人目があるところで襲いかかっては来ないだろう。
だが須藤が警察に相談しても、何の解決にもならなかった。現実でも、起こっていない事件には何もできないと言われるが、そんなものではない。どう丁寧に説明しても理解してもらえない、もっと言えば言葉が届いていないような感覚。認識さえされないのだ。
人は頼れない。いつも通りなんとなくやり過ごして、現実での朝が来るのを待つだけだ。
今日は隣の席に、同期の相馬がいた。
彼とは部署が違うので部屋も違うはずだが、設定の微妙な違いは夢といったところか。
この世界の法則はいまいち理解できない。
タケさんは「私達の記憶を頼りに世界が構築されている」と予想していたが、完璧に同じというわけではない。
それはこの世界の粗さなのか、基盤となっている自分の記憶力のせいなのか、はたまた色んな人間の記憶が入り混じっていて安定しないのか。
相馬がいることは不思議なことではない。舞台が会社なのだから、慣れ親しんだ同期ならもちろん登場するだろう。
しかし、今回の彼は突っ立ってキョロキョロと周りを気にし、ブツブツと独り言を言い、いつも以上に集中力に欠けるようだ。
(ふへっ、相変わらず変なやつー。でも、これもたぶん私のイメージが反映されてるんだよね。面白いけど、生みの親?としては何とかしてあげないとなぁ)
数歩踏み出し、声をかけやすい位置に移動する。
「ねえ、なんで立ちっぱなしでキョロキョロしてるの? 仕事しないの?」
そこからあっという間に会社から連れ出され、なにやら物騒な独り言も聞こえて混乱している間に、気付いたら公園にいた。
ここまで自分を強制的に連れてきた犯人は、いきなり鉄棒で逆上がりを披露した。その奇行を見て、腕組みをして考える。
(普段から良いやつだけど、変なやつだとは思ってる。けど、今日はずいぶん意味わかんないなぁ……。意識してないけど、私の相馬へのイメージってこんなキャラなのかな)
夢で作り出した同僚の奇行に呆れつつも、責任は自分にもあるのかもと少し反省する。
逆上がりの感想は、とりあえず雑にしておいた。
すると次は突然走り出して、横を駆け抜けていく。風が、彼が向かった方向へと髪を揺らす。
相馬の動きを目で追っていくと、大きく跳躍し、高さのある滑り台の上へと乗った。
現実ではありえないはずだが、あまりにも当たり前のように行われたその行動が、なぜか自然で違和感が無い。
自由に動き回る相馬は楽しそうで、元気いっぱいの少年のようだ。
「元気だねぇ」
自分はどうだろうか。怯えるばかりでいいのだろうか。この状況をどうにかしたいという思いはある。だが、どうすればいい?
考えても答えは出ない。目の前で年甲斐もなく滑り台の上からこちらを見ている同僚が、眩しく見える。
「須藤は元気が無い」と彼は言った。
事情を知らない、夢の住人に悪気は無いのは分かっているが、その一言は核心を突いている。
怯えてネガティブに考えてばかりで、事態が好転するわけではない。
できることを、今やろう。何かは分からないけど、目の前にできることがあったら迷わずそれをやっていこう。
今できることは、目の前にいるこのバカと一緒に、バカになるだけだ。
「まぁ、せっかくだし、たまにはいいか」
「バカと煙は高いところに上る」ということわざが頭をよぎる。
でも、登ってみたら、見えていなかったいつもと違う何かが見えるかもしれない。
苦笑して、自分も滑り台へと歩みを進めた。




