010 集合的無意識の層
「俺が、死んでる? ここ、死後の世界か?」
「いやいや、違うでしょ。ちゃんと寝たでしょ? そうじゃなくて、この世界に干渉できるようになった人の共通点がね、自分の夢の中で殺されてるんだよ」
「は? いやいやいや、そんな覚えはないって!」
「本当に? まあ、私も全部を知ってるわけじゃないから、例外もあるのかなぁ。とにかく私が聞いたのはそういう話だし、私自身もそうなんだよね」
「おいおい、大丈夫かよ!?」
思わず身を乗り出して、須藤の顔を覗き込む。健康そうには見えるが、見えないところに怪我を隠しているのかもしれない。
「ちょ、近いって! 大丈夫、夢だから!」
「お、おぉ、そうだよな。ごめんごめん」
「もう、まったく。とにかく、その色々教えてくれた人が言うにはね、夢で殺されることで、この『無意識の層』に落ちてきてしまったんじゃないかって」
「マジかよ。結構いるのか、そういう人?」
「どうかな。私は一人しか会ったことないからなぁ。相馬で二人目ね」
「でも、この街だけでも人口は結構多そうだよな。みんながみんな、そうじゃないってことか」
「うん。私達みたいに意識がある人と、そうじゃない人は全然見分けがつかないよ。相馬も今までは普通に『夢の住人A』って感じだったし、いつの間に現実の相馬になったんだろうって感じだよ」
「それはこっちのセリフだが・・・」
(待て、あの公園の時はすでに!?)
滑り台での一幕を思い出し、恥ずかしくなる。
それどころではない事態が起きているはずだが、顔が熱くなってくる。こればかりは仕方がない。
「どうしたの? 話を続けるよ。大事なことね、絶対忘れないで」
「あ、はい!」
赤くなっているかもしれない顔を見られたくないので、横を向く。耳が須藤の方に向くので、開いた手を耳に添えることで、集中して聞いているポーズにもなる。
しかし、話の内容は釘を刺された通り重要で、浮かれている場合ではなかった。
「この無意識の層で殺されるとね、今度こそ、本当に死ぬの」
「・・・は?」
「夢の中じゃなくて、現実でも死ぬ」
衝撃の内容だった。思わず顔を正面に向ける。
須藤は冗談を言っているようには見えなかった。
「私に色々教えてくれたその人ね、タケさんって呼んでたんだけど・・・こっちで殺されちゃったの」
暗い声で、ぽつりぽつりと当時のことを話し始める。
その時のことを思い出しているのか、徐々に悲痛になっていく表情は、見ている方にも辛さが伝わってくる。
殺害現場は見ておらず、タケさんとの待ち合わせをしていた場所に着いたらすでに亡くなっていたらしい。
うつ伏せに倒れた体からは血が大量に流れていて、いくら声をかけても、体を揺さぶっても反応がなかった、と。
「すまん、辛い話させて・・・」
「ううん、大丈夫。タケさんとはこんな縁もあったから、現実でも会ったことあるんだ。連絡先も交換してたの。タケさんが殺されて、目が覚めて、急いで連絡したけど繋がらなくて、夢でも会えなくてさ。何日か後に、現実のニュースで本当に亡くなってたのを知ったの。外傷もない原因不明の不審死なうえに、タケさん会社経営してる有名人だったらしくてね。ちょっとだけ話題になっててさ」
「たまたまってことは、ないのか?」
「それも考えたよ。でも、タケさんの仲間にも同じように亡くなった人がいるってのは聞いていたからさ。タケさんは、自分達のように意識がある人を狙っている『危ない何者か』がいるんじゃないかって言ってて・・・。その時は半信半疑だったけど、これがそうなんだ、本当にいるんだって思って」
そこまで話して、二人とも押し黙り、それぞれ無言でコーヒーを口に運ぶ。
居心地の悪い沈黙が続く。
分からないことが多すぎた。突然巻き込まれた、非現実的な世界の話。
いや、気付かなかっただけで、もう随分前からこの世界に足を突っ込んでいたのかもしれない。
知りたいことは多いが、辛い体験を思い返し、見るからに気分が落ちている様子の須藤から、これ以上話を聞くのは気が進まなかった。
「相馬はさ、死なないでね」
沈黙を静かに破ったその声に、窓の外から視線を前に戻す。
その表情は、微笑んでいた。
優しく、悲しそうに。
何か言おうと口を開いたが、言葉は出てこなかった。




