魔女 2
『あれは……干した生首…!?』
「………いや、干し椎茸だ。」
『あ、あ、赤子の血肉を煮込んでるのか…!?』
「あれはただのビーフシチューだ。」
『美畏怖死誅…一体何の儀式を…!』
「従魔って本当に俺の知識共有してんの?」
魔女に案内され、キッチン側のテーブルでお茶をいただいてる間もJr.の警戒は続く。
意外と広くはなく仕切りも無い。
広めのワンルームって感じだった。
しかし美味しい、これは梅昆布茶だ…
何故こんなものを作れるのか…
あぁ、凄く、落ち着く…
「いい顔して飲んでくれるねぇ。どうだい?こっちの素材じゃ再現が難しいんだけど、なかなかの出来だろ?」
「はい!凄く美味しいです!ご自分で作られてるんですか! ?」
「私はそこそこ魔法使えるからね、物質の変換なんかは出来ないけど…」
魔女が指を鳴らすと俺のすぐ横から木が伸びてくる。
『おい、ショータ…!』
Jr.は毛を逆立て、オルクが構える。
2人を制して木の成長を見守る。
それは目線の高さを超え、花が開いた。
フワリといい香りがする。
その香りを嗅いだJr.が木ににじり寄る。
『こ、これは…!!!』
『オホ〜これは良いものですぞぉ〜たまらん、たまらんぞ!流石ですなぁ魔女殿ぉ〜。』
Jr.は一撃で陥落した。
折った枝をかじり魔女の膝の上でゴロゴロ喉を鳴らしていやがる。
あれはまたたびの木だったのか。
なんと情け無い姿だろうか…こっちにSNSがあればすぐに母上に送りつけてやるのに。
「こんな感じでね、自分から素材を生み出す事は出来るからね」
穏やかに笑いながら猫を撫でる魔女の姿に、ほんの少し嫉妬する。
餌に簡単に釣られやがって…
「オルク族の貴方も大変だったわね。」
「俺にも搦手を使う気か?魔女の誘惑は効かんぞ。」
そうだそうだ!いいぞオルク!俺の配下ならビシっといけ!
「そんなつもりは無いけど、仲良くしておきたいわね。貴方には立派な主がいて、貴方は強大な力を秘めている。今よりももっと強くなるでしょうね。」
「…ふん。魔女ってのはやはり賢いようだな。」
おいチョロ過ぎるぞオルクぅ!
鼻の下伸ばして頬を赤らめてんじゃねぇ!!
「ただ、問題は貴方なのよね。ショータ君。」
突如向けられた鋭い殺意。
腕組みして椅子に座るオルクに、ソラスさんとマルファスさんが羽の刃を喉元に突きつける。
ジュニアは木をかじったまま糸でぐるぐる巻きにされている。
そして俺には四方八方、家中から伸びた棘が突きつけられた。
なるほど、この木の家も魔女の魔法。
こういった自然の摂理に逆らう成長以外の変化も自由自在か。
「ほら、これよ。目の前に本当の危機が迫っても落ち着きはらっている。見たところ特殊部隊出身でも殺し屋稼業でもない、ちょっと肝が据わった街のゴロつきでもここまで平然としてないわ。ウチの子達と居るのに森に踏み入って発動した罠も《死霊召喚》、アレが正常に機能せず見境無く貴方達に攻撃を仕掛けた。アナタは何者なの?何が目的?」
魔女の言う通りだ。
こっちに来てから気分がいいしずっとワクワクしている。
やっぱり俺は何かおかしいんだろう。
「目的は…こっちに来たのも騙し打ちみたいなもので、でもその後にその子に助けを求められたんです。父親を探す為に。小さな身体で、1人で、そいつは俺達の世界に来たんです。俺、見た目通りそこそこ頑丈ですけどこっちの世界はさっぱりなので、悪魔からも警戒されるほどの、俺と同じ人間なら色々知ってそうだし…いや、ただこの状況を誰か同じ"人"と共有したかったのかもしれません。それにコレ、本気じゃないですよね。」
初めの一瞬の殺意以降、肌にヒリつくような感覚は無い。
だからこれは脅しというか本心を探りたいのだろうと、棘を指で突くと指先にチクリと痛みが走り、ぷくっと血が滲んだ。
…あれ?本気じゃないよね?
「得体の知れない相手どころか、こんな猫に助けを求められて化け物を掻い潜ってこんな所に来るやつがいるのかい?」
ぐっ!確かに痛い所を突いてきますね!
「あ〜…俺、その、こっちに来る直前に仕事をクビになってて、やる事ないし、喋る猫に助けを求められたらなんか、その、大冒険が始まりそうというか…へへへ。」
やべぇ口に出して言うとダセエ!
恥ずかしい!!
「あっ!いや!地獄が本当にあるなんて思ってもいなくて!ここの事説明もしてもらわなかったし何もかもいきなりで、あ!あと俺体感ついさっきこっちに来たようなもんで!あ〜どう言ったらいいかな…」
「いいわよ、嘘はついてないのが分かるわ…。」
「そうだ!肝心な事をもう一つ。俺も俺が何か変なの気付いてます。でもこれがなんなのか何も分かりません!」
どうだ、魔女よ。
俺は完全素人なんだ!
「………くく、くっ、あっははははははははは!あ〜おかしい!あんた、本当に面白い男だね。」
「あはは…ありがとう、ございます?」
そんなに目の前で笑われるともっと恥ずかしくい。
それでも感謝を述べると魔女は更に大声で笑う。
なんなんだよ、もう。
「色々試すような真似してすまないね。私はあんたが気に入ったよ、いいわ。協力してあげる。」
「本当ですか!やった!」
「ただね、実は私もこっちに紛れ込んじまっただけでね、派閥だ何だ、事情はあまり知らないんだ。あんたと同じだよ、ずっと昔にそこのフクロウに拐かされたのさ。」
「私はただ、力ある者がただ無意味にあちらに留まるのが惜しいだけです。」
「ふんっ、あの子は口じゃああいうが、腹に一物あるのさ。悪魔ってのは皆そう…いや、それは人間も同じね。ヒトとの違いなんて見た目だけなのかもねぇ…」
自分の指を捏ねながら寂しそうな目をして言う。
様々な経験を重ねたその瞳は一体これまでどんなものを見てきたのだろう。
確かに、人の心なんて無いような奴いっぱいいるもんな。
「そういや名乗ってなかったね、私はツル、矢賀ツルだよ。」
「…?あ、ショータ、日野ショータです。こちらこそよろしくお願いします。」
握手を求められて言われる名前に少しキョトンとしてしまった。見た目の割に時代がもう少し古い感じのお名前。
あれ、そもそもバーバヤーガじゃないの?
「あの、名前って…」
「あぁ、それは私じゃなくてこの子が勝手に付けたのよ。むかーし居た恐ろしい魔女だってさ。」
「こちらへ来てすぐ魔法を理解し、悪魔も死霊も魔獣も悉く蹂躙したあの姿はまさに魔女でした。どちらが悪魔なのかと私も側にいて肝が冷えました…。それに名前のインパクトも大事ですので。こちらで生きていくのにも、実力に裏打ちされたハッタリは効果覿面だったでしょう?」
「ショーちゃん聞いた?こんな美人を捕まえてあんな事いってるわよ、信じられる?いやもうババァだけどさ。」
確かに今は多少皺が寄ってるが、背筋も伸びてて顔立ちもシャキッとしてる。
綺麗なおばあさんって感じだから昔は凄い美人さんだったろうな。
笑っておどける表情に、やっぱりこの人も人間なんだなと少し安心した。
良かった〜、少しは話が進展しそうだ。
………………矢賀、ババァ……バーバ、矢賀…
駄洒落か?
「なぁ、王よ、そろそろ俺のことを思い出してくれ。お前らも和やかに談笑するならこの首元の羽を退かせてくれないか?いい加減こそばゆいぞ。」
「これはこれは失礼いたしました。」
羽を退かすソラスさん達を睨むオルク。
反応出来たはずなのに羽を当てられても動じなかった彼は流石の胆力だ。
頼りになるぜ。
それに比べて未だ簀巻きにされてる事を認識していなさそうなこの小さな酔っ払い…
『あ〜れ〜〜〜♡』
Jr.に巻き付いた糸を手繰りながら、ツルさんソラスさんペアを見て知性の差について考えてしまうショータであった。




