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魔界大戦  作者: 吹田まり
5/7

どちら様ですか?

 暗く、重く、深い水の底に沈められているような息苦しさを感じる。

 ここは夢の中、それははっきりと分かる。

 疲れと痛みで気を失うように寝た俺は、夢の中でもまた何かと戦っていた。

 何故こうなってるのか、目的は何なのか。

 相手は問いに答えず、休む暇を与えず、拳や脚が鋭く容赦なくどんな方向からも飛んできた。

 引けば嵐が雷で道を塞ぎ、風が身体を押し戻した。

 戻れば仕置きとばかりに、自由自在に身体を変化させた身体をムチのようにしならせ殴打の嵐。

 いつ終わるとも知れぬ地獄を強いられ、意識が朦朧とし始めた頃に相手は口を開いた。



「早く目覚めろ。」










 目を開くと、目の前に飛び込んで来た光景は見覚えのある毛球と…横たわる俺を覗き込む見知らぬ大勢の人。



『やっと起きたかバカ者!心配させおって!!』



 視界の全てを覆うほどに毛球が張り付いて鼻も口も毛だらけになる。



「お前それやめろよ〜俺はそれで息が出来なくて…」



 摘んで引き離した毛球はありったけの汁を顔面から垂らしていた。

 それは重力に従って俺の顔面に降り注ぐ…

 だってだってとえずきながら泣いてくれてる姿を見たら怒れないよ…

 胸の上に置き、頭を撫でる。



「心配掛けたな。」


『……つ…次は無いからなっ!』


「はいはい、分かりましたよー。」


『はいは一回でいいバカモノ!』


「分かった分かった。なぁ、Jr.。 あの方達はどなた…?」



 目を覚ました直後の、目を見開き食い入るように覗き込む彼等の姿を覚えている。

 目を開けて何人かと目が合った後、Jr.が顔面を塞いでる時にパタパタと離れて行く音はしていたが、皆少し離れて部屋の隅でモジモジしていた。

 すご〜〜〜く気になるよね、そんな事されちゃうと。



『…?何を言ってる?あいつらはお前の配下のオークではないか。』


「…?お前が何を言ってるんだ、あの人達見た目が人間…人間!?俺以外の人間…!!!」



 まだ一日も経ってないだろうに、同郷の人間の姿を目にするとやはり心が落ち着…く………?

 あれ?

 彼等のファッション……

 腰巻きだけのほぼ半裸、髑髏や牙のネックレス。

 顔は確かに人間っぽいが、がっしりとした下顎から少し牙が上に飛び出して、皆揃った特徴的な少し上向きの鼻。

 うん、凄くオークっぽい。

 そこへ床をドタドタと踏む抜かんばかりの重そうな音が響き、音の発生源は乱暴にドアを開けた。



「起きたか!!我が王よ!!」


『うるさいぞ!静かにしろと言ってるだろ!』


「ガハハ!!!すまんすまん!」



 これもオークか?

 部屋の隅にいる奴らと比べて、一際大きなマッチョが部屋に入ってきた。

 マッチョは部屋に入るなりモジモジオーク達に親指で外に出てろと指示し、皆の肩や背中を強めに叩いていた。

 皆が部屋の外に出るとマッチョはベッドの側まで来て、丸椅子を置き、ドカッと座る。



「流石に3日も寝ているから少し心配したがな!顔色も良さそうだ!流石俺を倒した男よ!」



 このマッチョ、何もかもがうるさい…

 入ってきた時よりは抑えてるっぽいけど声量が凄まじい…

 鼻と突き出た牙は他の人?達と同じだが、随分と男前なマッチョだなぁ。

 けど…



「あの…すみません、どなた様ですか?」


「王よ、つれないではないか!お互い引かず、手を握り、熱い漢の会話(なぐりあい)を繰り広げた仲だというのに…!!」



 よよよ…と泣き真似で顔を手で覆うイケメンマッチョ。

 しかしその状況には心当たりがあるが…

 …

 ……

 ………

 …………え?

 俺3日も寝てたの!?

 泣き真似はすぐに終わり、マッチョが真面目な顔をして語り出した。



「王よ、寝ている間にそこの従魔から事の成り行きは聞いた。」


『誰が従魔だ!』


「この中級悪魔は何も説明していないのだろうが、悪魔なんてこんなもんだ。基本自分の事ばかり。それでもこの従魔は王を介抱したり、まだマシな方だがな。」


『だから誰が従魔!しかも中級だとこのやろう…!』



 睨み合いを始める毛球とマッチョ。

 待って置いてけぼりにしないで俺はまだ3日も寝てた事実に付いていけてないの。

 話に混ぜて…



「まずは言わせてくれ。王よ。俺達は王に従う事にした。それに伴う見た目の変化がここまで大きいのは流石に俺も戸惑ったがな!ガハハ!」



 イケメンマッチョが語るのはオーク、性格にはオルクの民族的性質。

 狩猟民族の彼等オルクは皆武闘派。

 その中でも特に戦闘に秀でた者を王とする。

 特殊な技能や突出した筋力を持つオルクが王に代わる度、それは民族全てに僅かに伝播する。

 能力値を底上げ、平均化し、状況や時代に合わせて変化と進化をしてきたという。

 そうして少数ながらも彼等はかつての次元ではそれなりに一目置かれる存在であった。

 オルクがいたのは亜人界。



「王が分かるように言うと、人と動物の中間のような者達が溢れている。狼男などと言えば分かりやすいかな?そういう者達が溢れる世界だ。」



 オルクには王の知識も多少共有されるとの事。

 なるほど、言葉がスムーズなのはそういう事か。

 ……………知識ってどんな事まで共有されちゃうんだ?

 やだ、怖い。



「心配するな!やましい事や変な記憶まで共有されてない!ガハハ!」



 微妙な顔をしている俺に気付いてオルクは笑う。

 顔色を見て考えを読む辺り本当に人間みたいだな。



「しかし、王の記憶が流れた事により俺達がいかに甘かったかも理解した。俺達は己の肉体で強さを示し、相手に正面から勝つ事で一族を纏めてきたが…」



 ギリギリと響く歯軋りと握る拳に歪む顔は怒りに満ちてる。

 この人、人間に近づいたせいか怖く思えてきた…



「悪魔の魔力での不意打ち、騙し討ちに俺たちは反撃する事も出来なかった。いや、それも強者と戦う為の弱者の戦略ではあるが…オルクの意思を捻じ曲げ、(ポーク)と似せた名を付け俺達を侮辱した悪魔は到底許せない!!!」



 戦闘民族のプライドか。

 確かに、何も知らない状態での不意打ちから今まで貶されてきたのは納得がいかないだろうな。

 しかし負けたらそこまで、それも事実だ。

 オルクもそこは理解しているようだ。



「王よ、お前は俺と正々堂々と、正面から戦ってくれた。それだけじゃない、初めの一撃で俺に憑いていた悪魔を祓ってくれた。そうしてお前が正式に俺達の王となり、お前の知識が流れ込み、俺達は今までより強くなった。王よ、俺達オルクは王の魔界統一の一助となる事を誓う。この命果てるまでお前に忠誠を誓う!」



 テッテレー♪

 オルクが仲間になったぞ♪

 魔界統一ってなぁに?



「盛り上がっているところ失礼…そろそろ私共がお話ししても?」


「ほーんと、こっちはずぅっと待たされてるんだから。」


「…チッ。」



 さぁ、更に新キャラが現れたぞ!

 もう好きにして!



 出窓に飾られたぬいぐるみが話しだす。

 それはスーツを纏った小さな紳士…ハットとステッキがあれば完璧な紳士だろう。

 フあれはクロウ?いや、耳があるからミミズク?どっちだっけ?

 中世ヨーロッパ的なあの片眼鏡付けてるあれどうなってんだ?

 そのフクロウ紳士の側に黒い羽が舞う。

 どこからか湧いた大量の羽は一塊になり、中から妖艶な美女が顔を出す。

 美女はこちらを見て優しく微笑んだ。

 フクロウはこちらへ視線を向け、頭を少し前に倒しながら話す。



「お初にお目に掛かります。魔女様の遣いで参りました、私、ソラスと申します。こちらはマルファス。病み上がりに押し掛けた無礼を御許しください。」


「あ、いえいえ、ご丁寧にどうも…」



 驚いた。

 こんなに丁寧な対応を受けるなんて。

 フクロウのソラスさんと、マルファスさんね。

 ソラスさんはスーツを纏ったお人形さんみたいで可愛いけど、マルファスさんは羽で大事な所隠してるだけなので目のやり場に困る…

 それを察してか、ソラスさんが一瞥するとマルファスさんの羽の面積が増えてドレスのように変わった。

 どうなってんだそれかっこいい…!



「無礼と分かってるならとっとと帰れ鳥公が!ケッ!」



 オルクはずっと鼻息荒く悪態をついてるな。

 そのセリフを受けてマルファスさんがクスリと笑う。

 俺が寝てる間に何かあったのかな?

 それより聞きたいのは…



「あの、魔女様?っていうのは?すみません、俺ここに来たばかりで本当に何も分からなくて…」


「そこも含め、魔女様はショータ様とお話ししたいとの事です。ですが申し訳ありません、魔女様は結界から外へは出られないのです。そこでショータ様に来て頂きたくお迎えに参りました。」



 行くの前提ですね。

 でも地獄(こっち)サイドからそういう話を持ちかけてくれるのは助かる。



「そうですね、ぜひ…」


『ダメだ!これは罠だ!絶対行かないぞ!』



 慌ててJr.が叫ぶ。

 そんなに拒否する事か?

 この方達丁寧だし、悪意は無さそうなのに。



「なんでだよ?」


『お前は知らないだろうがな…こちらで魔女と言えば1人だけだ!バーバヤーガ、悪魔殺しのバーバヤーガだぞ!幼い悪魔達は皆教わる…奴に近づけば人形にされて実験に使われ続ける、退屈しのぎに手足をもがれる、ポーションの材料にされる。逸話はこんなものじゃ尽きない!話など出来る相手な訳がない!』


「なるほど!行きます!」


『なんで!!!?』


「悪魔殺しなんて絶対頼りになるじゃん。お前俺たちの相手が誰かちゃんと理解してる?」


『ししし、しかし!バーバヤーガは見境が無く、赤子を頭から齧るのが趣味だと聞いておるぞ!』


「そもそもそれって実話なのか?そんなまさかぁ…」



 魔女の遣いの2人を見ると即座に目を反らした。

 え、嘘…だよね?



「ゴホンっ…えぇ、色々言われておりますが、魔女様は自衛の為に戦う事はあれど、自分から仕掛ける事はまずありません。私が言うのもなんですが悪魔は卑怯ですからね、相手を陥れて悪評を流して、憂さ晴らししてるのでしょう。」



 しきりに眼鏡のポジションを直すソラスさん。

 逸話に色々と心当たりがありそうですね。



「しかし我々が赴いた1番の理由は別にあります。ショータ様、魔女様は貴方様と同郷、同種族にございます。」



 同郷!?同種族!?

 日本人!??



「よし!決まりだ、今すぐ行くぞ!」


『い、嫌だぁ〜!!!』


「王が行くなら俺も行くぞ!」


「皆さん、少しお待ちください。」



 部屋のドアが開けられ、また新たな馴染みのない声がする

 更に新キャラか?

 今日は覚える人が沢山…。

 声の方を見ると、そこに立つのはスラリとした白くて綺麗な獣人の豹。

 獣人愛好家(ケモナー)が狂喜乱舞しそうなJr.の母親だった。



『は、母上!どうかコイツを引き止めてください!このままでは私、私は喰われ…!!』


「しっかりしなさいフラウロスJr.!貴方いつまで甘えているの!貴方のお父様を助けたくて飛び出したあの勇気はどこへいったの!?あぁ、情けない…!」



 ピシャリと怒られしょげるJr.。

 他人のこういう姿を見るのはいたたまれない気持ちになってしまうがJr.は子猫みたいだから尚更胸が苦しい…

 よし!

 ベッドから起き上がり、一通り自分の身体の確認をする。

 うん、少し鈍いけど大丈夫そうだ。

 Jr.の頭を軽く撫でて、母親の方へ向き直る。



「Jr.のお母さん、初めまして。挨拶が遅れてすみません。ショータといいます。もうお身体は大丈夫ですか?」


「ショータ様、こちらこそご挨拶が遅れてすみません。そして助けて頂いてありがとうございます。悪魔はタフですし、オルクさん達のおかげもあって私はすぐに回復出来ました。Jr.共々、貴方様には返しきれない恩が出来ました。」


「いえいえそんな!成り行きですし、助けられて良かったです。…Jr.の事、こちらに任せてもらってもいいですか?」


『…………っ!?なぜそうなる!?』


「はい、失礼ですが今のやり取り、お話も聞こえていました。是非、ビシバシこき使ってください。それと、少し失礼します。」



 Jr.の母が目の前まで来て跪き、俺の手取ると自身の額に当てた。

 何かの儀式か?

 その様子にJr.が慌てふためく。



『母上!?何故従魔契約を!?』



 なんですって??



「Jr.あなた…自分と相手の力量差をちゃんと見極めなさい。契約して従魔となるか否かはその相手との力量に左右されるのですよ?どうあがいても私達がショータ様に敵う事はありません。私も貴方貴方も、ショータ様の従魔です。」


『………………えっ!!!?』



 えっ!!!?



「すみません、まだ幼い故にこの子は色々知らない事も多くて…しかしこの子は類稀な力を有しています。固有魔法の空間移動です。この子はきっと役に立ってみせます。何卒、よろしくお願いします。こちらの心配は無用です、今はオルクさん達がいますからね。心強いです。」



 オルクを見るとバチンっとウィンクして親指を立てる。

 確かに、ここを離れている間の心配は減りそうだ。

 そして色んな勘違いをしていたJr.は固まっているので肩に乗せておこう。

 そうよな、思い込んでたものが違ったらそうなるよな。

 実際何がどう影響してたのかも分からないけど、主従逆転してるんだしな。



「それはこちらも安心しました。では、遠慮なく連れて行きます。お父様も見つけないといけませんからね、任せてください。」



 Jr.の母は深々と頭を下げた。

 Jr.は肩でシクシクと泣いていたので優しく撫でる。



「おい、いつまでもベソベソして母ちゃんにかっこ悪い所見せるなよ。男だろ?あと、俺とお前の関係は対等でどうだ?上も下も無し。いいだろ?」


『ぐぬぅ…ふっ、ぐすっ…いいだろう。それで手を打とう。』



 まったく、素直なんだかそうじゃないんだか。



「よし、それじゃあ早速案内してくれ。」


「かしこまりました。人数は…」


「俺と、Jr.と、オルクの3人だ。」


「はい、では…マルファス。」


「はいよ。」



 マルファスのドレスから羽根が舞い、俺たちを囲む。周囲が完全に覆われる。

 すぐに開いたと思えばそこはもう今いたJr.の家ではなく、薄暗い森の中だった。

 周囲の木々は高く太く、太陽を遮っていた。

 ソラスが自身の頭上に蝋燭のように火を灯す。



「ようこそおいでくださいました。ここが我らが主、魔女様の森でございます。」



 ソラスの言葉に反応するように、彼の背後に生える大樹達が一斉に根を蠢かせて道を開ける。

 幹に生えたキノコが青く淡く、奥へ奥へと誘うように灯された。

 おどろおどろしい雰囲気に少しだけ不安を覚える。



「ソラスさん、ここ、オバケとかいないですよね…?」


「…………」



 ソラスさん、何で無視するの。

 ねぇ、俺の肩に乗ってる手、誰のなの………?

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