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魔界大戦  作者: 吹田まり
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プロローグ

僕と契約して魔法少女になってよ!的なお話が書きたくて始めました。

よろしくお願いします。

『力が欲しいか?』


 人生とは上手くいかないものだ。

 せっかく就職した会社はパワハラモラハラ上司の楽園。

 学も無く経験も足りない俺は耐えて従うしかない。

 仕事を押し付けられても、ミスを押し付けられても、理不尽な暴言を浴びせられても…

 いや、これだけはダメだった。



「どんなマヌケな母親から産まれりゃこんな愚図が出来上がんだ!?」



 俺の事はいい。

 母さんの事はダメだ。

 俺が産まれたばかりの頃にすぐ父は病気で他界。

 女手1つでここまで育ててくれた母さん。

 俺が起きる頃には家にいなくて、俺が眠っても遅くまで内職をしていた母さん。

 仕事の影響だろう、手はカサカサでゴワゴワしていた母さんは手を繋ぐたびにその事を謝っていた母さん。

 思春期に入り、他と比べて自分の環境や身なりを恥じ、馬鹿な子供の俺が反抗期で少しグレても、帰りが遅くても、無視する事があっても、いつもおかえりと優しく微笑んでくれていた母さん。



『あれ…ん゛っん゛っ…おい、力が欲しいか?』



 母さんはもういない。

 癌だった。

 検査で見つかってから半年で母さんは逝ってしまった。

 何一つ恩返しが出来ないままの情けない自分にも腹が立つ。

 母さんの最後の言葉が今の自分に刺さり続ける。

 "ありがとう"

 そんな言葉を言われるような立派な息子じゃない。

 だから俺はいい。

 俺の事は何と言われてかまわない。

 だから念の為にしっかりと集めてあったパワハラの証拠を盾にして上司をぶん殴ってやった。

 ヤンチャしてたとか関係無いんだ。

 俺は体格に恵まれて、昔から鍛えてないのに筋肉も人よりある。

 その俺の拳を土手っ腹に喰らった時の上司の顔は今思い出しても最高だ…

 これ!これなんだよ!

 これがダメなんだよ!!

 暴力で解決してたら何にもならねぇだろうがよ!!

 あーーーー…明日からまた仕事探さなきゃ…



『あの、聞こえてる…よね?力、欲しくない?』



 落ち着け、いいか、現実を見ろ。

 俺の名前は日野 将太 26歳。

 182cm80kg、病気も怪我もしたことが無い超ハイパー健康優良児。

 そうだ、間違いない。

 それだけが人に誇れる唯一の長所じゃないか。

 もちろんおかしな薬なんてやってない。

 今後の事を考えてちょっとナーバスになっちゃってるだけだ。

 会社との話し合いを終え、帰路に着く途中、コンビニで買った弁当を食べる為に公園のベンチでゆっくりしてただけだ。

 そこにふらっと現れた子猫ちゃん。

 まるで小ちゃなホワイトタイガーを連想させる珍しい柄の子猫が弁当を見ながらみぃみぃ鳴いてる。

 人間のご飯はあげられないからな、コンビニダッシュで猫缶買ってきたさ。

 いやぁ美味しそうに食べる姿にご飯が進む進む。

 上司はクチャラーで不愉快だったのに、何故猫の咀嚼音は癒しなのか…

 たらふく食べたら膝に乗ってきて寝てくれるご褒美タイムまで始まった。

 神対応の野良猫に心は癒されきってるはずだ。

 そうだ。

 明らかにこれからいい事が起きそう!っていう前兆じゃないか。

 だからありえないんだよこんな事。

 そんなプリティな子猫がさ?

 急に不穏な空気を纏った声色で、『力が欲しいか?』なんて尋ねてくる訳がないじゃん。

 俺の頭がおかしくなってる方が確率が高い。

 うん、そうに違いない。

 でも病院ってどうしよう精神科?脳外科?お金あんまりないし保険証もさっき返したし…



『あの…あのぉ…』



 未だ聞こえる幻聴は最初と変わって可愛い声色に変わっている。

 チラッと目線をやると、子猫は目を潤ませ前足の指をこねていた。

 無視され続けてしょげてるの?

 可愛い…

 くそっ、胸が締め付けられる…

 もういいか、なるようになれだ。



「えっと、あの、これ、俺に話しかけてるん…だよね?」


『…!! やっと私の声に気付いたか!愚鈍な人間め!』



 さっきまで涙目でプルプルしていたのが嘘のように、ぱぁっと晴れやかな顔つきに変わった。

 途中から思ってたんだけど二本足立ちするとお腹いっぱいになったぽってりボディが尚更可愛い…



 けふっと息を吐き出し、子猫ちゃんは演説を始めた。

 子猫ちゃんはいわゆる"悪魔"で、人間界に来て力を授けるパートナーを探していた。

 しかし悪魔仲間から聞いていた話とは違い、人間界は危険が溢れていた。

 鉄の箱が空も地上も走り回り、溢れかえる人間は信心の無さから自分の姿を認識出来ず蹴り飛ばされ続けた。

 這々の体で緑豊かな公園の薮に逃げ込んだ。

 しばらくすると美味しそうな香りを纏わせた人間が来た。

 匂いに釣られて出ていくと、そいつは自分を見るなり逃げ出し、かと思えば戻ってきてご飯を献上するではないか!

 殊勝なやつだ!可愛がってやろうと思ったが満腹になって眠気が止まらん。

 そこで下僕認定し、布団になってもらおうと寝ていた。

 その間、お前の記憶を読んだ。

 肉体の性能、反骨心、そして私を見る事が出来るその素質。

 条件はバッチリだ!

 お前に力を与えてやるぞ!

 …だそうだ。



 突き出したぽってりお腹にばかり目がいく。

 腰に手を当て天を仰ぐ姿がまたラブリーですね悪魔さん。

 あ、ホントかも?背中に小っちゃい羽みたいなのある。

 えこれでパタパタ飛ぶの?可愛いー♡



『おい、聞いてるのか人間!』


「あ、はいはい、力ね、うん…欲しいなぁ。でも力をくれてどうするの?代わりに魂を捧げなきゃいけないとか?」


『失礼な!私をそんな下級その為大勢一般悪魔(イーブル)と同じと思うな!そんな野蛮で下品な事はしない!ただ、協力してほしいんだ。お前がいい奴だから…その…』



 もじもじしたり威張ろうとしたり、何なのこの可愛い生き物は。

 いちいちキュンキュンさせてくれる。



「分かった。いいよ、協力するよ。何すればいい?言っておくけど大した事は出来ないよオ…」


『本当か!あのな!あのな!』



 子猫は目を輝かせ、執事を呼ぶように指を鳴らす。

 すると突如子猫の背後に亀裂が走り、何もないただの空間がメリメリと音を立てて広がる。

 いや、その亀裂の向こうから禍々しい形の指?が空間を開いていた。

 ぽっかり空いた穴の向こうからは嗅いだ事の無い匂いが漏れてきて、昔誰かが言った外国の匂いって違うよね〜なんて言ってたのをを思い出した。

 こういう感じ??

 いや待て、俺の妄想もそろそろやばいぞコレ。

 限度ってもんがあるだろ。

 ―


『契約はもう済んでるし、一緒に来て欲しいんだ!向こうへ!』


「はぇ??」



 矢継ぎ早に起こる異変、唐突なセリフ。

 思わず間抜けな返事が出た事を恥じる間も無く、子猫と共に俺はその亀裂に吸い込まれた。

 また、母さんの最後の言葉を思い出した。



 ―――――将ちゃんは大丈夫。あなたは強い子。あなたがいたからお母さん頑張れたの。ありがとうね。



 母さん、俺、本当に大丈夫かな?

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