Lesson.1「子猫が夜に鳴くとしたら」
##目的
感情を「書かずに」読ませる構造を体で覚える。
――『語らずに伝える筆圧』の研究。
お手本文献:乙一『カザリとヨーコ』(短編集:『ZOO』より)
子猫が夜に鳴くとしたら、どんな世界を見ているのだろうか。
たとえば母猫が駆けてくるシーンを思い出したのかもしれない。
時々、すぐ傍を過ぎる車の大きさにおびえたのかもしれない。
あるいは、もう会うこともない兄弟たちを、か細く呼び寄せようというのだろうか。
きゅあーぉ、と小さな鳴き声があがる。
きっと仲間のもとに帰るのが一番安全だと信じている。
私が安全だと声をかけたところで、こう答えるに違いない。
「早く帰りたい。ここはどこ」
私の言葉は押し流されるのだ。
家にきたばかりの子猫は、フードも食べず隅で固まっている。
こういうときは、触れないほうがいい。
だれでもわかる等式を無視して、家族はケージのまえにはりついた。
声をかけて関心を惹こうとし、自分の都合を押し付ける彼らを、私はただ見ていた。
得体の知れない動物を、猫が仲間と認めるだろうか。
ケージの外にいる私を見つめる丸い目が、まばたきを忘れている。
子猫は隙をついて、フードも排泄も済ませていた。
私が声をかけるとそっぽを向いて、まるで「私は空気です」と告げてくる。
一晩越えると、鳴き声は少し大きくなっていた。
時折、がさごそとケージのなかを飛び回っている音がする。
静かな夜をまたひとつ越えた。
きゅあーぉ、とまた例の声がした。
様子をうかがえば、皿のなかからフードが消えている。
あの丸い目がこちらを向いている。
前足で皿を掻く。
乾いた音が静かな部屋にひろがっていった。
本企画概要および解説は、
vs chatGPTシリーズ 『ぼっちを極めすぎて、AI(chatGPT)とケンカする』第四話に詳しく記載しています。
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