Chapter7
夢の中を歩いていた。
何故夢の中だと分かるかだって?
簡単な話だ。
地面すら存在しない宇宙空間を確かな足取りで歩いていたのなら、それはもう夢以外のなにものでもない。
この夢がいったい何を表しているのか。最初は朧気でよく分からなかったが、今では確かな目的意識を持って歩みを進めている。
脳裏に浮かび上がった自分とよく似た姿が「しっかりしろ」「後は頼んだ」と激励を送ってきたのだ。それがどういう意図で発せられたものなのか、直感で理解した。その上で、無限に広がるような空間を歩み続けているのだ。
無くしてしまった絆を取り戻すために、だ。
今更何が出来るのか、と思わないでもなかった。
こちらがどれだけ手を差し伸ばしたとしても、それを受け入れてもらえるとは限らない。
それでも、このまま何もしないで目を逸らしたくはないと思ったんだ。
それはあの日の贖罪—―罪悪感から来るものだと自覚している。
彼女を裏切った—―と言うのは言い過ぎだと彼女に窘められるかもしれないが、それに等しいだけの行いを—―彼女の元を離れてしまった事が、ずっと胸のどこかに棘のように突き刺さっていたのだ。
だが、仕事や家庭の忙しさを理由に、その痛みから目を背けてしまっていた。
その間にも彼女がどれだけ辛い思いをしていたのかも、知ろうともせずに……
「…………」
後悔に押し潰されそうな足取りだったが、一歩一歩嚙み締めるように前へと進んでいく。
気が付けば、横に並び立つ姿があった。
両隣に、更にその向こう側に数え切れない人数が同じ方角を目指して歩んでいた。
その者達も、共に歩む存在にようやく気付いたようで、顔を見合わせていた。
言葉はなかった。だが、視線が「お前もか」と問い掛けているようで、自然と皆が頷きあっていた。
顔も声も、本名すら知らない者達であったが、彼らがどういった人物なのかは魂が理解していた。
彼らはかつて一人の女性の元に集った仲間達だ。
モニター越しの彼女を、等しく応援していた同志だ。
彼らもまた、自分と同じ様に後悔を拭うために—―再び、彼女と歩むために歩み続けている。
心強い。
そう思う反面で、今は彼らと共にいない彼女はどれだけ心細いのだろうかと、胸が締め付けられる。
早く彼女の元へ。
その一心で—―だけど、足並みを揃えて果てない道行を進む。
無限にも等しい、だけど一瞬の出来事のように感じた歩みは、眼前に現れた茨の球体の前で終わりを迎えた。
横隊を組んでいた仲間の姿はなく、全員が私/俺/僕に集約されているのだと理解する。
—―この中に、彼女が――
そう思った時には、既に身体が動いていた。
複雑に絡み合った茨に手を伸ばす。ただそれだけの事で、鋭利な棘が皮膚を引き裂いていく。
痛みに表情を歪めるが、手は止めない。
彼女が感じた孤独や絶望に比べれば、この程度の痛みがなんだと言うのだ。
さっさとこんなもの取っ払って、彼女の元へ辿り着かなくてはならない。
そして、想いを伝えなければならない。
謝罪を。
感謝を。
後悔を。
希望を。
あらゆる感情を内包した願いを、彼女に届けなくては—―
彼女にもう一度逢いたい。
その一心で前へと進む。
腕だけでなく全身が傷だらけとなり、見るに堪えない状態になっている事だろう。
だが、そんな事などどうでも良かった。
彼女の元へと辿り着く。それ以外の事など今は些事でしかない。
そして――最後の壁を取り払った先で、彼女を見つけた。
こちらと同じ様に、全身が傷付いた状態で、蹲り涙を零している姿が、怯えた表情を持ち上げていく。
再び会えた高揚と、彼女を悲しませた悔恨が渦を巻き、どんな表情を浮かべているのかは自分でも分からなかった。
だけど、こちらの姿を見付けて、安堵の表情を浮かべて、目尻から雫を決壊させた姿を見て、弾かれたように駆け出し、彼女のやつれた姿を抱き締める。
「――――――――」
「―――――」
言葉は瞬く間に溶け消えてしまったが、それでも確かに私/俺/僕は再び彼女と心を通わす事が出来たのだ。
だから、もう一度ここから始めよう――君と紡ぐ物語を――




