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Chapter5

 世界を包み込んだ眩い閃光が収まり、恐る恐る瞼を持ち上げていくと正常な機能を取り戻しはじめた視力が像を結んでいく。


「どこ、ここ……」


 しかし、呆然とした声が漏れ出て、目をしきりに擦る。

 見えているはずの光景が信じられず、頬をつねってみるが――痛い、夢じゃない。

 先程まで立っていた波打ち際は見る影もなく、それどころか蒼に染まった世界すらそこには存在しなかった。

 黒い空間がどこまでも広がっていて、どこを見ても散りばめられた光点が漆黒の闇を彩っている。

 初めて訪れる場所だが、知識として私はここを知っている。

 宇宙だ。

 重力から解き放たれた宇宙空間を、私の身体が茫洋と漂っているのだ。


 ――いや、流石に違うか……


 本当にここが宇宙であるなら、空気が存在しないので生身の人間が生存出来るわけがない。

 ならここは宇宙を光景を模してはいるが、人の生命活動が保証された場所という事なのだろう。

 それがどこなのかはさっぱり分からないが、即座に命が脅かされる心配がないと分かって、緊張の糸が緩んでいく。


「さて、どうしようか……」


 出口はどこだろう。

 それに、別の世界線にいる私が放ったエネルギー体はどうなったのか。私達の『宝福』は上手く機能したのだろうか。

 疑問が止めどなく浮かんでくるが、それに対する答えを持ち合わせてはいなかったし、


 —―通信機は……機能してないか……


 頼れる仲間達からの助言を請う事も出来ず、八方塞がりな状況に辟易する。

 どうしたものかと、視線を巡らせていると—―何故今まで気付かなかったのかが不思議な程の、禍々しい気配を捉えた。

 それは、漆黒の空間の中にあっても尚、存在を際立たせている黒だった。

 直感であれが別の自分が過去に向けて放った怨念の塊だと理解する。

 膨大な質量を持つそれが、こちらを飲み込むように迫ってくる。

 あれに飲まれてはいけない。

 そう判断して、身を翻して駈け出そうとした私と擦れ違うように、


「――!!」


 無数にも等しい極彩色の光の矢が、迫る黒へと突き立っていく。

 黒がそれを取り込もうとするが、それに抗うように光の矢は膨張の果てに爆ぜ、黒を抉り取っていく。

 見る間に散り散りとなっていった黒に、追い打ちの如く後続の矢が飛来する。

 後から続いた矢は爆ぜることなく、黒と溶け合い、あらゆる方角へと飛び去っていった。

 流星群を思わせる光景に目を奪われてしまっていたが、最後のたなびきを見送った時には怨念の黒は霧散していた。


 —―これで、ひとまずは安心、ってことかな……


 黒を包み込んだ極彩色の光がどこに向かって飛んで行ったのかは分からないが、これで過去の自分が消滅するような事態は回避出来たはずだ。

 後は私がここから脱出すれば、事態は解決という事になるだろう。

 しかし、一向に元の世界に戻る気配がなければ、仲間達が救援に駆け付けてくれる様子もない。


「一生このまま、なんて事はないよね~」


 などと、平静を装って呟いてみるが、一度感じてしまった不安を払拭するには、あまりにも空虚な台詞に聞こえてしまう。

 どうしよう。どうしよう。どうしよう!?


<――! ――!?>

「誰!?」


 混乱する私の聴覚に、突如として届いた声に全身が跳ね上がる。

 通信機越しではない、誰かの肉声。その発信源はどこかと必死に探すが、


「気のせい……?」


 いや、そんなはずはない。

 言葉の内容までは聞き取れなかったが、確かに人の声が聞こえたのだ。

 精神的に疲弊してしまった状況で幻聴を聞いたのでは、と内心で結論が浮かび上がりそうになったが、すぐにそうではないと否定が入る。


「女の子?」


 視線の先に、必死の形相でこちらへと駆けてくる少女の姿を見つける。

 年端もいかない黒髪の女の子が時折背後を振り返りながら走ってくる様子に、只事ではない事態が起きているのだと身構える。


「どうしたの、って—―ええっ!?」


 彼女を保護しようと手を伸ばしたのだが、その手をすり抜けて、少女はそのまま走り去っていく。

 すり抜け—―私の手を回避したのではなく物理的に接触する事なく、まるで幽霊かのようにこちらの手を通過していったのだ。


「ちょっと待って!!」


 そもそもこちらを認識している素振りはなかったのだが、それでも静止の呼び止めを放ち、振り返ると、


「……う、そ?」


 目の前の光景に言葉を失う。

 宇宙を模した空間が消え去り、別のものへと切り替わっていたのだ。

 眩い太陽光に照らされて、トウモロコシとサトウキビが入り乱れて、風に揺られている景色。

 直接見た事はない光景だったが、胸を締め付けるような懐かしさがあった。

 最近は見る事もなくなったが、それでも忘れはしない。

 これは—―


「—―前世の記憶!?」

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