話をしたい私と話を聞きたい君の誤解と真実
――小学生時代
「お前いつもボッチじゃん!」
「ボッチのボチ男!」
「かわいそ〜〜!」
僕はいつもボッチだった。
幼馴染はいるものの、その子は俺とはあまり遊ばない。
少し前は毎日遊んでいた。
俺から離れていったんだけど、まさかこんなことになるとは思わなかった。
たぶんコイツらは莉緒のことが好きなんだと想う。
こないだ聞こえてきた。
だから、莉緒と仲が良かった僕をいじめに来たんだろうな。
「ちょっと!?誰がボッチだって!?」
そんな声が聞こえてきて、僕は顔を上げた。
なぜか悲しそうな顔をしながら僕を見つめる莉緒は怒っている。
「じ、事実じゃん!」
「何が事実よ!見る目がないクソ男どもが!行くよ!バカ唯斗!」
莉緒は僕を囲んでいた男をボロッカスに言って、僕の手を乱暴に掴んで引っ張った。
乱暴に掴まれたはずなのに、なぜか温かい気持ちになった。
しばらく歩いてから、莉緒は立ち止まって僕の方を見た。
彼女の目から、大粒の涙かこぼれていた。
「何で急に離れていっちゃうの!」
「なっ……!」
「バカぁ!」
僕を少し小突きながら泣く莉緒は、泣き止む気配がない。
僕は少し様子を見ながら、莉緒を落ち着かせることにした。
「何で急に離れていったの……?」
莉緒はようやく落ち着いたらしく、僕に質問をした。
「莉緒のためだよ。僕と一緒にいたら、他の人と仲良くできないかなって……」
「興味ないわ。周りと絡まないのは莉緒の意思なの!莉緒は色んな人と馴れ合うつもりはないの!だから、勝手に勘違いして、勝手に離れていこうとしないで!」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中の何かが撃ち抜かれたような気がした。
難しい言葉が多くて若干わからないところがあったけど、何が言いたいのかは少しだけ分かった。
それがなぜか愛おしい。
一途なところが?
どこがかは分からない。
でもなぜか、この人から離れたくない。
そんな気持ちが湧いた。
◇◆◇
莉緒が莉音で莉音が莉緒?
お?
お?
おぉん?
全く想像がつかない。
というかなぜ気づかなかった?
彩音に頭を捻り潰されそうになりながら、俺は自分の観察力のなさに呆れていた。
色々と話を聞きたけど、俺は言いたいことがある。
きっとそれを悟って、彩音は先に帰ったんだろう。
このチャンスを逃がすまい。
そう決心して、俺は莉緒と外に出た。
聞きたいこと、言いたいこと、離したいこと、たくさんある。
でも、今お前に言いたいのはこの一言。
――今も昔も、お前しか見えていない
* * *
寒い外では、手を繋いでいる恋人たちがたくさんいた。
私たちの距離は少し空いているけれど、隣を歩けるだけで十分だ。
「莉緒」
「何?」
「お前が好きだ」
「……っ!」
いきなりの告白に私は息を呑んだ。
サラッと言われたから、びっくりした。
どうせ、唯斗はいつもどおりなんでもない顔してるんだろうな。
私は唯斗の顔を見た。
彼の顔は少し赤く、目が合った瞬間逸らされてしまった。
でも、唯斗は続けた。
「小学生のときから好きだ」
「……嘘だ」
「嘘じゃない。本当に好きじゃなかったら結婚の約束なんてしない」
「じゃあ、どうして小六の時『あの約束は果たされることはない』って言ったの」
唯斗は目を見開いて、気まずそうに私の目を見た。
「聞いていたのか……」
「どうして……?」
「だって……。中学生じゃ……。結婚できないから……」
「……え?」
待って。
え?
どういうこと?
たしかに中学生は結婚はできない。
それを考えていたの……?
私は唯斗の顔を見て聞いた。
「そ、それだけなの?」
「何を勘違いしたのかは知らんが、俺は彩音は好きではない」
「え、でも公園で私のこと嫌いって……」
「……いつの話だ?」
「二ヶ月前の喧嘩した次の日」
唯斗は首を傾げて、悩みだした。
あの日、間違いなく私は聞いた。
「……。聞き間違えじゃないか?だって、嫌いって言ったの俺のことだぞ?」
「え?」
「だから、『唯斗的には自分はどうなの?』って質問に対してしか、嫌いって言葉を使ってない」
あ、そっか。
風で聞こえなかったから、想像で決めつけちゃったんだ。
じゃあ、誤解だったの……?
私の顔が一気に熱くなる気がした。
早とちり……。
恥ずかしい……。
私は唯斗の顔を見ようと顔を上げた。
「俺も質問をしていいか?」
「……え、あ、うん」
唯斗は、何か深刻そうな顔で私を見つめてきた。
吸い込まれてしまいそうなほど真っ直ぐな瞳に、私は釘付けになった。
「遊園地で一緒にいた男……。誰?」
「え?あ、伊吹のこと?」
伊吹の名前を読んだ瞬間、唯斗の顔が強張った気がした。
嫉妬……?
いやいや、自惚れるな私。
「アイツがどうかしたの?」
「つ、付き合ってるのか?」
「は、はへぇ?」
情けない声がでてしまった。
否定するべきなのに、唯斗が少し赤くなっているから、私まで赤くなってしまって話が進まない。
彩音や舞菜がいたらきっと「初心か貴様ら!」と口を揃えて言われていただろう。
仕方ない。
だって私は初恋を拗らせているだけだもん!
「えっと……。付き合ってないよ……」
「そうか」
「ぐっ……」
ホッとしたように笑った唯斗の顔が眩しい。
美形の暴力に弱い私を殺すつもりなんだろうか。
今すぐにでものたうち回りたい。
唯斗はすぐにまた顔を赤くして私を見た。
「えっと、お前が好きだ」
「さ、さっきも聞いたよ」
「お前の気持ちも伝えてほしい」
サラっとそんなことを言うこの人は本当にかっこいい。
唯斗は戸惑う私を抱き寄せて、不敵に笑った。
「い、言って良いのかなぁ……?」
視界が揺れて、私の目からは涙が流れた。
ずっと勘違いしていて、二人を騙していた私。
そんな傲慢な私が唯斗に愛を伝えても良いんだろうか。
ずっと好きだったと、伝えても良いんだろうか。
でも、伝えなければ何も始まらない。
「唯斗、私……」
後ろから誰かに口を抑えられた。
私の正面にいた唯斗は、すぐに私を助けようと動いてくれたけど、唯斗も口を抑えられてしまった。
そのまま見知らぬ車に乗せられた。
息が苦しい。
あの時と同じ……。
目の前に唯斗がいるけれど、怖い。
◇◆◇
「遅かったな。ん?要らぬものまでいるが?」
「すみません、一緒にいたので見逃すわけには……」
「まぁ、用があるものを連れてきてもらったことには感謝する」
遠くから聞こえる声には聞き覚えがある。
ぼんやりとする意識を無理やり起こして、私は起き上がった。
腕や足はロープで固く縛られていた。
顔を上げると案の定、そこにいたのは昔私を誘拐したクソジジイだった。
「せっかく釈放されたのにまた同じ罪を犯すとは……。愚かだな」
「何だ起きていたのか。昔のように怯えてはくれんのか?」
本当は怖い。
でも、弱さを見せたら終わりだ。
昔の私とは違う。
「怯える?ふざけたことを。痛い目を見ないうちに開放してくれないか?」
「お前がわしの息子と結婚するというのならばよかろう」
「はっ、誰がするか。四十過ぎのクソジジイなんて願い下げよ」
私が以前誘拐されたのも同じ理由。
この老害の息子と結婚しろと。
なぜそこまで私に執着するのか分からない。
あんな親のスネかじっているジジイに嫁ぐなんてごめんだ。
「今日は息子も連れてきたぞ」
「興味もない」
「しかしまだ来ない。もう少し待っていてくれ」
あんなやつには会いたくもない。
でも、この親子には何を言っても無駄だ。
大人しくしていよう。
「犬飼……。いや、春本莉緒さん。機嫌はいかが?」
「まさかお前がグルだったとはね。伝手とはこの老害のことか。教員免許を剥奪されてしまえ」
「酷い言われようだ」
「それ相応だと思うが?先生?」
そう、目の前に立っているのはうちの中学の先生。
以前お父さんにある依頼をしてきたクズ男だ。