表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

話をしたい私と話を聞きたい君の誤解と真実

――小学生時代


「お前いつもボッチじゃん!」

「ボッチのボチ男!」

「かわいそ〜〜!」


僕はいつもボッチだった。

幼馴染はいるものの、その子は俺とはあまり遊ばない。

少し前は毎日遊んでいた。

俺から離れていったんだけど、まさかこんなことになるとは思わなかった。

たぶんコイツらは莉緒のことが好きなんだと想う。

こないだ聞こえてきた。

だから、莉緒と仲が良かった僕をいじめに来たんだろうな。


「ちょっと!?誰がボッチだって!?」


そんな声が聞こえてきて、僕は顔を上げた。

なぜか悲しそうな顔をしながら僕を見つめる莉緒は怒っている。


「じ、事実じゃん!」

「何が事実よ!見る目がないクソ男どもが!行くよ!バカ唯斗!」


莉緒は僕を囲んでいた男をボロッカスに言って、僕の手を乱暴に掴んで引っ張った。

乱暴に掴まれたはずなのに、なぜか温かい気持ちになった。

しばらく歩いてから、莉緒は立ち止まって僕の方を見た。

彼女の目から、大粒の涙かこぼれていた。


「何で急に離れていっちゃうの!」

「なっ……!」

「バカぁ!」


僕を少し小突きながら泣く莉緒は、泣き止む気配がない。

僕は少し様子を見ながら、莉緒を落ち着かせることにした。


「何で急に離れていったの……?」


莉緒はようやく落ち着いたらしく、僕に質問をした。


「莉緒のためだよ。僕と一緒にいたら、他の人と仲良くできないかなって……」

「興味ないわ。周りと絡まないのは莉緒の意思なの!莉緒は色んな人と馴れ合うつもりはないの!だから、勝手に勘違いして、勝手に離れていこうとしないで!」


その言葉を聞いた瞬間、僕の中の何かが撃ち抜かれたような気がした。

難しい言葉が多くて若干わからないところがあったけど、何が言いたいのかは少しだけ分かった。

それがなぜか愛おしい。

一途なところが?

どこがかは分からない。

でもなぜか、この人から離れたくない。

そんな気持ちが湧いた。


◇◆◇


莉緒が莉音で莉音が莉緒?

お?

お?

おぉん?

全く想像がつかない。

というかなぜ気づかなかった?

彩音に頭を捻り潰されそうになりながら、俺は自分の観察力のなさに呆れていた。

色々と話を聞きたけど、俺は言いたいことがある。

きっとそれを悟って、彩音は先に帰ったんだろう。

このチャンスを逃がすまい。

そう決心して、俺は莉緒と外に出た。

聞きたいこと、言いたいこと、離したいこと、たくさんある。

でも、今お前に言いたいのはこの一言。


――今も昔も、お前しか見えていない


* * *


寒い外では、手を繋いでいる恋人たちがたくさんいた。

私たちの距離は少し空いているけれど、隣を歩けるだけで十分だ。


「莉緒」

「何?」

「お前が好きだ」

「……っ!」


いきなりの告白に私は息を呑んだ。

サラッと言われたから、びっくりした。

どうせ、唯斗はいつもどおりなんでもない顔してるんだろうな。

私は唯斗の顔を見た。

彼の顔は少し赤く、目が合った瞬間逸らされてしまった。

でも、唯斗は続けた。


「小学生のときから好きだ」

「……嘘だ」

「嘘じゃない。本当に好きじゃなかったら結婚の約束なんてしない」

「じゃあ、どうして小六の時『あの約束は果たされることはない』って言ったの」


唯斗は目を見開いて、気まずそうに私の目を見た。


「聞いていたのか……」

「どうして……?」

「だって……。中学生じゃ……。結婚できないから……」

「……え?」


待って。

え?

どういうこと?

たしかに中学生は結婚はできない。

それを考えていたの……?

私は唯斗の顔を見て聞いた。


「そ、それだけなの?」

「何を勘違いしたのかは知らんが、俺は彩音は好きではない」

「え、でも公園で私のこと嫌いって……」

「……いつの話だ?」

「二ヶ月前の喧嘩した次の日」


唯斗は首を傾げて、悩みだした。

あの日、間違いなく私は聞いた。


「……。聞き間違えじゃないか?だって、嫌いって言ったの俺のことだぞ?」

「え?」

「だから、『唯斗的には自分はどうなの?』って質問に対してしか、嫌いって言葉を使ってない」


あ、そっか。

風で聞こえなかったから、想像で決めつけちゃったんだ。

じゃあ、誤解だったの……?

私の顔が一気に熱くなる気がした。

早とちり……。

恥ずかしい……。

私は唯斗の顔を見ようと顔を上げた。


「俺も質問をしていいか?」

「……え、あ、うん」


唯斗は、何か深刻そうな顔で私を見つめてきた。

吸い込まれてしまいそうなほど真っ直ぐな瞳に、私は釘付けになった。


「遊園地で一緒にいた男……。誰?」

「え?あ、伊吹のこと?」


伊吹の名前を読んだ瞬間、唯斗の顔が強張った気がした。

嫉妬……?

いやいや、自惚れるな私。


「アイツがどうかしたの?」

「つ、付き合ってるのか?」

「は、はへぇ?」


情けない声がでてしまった。

否定するべきなのに、唯斗が少し赤くなっているから、私まで赤くなってしまって話が進まない。

彩音や舞菜がいたらきっと「初心か貴様ら!」と口を揃えて言われていただろう。

仕方ない。

だって私は初恋を拗らせているだけだもん!


「えっと……。付き合ってないよ……」

「そうか」

「ぐっ……」


ホッとしたように笑った唯斗の顔が眩しい。

美形の暴力に弱い私を殺すつもりなんだろうか。

今すぐにでものたうち回りたい。

唯斗はすぐにまた顔を赤くして私を見た。


「えっと、お前が好きだ」

「さ、さっきも聞いたよ」

「お前の気持ちも伝えてほしい」


サラっとそんなことを言うこの人は本当にかっこいい。

唯斗は戸惑う私を抱き寄せて、不敵に笑った。


「い、言って良いのかなぁ……?」


視界が揺れて、私の目からは涙が流れた。

ずっと勘違いしていて、二人を騙していた私。

そんな傲慢な私が唯斗に愛を伝えても良いんだろうか。

ずっと好きだったと、伝えても良いんだろうか。

でも、伝えなければ何も始まらない。


「唯斗、私……」


後ろから誰かに口を抑えられた。

私の正面にいた唯斗は、すぐに私を助けようと動いてくれたけど、唯斗も口を抑えられてしまった。

そのまま見知らぬ車に乗せられた。

息が苦しい。

あの時と同じ……。

目の前に唯斗がいるけれど、怖い。


◇◆◇


「遅かったな。ん?要らぬものまでいるが?」

「すみません、一緒にいたので見逃すわけには……」

「まぁ、用があるものを連れてきてもらったことには感謝する」


遠くから聞こえる声には聞き覚えがある。

ぼんやりとする意識を無理やり起こして、私は起き上がった。

腕や足はロープで固く縛られていた。

顔を上げると案の定、そこにいたのは昔私を誘拐したクソジジイだった。


「せっかく釈放されたのにまた同じ罪を犯すとは……。愚かだな」

「何だ起きていたのか。昔のように怯えてはくれんのか?」


本当は怖い。

でも、弱さを見せたら終わりだ。

昔の私とは違う。


「怯える?ふざけたことを。痛い目を見ないうちに開放してくれないか?」

「お前がわしの息子と結婚するというのならばよかろう」

「はっ、誰がするか。四十過ぎのクソジジイなんて願い下げよ」


私が以前誘拐されたのも同じ理由。

この老害の息子と結婚しろと。

なぜそこまで私に執着するのか分からない。

あんな親のスネかじっているジジイに嫁ぐなんてごめんだ。


「今日は息子も連れてきたぞ」

「興味もない」

「しかしまだ来ない。もう少し待っていてくれ」


あんなやつには会いたくもない。

でも、この親子には何を言っても無駄だ。

大人しくしていよう。


「犬飼……。いや、春本莉緒さん。機嫌はいかが?」

「まさかお前がグルだったとはね。伝手とはこの老害のことか。教員免許を剥奪されてしまえ」

「酷い言われようだ」

「それ相応だと思うが?先生?」


そう、目の前に立っているのはうちの中学の先生。

以前お父さんに()()()()をしてきたクズ男だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ