離れたい私となぜか怒っている君の二ヶ月ぶりの再開
「何でここにいるの……。唯斗……」
私は、伊吹と来た遊園地で唯斗に会ってしまった。
何で?
どうして?
この街にいることは誰にも言ってないのに……。
「唯斗!いきなり走り出してどうしたの!?」
遠くから走ってきたのは彩音だ。
彩音は唯斗の横に着くなり、息を整えている。
唯斗はさっきから黙ったままで、私と伊吹をじっと見ている。
「ねぇ、唯斗!聞いてる……の」
彩音は私を見て目を見開いた。
そっか。
二人で来たんだ。
デートを……。
しに来たんだ……。
もうすでに、二人は恋人同士だったんだ……。
体温が少しずつ上がっていくような気がした。
唯斗が私に近づこうと足を動かした時、隣りに座っていた伊吹が勢いよく立ち上がって、私と唯斗の前に立ち塞がった。
「いきなり話しかけてきて、いきなり睨んでくるなんて横暴が過ぎるんじゃないか?」
「横暴?睨んですらいないが?」
「俺の連れに何か用?」
「そいつと話がしたい。渡せ」
唯斗と伊吹は口論を始めた。
伊吹は温厚で、滅多に怒ることがない。
小競り合いのときの言い方は決して怒っているわけではない。
もともとそういう口調だ。
いつもと変わらない口調のはずなのに、怒りを含んでいるようにも聞こえる。
「悪いけど、デート中なんだ。そちらもだろう?」
「いや、こっちは……」
嫌だ。
聞きたくない。
私は伊吹の腕に抱きつき、おそらく赤いであろう顔を上げた。
「伊吹……。行こうよ……」
「莉緒!待って!」
彩音が私を呼び止めた。
何がしたいのかな?
「莉緒、あなた……。なにか誤解をしていない?」
「誤解?してないよ。してたとしても興味もない。彩音、私は言ったよね?彼のことが好きだって。自分は彼をなんとも思ってないって。それを信じた私が馬鹿だった」
「待って莉緒!話を……」
「勘違いしないでね。恨んではいないよ。お幸せにね」
私は伊吹を再び歩き出そうとした。
でも、今度は唯斗に腕を掴まれた。
すこじ痛いくらいに。
伊吹は唯斗を睨みつけている。
警戒してくれるのはありがたい。
けど、これはこちらの問題。
「さっきから何の用?そろそろ行きたいんだけど」
「莉緒……。あの約束は……?」
唯斗は真剣な眼差しで私に問いかけた。
約束……。
――中学生になったら結婚しよう!
あれではないんだろう。
そうやって、いつも期待させて地獄に落とす。
もううんざりだ。
「……っ。嘘つき」
俯いた唯斗は、絞り出すように唯斗はそう言った。
嘘つき?
そんなこと、唯斗にだけは言われたくない!
私は唯斗の腕を乱暴に振り払って、伊吹とその場を去った。
「あれがお前の好きな人?」
「もう彼女がいたなんてね」
「っていうかさ、さっきの本当にお前だよな!?」
「そうだよ」
「最早別人格じゃねぇか!」
失礼な。
私はやるときはやるぞ。
何ていうんだっけ……?
「YDK。やればできる子?」
「それだぁ!」
「バーカ、お前はいつでも出来てるだろ」
伊吹は私の頭に手を置いて、私に笑いかけた。
それがなんだか、私に向けられるに値しないような気もしてきた。
伊吹って顔だけは良いからなぁ……。
「おい、お前今なんか失礼なこと考えただろ」
「うわ、キモ過ぎ。何で分かったの?……あ」
「何となく言っただけだったけど、本当に考えていたとはな」
伊吹の顔が強張ってっていく。
やっべぇ……。
私はその場から逃げることにした。
◇◆◇
『莉音、相談がある』
唯斗からそんなメールが来たのは、その日の夜だった。
お風呂から上がって、スマホを見ると短い文でそう書かれていた。
なんだろう。
正直会いたくない。
けど、莉音頼まれたことだし、莉緒の私情を挟むわけにはいかない。
『分かった。いつ?』
『明日。前に行ったカフェで』
『分かった』
明日は日曜日、予定もないから問題ない。
私は覚悟を決めていくことにした。
◇◆◇
「ねぇ、何でそんなにジメジメしてるの?」
「色々あって……」
昨日ぶりに会った唯斗は、妙にジメジメした雰囲気を出していた。
そんなに私と会ったのが嫌だった?
それに……。
「へー、本当に莉緒にそっくりだね」
何で彩音までいるんだよ!
てっきりバレたかと思ったけど、バレてなかった。
ていうか、相談に乗るだけなのについて来るって……。
嫉妬深すぎない?
……私が言えたことじゃないな。
「それで、話っていうのは?」
「まず先に紹介しておく。幼馴染の朝川彩音だ」
「幼馴染ってことは、その人が好きな人?全く私と似てなくない?」
「違う、彩音とはそういう仲じゃないんだ」
おいやめろ。
傍から見たら結構ド修羅場だ。
「唯斗が好きなのは、犬飼莉緒っていう子なの」
「え?」
犬飼莉緒?
それって私のこと?
いやいやいや、そんなことは……。
ありえない。
「これがその子の写真」
彩音が差し出してきたスマホの画面には、クレーブを美味しくいただいている私の姿があった。
これは……。
小六の時に一緒に食べたクレープだ。
そんな事あったなぁ。
いや、今問題なのはそこじゃない。
これは明らかに私だ。
「昨日、二ヶ月も休んでるその子と遊園地で再開したの。莉緒は、まるで私と唯斗が恋仲だと勘違いしているような事を言ってきた」
言ったなぁ!
白熱しちゃったなぁ!
――勘違いしないでね。恨んではいないよ。お幸せにね
やらかしたかもしれない。
もし、この話が本当だったらまずいぞ。
「だから、唯斗はこんな状況に?」
「……ううん、それはほんの一部」
「え?」
「一番ショックだったのは、約束を忘れられていた上に、自分と莉緒はデート中だと宣言した彼氏っぽい男がいたこと」
うん、伊吹の話だな。
やっべぇ……。
あ、約束のことを詳しく聞かないと。
「約束って……」
「昔、唯斗と莉緒は『中学生になったら結婚しよう』って約束してたの」
私は息を呑んだ。
今でも覚えてる約束……。
破ってほしくなかつた約束。
違う約束だと思った私は唯斗になんて言った?
――約束?何の話?
最低だ、私。
あんなことしておきながら……。
唯斗をこんなに悲しませておきながら……。
私はのうのうと二人と話している。
そんなのは嫌だ。
「ごめんね、唯斗」
私は立ち上がって、頭を下げた。
「え?莉音、何を……」
唯斗は戸惑っている。
私は普段遣いしてるスマホを取り出して、机においた。
「これ……。莉緒のスマホ……?」
私はスマホを指紋認証でロックを解除して、メールのアプリを開いた。
そして唯斗のメールを開いて、こう送った。
『私が莉緒だよ』
そのメールを見た二人は、目を見開いて私を見た。
「私が莉緒。犬飼莉緒。本名、春本莉緒。ここから見える大手企業の社長の娘」
「「え?えええぇぇぇぇぇぇぇえぇえ!?」」
すっごいデジャヴ。
全開よりも人が増えている。
「待って、莉音が莉緒、莉緒が莉音?」
「俺、本人に恋愛相談してたの!?」
「ごめん。唯斗と会った日、お父さんと会ってたの。でも、私がお父さんの娘だってことは秘密なの。だから言い訳が思いつかなくて、咄嗟に莉音って名乗ったの」
私は二人に詳細を話すと、彩音は唯斗の首を左腕で絞めて、唯斗の頭に拳を当ててグリグリした。
「ようはこいつが悪いってわけね」
「痛い!彩音、痛い!」
悲鳴を上げる唯斗を無視して、彩音は少し笑った。
そして、唯斗に見えないようにスマホで何かを打ち始めた。
『私は、裏切って無いでしょう?いつでも二人の、莉緒の幸せを願ってるからね。言いたいことを、全部唯斗にいいな。私は帰るから』
私は彩音を見た。
彩音は私と目があってすぐに、ウインクした。
涙が出そうになった。
私はこんなに優しい人に、あんなに酷いことを言ってしまった。
「彩音、本当にごめんね」
「大丈夫、それじゃ」
彩音はカバンを持って立ち去った。
残された私達はしばらく沈黙が続いた。
「い、行くか……」
「う、うん……」
私たちは、久しぶりに隣を歩いてお店から出た。
みなさんこんにちは!春咲菜花です!この始まりからもそろそろ飽きてきましたね……。次はちょっと変えてみたいと思います!今回のエピソードはどうでしたか?莉緒が莉音であることをカミングアウトしました!唯斗の好きな人も発覚しましたね。この後の展開をどうしようか迷っています。実は言うと、この物語や「幽霊少女に救われたい」などは、思いついたことを書き連ねて、物語にしているのでこの先の展開が決まっていません!すみません!作者の私もこの後の展開に迷ってます!ですが、できるだけ楽しんで頂けるようにします!長々と申し訳ございません!次回もお楽しみに!