諦めたい私と会話をしようとしない君の疎遠状態
昨日は嫌なものを見た。
グロいものとか、汚いものとかでもなく、私にとっては嫌なものだ。
彩音……。
彼女が私と唯斗の幼馴染だ。
中学は違う学校に進学したが、昨日二人が登校前に一緒にいるのを見た。
あれは間違いなく唯斗と彩音だ。
腕を組んで、仲が良さそうに歩いていた。
気になった私は二人の後をつけて、話を聞いた。
でも、内容は絶望的だった。
◇◆◇
――昨日
「最近莉緒とはどう?」
「どん底」
「あら〜」
何の話をしているんだろう。
私は二人が入った公園の木の陰で聞いていた。
「唯斗的に――はどうなの?」
風の音で誰がとは聞こえなかった。
でも、多分私だろう。
「嫌いだ。大っ嫌いだ」
「そんなに?」
「当たり前だ。自分を何でもできる超人とか思ってるんだろうな」
嫌われてるんだ、私。
やっぱり、彩音に勝つなんて無理なんだなぁ。
いつの間にか涙がこぼれていた。
声を上げそうになったけど、なんとかこらえて、私は走って逃げた。
私はいらない。
必要ない。
◇◆◇
こんなことで折れる心を持つ私は、なんて情けないんだろう。
「莉緒、ご飯よ。あなた、ストレスがお腹にも来てるでしょう?」
「え?どうして……。それを……」
「今週はご飯を残しがちだったから」
お母さんは気づいてたんだ。
早く治さないと。
これ以上迷惑をかけちゃうわけにはいかない。
「莉緒」
お母さんは座っている私を、上から抱きしめた。
お母さんの温かさにまた涙が出そうになった。
「莉緒、焦らなくてもいいのよ。ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから、良くなって。迷惑だなんて思ってないから。ね?」
お母さんには何でもお見通しだな。
明らかに私が悪い喧嘩でいじけて、彩音との会話を勝手に聞いて傷ついた私に、優しくしてくれるお母さんが好きだ。
お母さんはきっと私や梓、お父さんを愛しているんだろう。
私もお母さんたちが好きだ。
でも、自分は嫌いだ。
――一週間後
熱は下がって、学校に行ける状態になった。
一週間も学校を休んでしまった。
授業に追いつけるだろうか……。
そんなことを考えながら、一週間ぶりの制服に袖を通した。
唯斗と距離を置こう。
私は一階に降りて、お母さんたちとご飯を食べた。
「お姉ちゃん、もう学校行ってもいいの?」
「うん、熱は下がったしね」
「でも、無理はしないでね」
梓とお母さんは優しい声でそう言ってくれた。
私はいつもより早く家を出た。
きっと、いつも通り唯斗が家に来るから。
「いってきます」
「いってらっしゃい。……体調が悪くなったら帰ってきていいからね」
私はお母さんに微笑んで、家を出た。
学校には正直行きたくない。
舞菜や結城、クラスの子にも心配かけただろうし。
登校したら、案の定友達が叫びながら抱きついてきた。
結城は安心したように笑った。
舞菜は未だ登校していなかった。
唯斗もそうだ。
しばらくしてから登校してきた舞菜は、私を見るなりカバンを落とすほど喜んでいた。
でも、唯斗は何も知らないような顔で登校してきた。
あんな些細な喧嘩がここまで発展するなんて……。
また熱っぽくなってきた。
私はお母さんに電話をした。
「熱が上がっちゃった」
『……そう。迎えに行くわ』
「あと、お父さんに伝言を伝えてほしいの」
私は、お母さんにお父さんに伝えてほしいある話をした。
『本気なの?』
「期間は一ヶ月。これ以上続くようならだけど……。お母さんたちに迷惑かけたくないからね」
『でも……』
「いいの。決めたことだから」
『分かった』
お母さんは私の覚悟を受け止めてくれたらしい。
あとはお父さん次第だけど……。
きっと、「お前が決めたことなら」とか言うんだろうな。
私は保健室に行き、お母さんの迎えを待った。
お母さんが急いで来てくれたから、すぐに帰ることができた。
「原因は学校なの?」
「うん。何が原因かは分かってるから」
「でも、本当に良いの?舞菜ちゃんとも、唯斗くんとも、結城くんとも離れ離れになるのよ?」
「一時的だから大丈夫。きっと時間が解決してくれるはずだから」
私はお母さんに微笑みかけた。
そう、あくまでお試しだ。
ストレスなんて時間が解決してくれる。
きっと、なんとかなるだろう。
「責任感が強い子ね」
お母さんは困ったように言った。
そこには優しさもあった。
◇◆◇
「莉緒!まだかよ!」
「待ってよ!伊吹!女子は準備に時間が掛かるの!」
「知るか!」
「うっわぁ、なにそれ〜!そんなんだからモテないんだよ!」
私は隣町の親戚の家に引っ越して、学校を変えた。
一時的なものになるはずだったけど、楽しすぎて正直戻りたくない。
あの学校はちょっと性格悪い人が多いから……。
ね……?
「おっせぇな。早く来いよ」
「うっさい。この非モテが」
私といる男の名前は加藤伊吹。
転校して初めてできた友達だ。
唯斗とも小競り合いはしてたけど、ここまでできるのは伊吹だからこそだろうな。
あれから二ヶ月たった。
心因性発熱は収まったけど、唯斗を思い出すとやはり体温が上がる。
「そういえばお前さ、前の学校に戻らないのか?」
「百岡中には……。あんまり戻りたくないかな……」
「好きな人に悪口を言われて、それがストレスになって体調を崩した……。ねぇ……」
伊吹は少し考えるような仕草をして、すぐにハッとした表情になった。
そして、私の方を見て不敵に笑った。
「じゃあさ、ようはそいつを忘れれば完結する話だろ?」
「は?」
「他に好きな人を作れば、簡単に忘れられるだろ?」
「何言って……」
「うちの学校で好きな人を作れ!距離が近い人がいいよなぁ……」
伊吹はチラチラこちらを見て言った。
何が言いたいんだろう。
ていうか、私に唯斗以外を好きになることができるんだろうか。
彩音と唯斗……。
お似合いすぎて嫌になる。
駄目だ。
今日は伊吹と出かけるんだし、他ごとを考えるのは申し訳ない。
楽しもう。
「伊吹!行こう!」
「……っ!い、いきなり何だよ……!」
今日行くのは遊園地。
私が行きたいとわがままを言って、ここになった。
ここはジェットコースターが多い。
だからここを選んだんだ。
私は伊吹の方を見て、不敵に笑った。
「伊吹、これからジェットコースターを十連ね」
「……え?いやいやいや、混んでるぞ?」
「だから全部の乗り物を優先で乗れるチケットを買ったんでしょ?」
唯斗は真っ青な顔をした。
きっと私にスケジュールを任せたことを後悔したんだろう。
◇◆◇
私は自販機で水を買って、ベンチに座っている伊吹のところに戻った。
どうやら十連はキツかったらしい。
「ごめん、大丈夫?」
「あぁ……。お前タフ過ぎないか?」
「そう?普通じゃない」
「ジェットコースターを十連してこうならないとか……。キモすぎ」
シンプルにキモがられた。
やっぱ伊吹といるのは気楽でいいな。
「ね、さっきの話、結局どういう意味なの?」
「あー、こんな場では言いたくないな」
伊吹は、私の腕を掴んで顔を近づけた。
「何?」
「もっとロマンチックなところで言いたい」
「君はロマンチストだったの?以外だわ」
いやぁ、本当に意外だ。
ロマンチストには見えないなぁ。
何ていうんだっけ。
えっと……。
「ギャップ萌え?」
「は?」
「ギャップ萌えだぁ!伊吹はギャップ萌えがすごいんだ!」
伊吹は私の手を離して、大きくて長いため息をついた。
なんかやらかした?
やばい?
「お前に遠回しな伝え方が通じないとは分かってた」
「え?」
「でも、ここまでとは思わなかった」
「え?」
「莉緒!俺は……!俺は……!」
「……何をしているんだ。莉緒」
背筋が凍った。
どうして……。
何で……。
「何でここにいるの……。唯斗……」
みなさんこんにちは!春咲菜花です!今回も読んでくださりありがとうございます!今回は意外な展開が多かったんですかね……?書いてるとよく分からなくなります。さて、今回は更新が少し早めになりました。リア友が「何であんなに気になるところで止めるんだ!」と言ってきたので急いで書きました。楽しんで頂けると嬉しいです。次回もお楽しみに!