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心が弱い私といつも通りじゃない君の終わらぬ痴話喧嘩

「お前……」


何を言われるんだろう。

嫌味?

それとも私が莉音だってバレた?

いや、それはないか。


「お、俺以外の男にイケメンとか……。言うなよ……」

「は?」


ん?

聞き間違い?

え?

そんな深刻そうな顔で?


「ごめん、聞き間違い?」

「違う。俺以外のやつにイケメンとか……。その……言わないで欲しい……」


唯斗の様子がいつもと違うんだけど!?

なんか顔赤いし。

え?

愛してるゲームやってるときすら照れないのに今日なんか変じゃない?

次の瞬間、唯斗は私にもたれかかってきた。


「唯斗?」


私は彼の体をなんとか支えて、地面に寝転ばせた。

唯斗の額に手を当てた。


「熱い……」


熱が出てる。

どうしよう。

保健室に運んだほうが良いかな?

でも、私じゃあ唯斗を持ち上げられない。

私はポケットからスマホを取り出して結城に連絡した。


「もしもし?」

『莉緒か?どうした?』

「ちょっとトラブった」

『え?大丈夫か?』

「ヤバめ。早く屋上に来て」

『分かったすぐ行く!』


なんか言い方をミスった気がする。

まぁいいか。

屋上のドアが勢いよく開かれた。

ガシャン!という音を立てて。


「無事か!?」

「早っ!……舞菜は?」

「他のやつに任せた。で、どういう状況?」


結城は私と倒れてる唯斗を見て、困惑した顔をした。

そして、少し考えるような仕草をして空を見上げた。

何をしてるんだろう。

屋上は寒いから早く室内に唯斗を運びたいんだけど。


「唯斗……。お前は勇敢だった」

「死んでない死んでない。熱、病人」

「あー」


結城はすべてを察したようだ。

私達のもとに近寄ってきて、唯斗を持ち上げようとした。

でも、持ち上がらないようだ。

いや、持ち上がってはいるか。

数十センチ。

忘れてた。

結城も力はあんまりないんだった。


「莉緒、腕を持て。俺は足を持つ」


あ、なるほど。

非力な人が二人いるなら、分力すれば運べる。

やっぱ結城を呼んで正解だった。


「せーので行くぞ」

「「せーの!」」


なんとか唯斗の体は持ち上がった。

しかし、階段とかはどうするか。

とりあえず屋上から出ることにした。

ドアのところで唯斗をおいて、結城が勢いよくドアを開けた。

勢いで開いたドアに滑り込むってことかな?


「がっ」


変な声が聞こえて足元を見ると、ドアの角が頭にクリティカルヒットしていた。

結城は思いっきり吹き出して、四つん這いになった。

地面を叩いている結城をほっといて、私は唯斗を少しずらしてまたドアを開けた。

結城は使えないし、私がなんとかしないとな。

……蹴るか。


「えい!」

「ぐっ」


思い切り唯斗を蹴り、校舎にいれることは成功した。

が、私の蹴りは唯斗のみぞおち辺りにあたった。


「結城、笑ってないで保健室に運ぶよ」

「……わ、悪い悪い……。ぶふっ」


その後も何度か唯斗が私達の手から落ちたり、階段から落ちたりしたけど、なんとか保健室にたどり着いた。

保健室のドアを開けると、保健室の先生が私達を見て、目を見開いていた。

息を切らす私と結城。

ボロボロな唯斗。

唯斗と私と結城を見て、戸惑っている。


「唯斗が熱を出してしまったので、連れてきました……」

「なぜ岡山くんはそんなにボロボロなの?」

「……色々ありまして」

「そ、そう……」


私は時計を見た。

そろそろ五限が始まる。

先生は唯斗をベッドに運んでるから、今いなくなってもバレないよね?

私は結城の袖を引っ張って、時計を指差した。

私と結城は顔を見合わせて頷いた。


「とりあえず教室に戻りなさい。授業が……。もういない!」


◇◆◇


私は家のベッドで仰向けになっていた。

あの後、唯斗がどうなったのかは分からない。

会う気にもなれない。

このまま寝てしまおうかな。

そう思って、目を閉じたら電話がどこかで鳴った。

私は起き上がって、机の上にあったスマホを取りに行った。

……唯斗からだ。


「……よし、スルーしよう」

それにしてもお腹が痛い。

どうしたんだろう。

ここのとことろずっと痛い。

でも、トイレに行っても何もでない。

何でだろう。

私は眠ることにした。


「明日なんか来なきゃ楽なのに」


◇◆◇


頭が重い。

お腹が痛い。

目覚ましの音が遠くに聞こえる。

私はなんとか目覚ましを止めることができた。

どうしたんだろう。

昨日は平気だったのに。

とりあえず一階に降りて、お母さんに話をしよう。


「あら、おはよう莉緒。どうしたの?」

「ちょっと熱っぽいかも」

「大変!体温計はどこだったかしら!」


お母さんは急いで体温計を探して持ってきてくれた。

三十八度五分。

高熱だ。


「あら、唯斗くんのが移ったのかしら。今日は学校を休んで病院に行きましょう」


お母さんは優しく微笑んでそう言った。

熱を出すのはいつぶりだろうか。


「ほら、早く着替えてらっしゃい」

「あ、うん」


お母さんはすぐに車を出してくれた。

いつも迷惑かけちゃって申し訳ないなぁ。

にしても、どうして急に熱なんて出たんだろう。


「犬飼さんですね。待合室でお待ち下さい」


受付を済ませて、別室に向かった。

熱が出ている人は基本的に別室に通されるらしい。


「お母さん」

「どうしたの?」

「いつも思ってるけど、どうしてお父さんの名字を名乗らないの?」


そう、私の家はなぜかお父さんの名字を名乗らない。

春本がお父さんの名字、 私の本当の名字。

春本って名字なんていくらでもいるはずなのに。


「この街で春本は、あの会社の社長であるお父さんだけだからよ」

「え?そうなの?」


なるほど、それなら納得だ。

この街で春本を名乗ればお父さんの家族だと怪しまれるからか。


「犬飼莉緒さん」


看護師さんに呼ばれて、私とお母さんは診察室に入った。

先生は優しそうな顔をした若い男性だった。


「今日はどうされましたか?」

「娘が急に発熱しまして」

「急な発熱ですか……」


先生は少し考えるような仕草をして、診察を始めた。


「喉も腫れてないし、鼻水も出てない……。心因性発熱……。ですかね」

「心因性発熱?」


お母さんは首を傾げた。

私も初めて聞いた名前だ。

心因性ってことは、ウイルスとかによるものじゃないのかな。


「最近、ストレスになるような出来事がありましたか?」

「あ……」


昨日……。

いや、最近ずっとだ。


「心因性発熱は、過剰なストレスにより体温が上がってしまうものです。ウイルスなどによる発熱ではないので、解熱剤は効きません」

「そんな……。じゃあ、どうやって下げれば良いんですか?」

「基本的に安静に、そしてリラックスできる環境で病養することが大切です。治るまでの期間は不明です」


しばらく学校に行けないかもしれないってことかな。

それはそれで良いのかもしれない。

家にいればきっと安心できるし、すぐに治るだろう。


「ストレスが無くなるのが一番の解決方法なんですけど、それは難しいでしょう」

「なるほど……。ありがとうございました」


私たちは診察室を出た。

ストレスか……。

きっと昨日のやつなんだろうな。


「莉緒、ストレスって何か分かる?」

「……」


言いたくない。

こんな情けない理由でメンタルが壊れたなんて。

お母さんは心配そうに私の顔を見ている。


「言いたくない?」

「……ごめんなさい」

「良いのよ。言いたくないことが無い人間なんていないんだから」


お母さんの優しい声を言葉、顔がすごく苦しい。

優しくされると泣きたくなる。

情けない。

メンタルが弱い自分が……。

あんなことでストレスを感じる自分が……。

すごく……。


「情けない……」


私の小さなつぶやきは、お母さんは気づかなかったようだ。

無意識に出てきた小さく、弱々しい一言は。

空気の中に静かに溶けていった。

みなさんこんにちは!春咲菜花です!今回は少しシリアスな展開を入れてみました!ずっと平和でいてほしいと思ってくださった方には大変申し訳無いです。次回も楽しみにして頂けると幸いです!また次のエピソードでお会いしましょう!

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