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心が欲しい私とそれを知らない君のお話

七年前


「じゃんけんぽん!」

「あー!また負けた!」

「莉緒が鬼だぁ!にぃげろぉ!」


私と唯斗はその日も元気よく遊んでいた。

いつものように、二人で鬼ごっこをして。

すぐに終わってしまうけれど、すごく楽しかった。


「つかまえた〜!」

「最後なのに終わるの早いよ〜」


その日はもう、だいぶ日が暮れていて最後の鬼ごっこになった。

私たちは手を繋いで家に帰った。

家が隣同士だから、いつも一緒に帰っていた。


「またね〜」


その日はいつもどおり、晩ごはんを食べて布団に入った。

夜中にトイレに行きたくなって、一階に降りた。

トイレを終えて、部屋に戻ろうとしたら、リビングの電気がついていたから、私は少し開いたドアの隙間から中を覗いてみた。


「莉緒、唯斗くんが大好きよね。この間、結婚の約束までしてたわよ。微笑ましいわね」

「そうだな。そういう約束は破られるのがオチなんだよなぁ……」

「そうだわ!いっそ貴方が社長だとカミングアウトして、唯斗くんと莉緒を婚約させるのはどう?」

「いい考えだな。向こうも莉緒が好きなんだろう?なら、明日にでも……」

「駄目!」


私はドアを思い切り開けて、叫んだ。

二人は驚いたように目を見開いた。


「莉緒は唯斗と無理やり結婚したいんじゃないの!」


お父さんは少し笑って、椅子から立ち上がった。

私のところに来たお父さんは、私の頭を優しく撫でて言った。


「なら、やめよう。心が欲しいんだろう?」

「うん!」

「もう遅い。寝なさい」


私はお父さんの言うことを聞いて、そのまま寝た。

翌日も、その翌日も、私は唯斗とと一緒に遊んだ。

社長の娘だということを七年も隠しながら。


◇◆◇


「ということ。……なに泣いてるの?」


話し終えると、唯斗は号泣していた。

今の話で泣くところあった?

嘘をつき続けてましたって話だけど……。


「いや……。小さい時の莉音がいい子過ぎて……」

「ありがとう」

「でも、社長令嬢って色々めんどくさそう。誘拐とかされたり……」

「……っ」


私は背筋が凍った。

思い出すな。

忘れろ。


「莉音?……もしかして、トラウマだったりする?」


唯斗は私が少し震えてることに気づいて、私の様子を伺った。

私は小さく頷いた。


「あー……。すまん。配慮が足りなかった」

「ううん。未熟な私が悪いから」


よしよし、少し落ち着いてきた。

私は落ち着いたことを伝えるために、笑顔で言った。


「もう大丈夫だよ。帰ろう。あ、待って!アニメイト寄りたかったんだ。先帰っていいよ」

「いや、俺も行く」

「え、でも悪いよ」

「詫びだ。なんか奢ってやる」


唯斗ってこんなに太っ腹なの?

どうしよう、甘えちゃおうかな。

ちょうど「光り輝く明日を目指す」のアリスティアちゃんとレイチェルくんの限定アクスタが発売してるんだよね。

ちょっと高いけど。


「いいの?ちょっと高いけど……」

「あぁ」


唯斗は笑った。


◇◆◇


「たっか!アクスタがこんなすんのか?」

「人気のアニメだからね〜」

「幼馴染が見てるわコレ」


唯斗は渋々買ってくれた。

幼馴染ってどっちだろう。

私も彩音も見てるけど……。

どっちもか。

うん、好きな方とは言ってないもんね。

でも私、唯斗にこのアニメが好きだって言ったっけ?


「やっぱり自分で買うよ。お金あるし」

「良いって。トラウマを思い出させたんだ。代償は重い」

「律儀だね」


私はやっぱり奢ってもらうことにした。

二千円の推しのアクスタ、を好きな人が買ってくれた……。

大事にしよう。

私達はアニメイトを出て、商店街を歩いた。

家に帰るには、少し歩かないといけない。


「莉音、連絡先を教えてくれないか?」

「え?」


まずい。

莉緒としての連絡先が唯斗のスマホにある。

アカウントを複製する?

いや、時間がかかって仕方がない。

私はゲーム用のスマホを持ち歩いていることに気がついた。

いつもは家にあるけど、今日は持って来てたんだ。

このスマホの連絡先を教えよう。

私はゲーム用のスマホを取り出して、唯斗に差し出した。


「はい」


私がスマホを差し出すと、唯斗はパッと明るい顔をして、連絡先をスマホに登録した。

そんな顔されると、嫌なんて言えないじゃん。

私と唯斗は無事連絡先を交換して、それぞれ帰った。

唯斗の家の通りと反対の通りに行き、少し散歩してから家に帰った。


◇◆◇


「あー、それはそれは……。ご愁傷さま」

「まだ死んでなぁい……」


私は昨日と今日の話を洗いざらい舞菜に話した。

そして、哀れみの目を向けられた後に、呆れた目をされた。

流石に大手企業の社長の娘だと言うことは言ってないけど。


「どうしよう……」

「自業自得だよ。そんな嘘つくなんて」

「……人には言えない理由があるんだよ」

「そっか、でも」


舞菜は立ち上がって私を見た。


「おいたが過ぎると痛い目見るよ」

「今日はなんか辛辣。何で?」

「聞きたい?」

「とっても」


舞菜は少し切なそうな顔をして、空を見た。

悲しみを含むその瞳は、少し潤んでた。

どうしたんだろう。


「……死んだの」

「え?」

「……死んじゃったの」


なんだろう、狙ってるのかな?

誰がとは言わないのは。

多分、いや絶対狙ってるな。


「誰が?」

「推しが死んだんだよぉ!察してよぉ!言わせないでよぉ」


私は立ち上がって、廊下に出ようと空き教室のドアに手をかけた。

私の行動を不思議そうに見ていた舞菜が弾かれたように私の腰辺りに抱きついた。

そして、力強く教室の真ん中の方に引っ張り始めた。


「何してんの?」

「話を聞いて!」

「思ったよりしょーもないし、先週も聞いた」


そう、舞菜の推しはよく死ぬ。

言い方が悪いけど、驚くほどよく死ぬ。

何なら先週も死んでた。

そして今日も死んだというのならば、私は逃げるのみ。


「推しが死んだんだよ!?親友の推しが死んだんだよ!?」

「元気そうで何よりだよ。舞菜は推しが死んだら話が長くなるから嫌」


私は力ずくで廊下に出た。

でも、舞菜は離してくれない。

同じ話を聞くのは流石に飽きる。


「私は次の授業のテスト勉強をしないとだから」

「私より評価を優先するの!?」

「いつもより面倒くさくなってない?」


私はなんとか教室までたどり着いた。

さっきから人の目が痛い。

クラスの人ならこの状況を瞬時に理解し、哀れみの目を向けてくる。

しかし、それが多すぎても辛くなるだけだ。


「ゆ、結城!お届け物です……!」

「え?」


私は舞菜の腕を掴んで、結城に投げつけるように投げた。

舞菜は結城にぶつかって、バランスを崩して倒れそうになっていたけど、結城が咄嗟に抱きしめて倒れないように支えた。


「よっ、イケメン男子!じゃ、後はよろしく!」

「え?ちょ、おい!」

「結城ぃ!聞いてよ!私の推しがぁ!」


私はすぐに教室を飛び出し、廊下を走った。


「一番面倒なやつを俺に押し付けるなぁぁぁあ」


結城の断末魔が廊下に響き渡った。

私は屋上に出て、空を見上げた。

冬の空は驚くほど青く澄んでいて、雲ひとつない。

吸い込まれそうなほどきれいな空は、絵に描いたようなものだった。

空を見ていると、屋上のドアが開けられた音がした。

ドアの方を見ると、唯斗が息を切らしていた。


「……」

「……」


お互いに無言。

昨日喧嘩したばっかりだし、気まずい。

私は屋上の真ん中の方に歩いてきた唯斗を横切って、どこかの空き教室に行こうとした。

でも、私の腕が唯斗に掴まれた。

少し痛い。


「何の用?」

「お前……」

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