嘘つきな私と喧嘩中の君の初対面
「なるほど……。いつかバレるとは思っていたが、こんなに早いとは……」
「どうするの?このまま噂を流されでもしたら、また……」
私は背筋がゾッとした。
駄目だ。
思い出すな。
「落ち着け。もう二度とお前を危険な目には遭わせない。……何にせよ、あちらの要求を飲むしかないな」
「ごめんなさい。足手まといだよね」
「お嬢様、社長はお嬢様方がいなければ生きていけません。足手まといではないということを覚えておいてください」
南川さんは厳しい顔ながらも、優しい目をして言った。
「そうだぞ。お父さんはお前たちを生き甲斐に生きているんだ。足手まといだなんて言わないでくれ」
「……ありがとう」
「とりあえず、今日はもう帰りなさい」
「分かった。時間を作ってくれてありがとう。お仕事頑張ってね」
私は社長室を出た。
いい人が多いとちょっと困るなぁ。
私は会社の自動ドアを出て、家に帰ろうとした。
「莉緒!」
誰かが私の腕を掴んだ。
私が振り向くと、唯斗がいた。
「莉緒……。お前……」
まずい。
非常にまずい。
会社から出てきた言い訳が出てこない。
バレてまう。
いやそれ以上に、今は気まずすぎる。
仕方ない。
喰らえ!
しらばっくれ!
「すみません、人違いです……」
「え」
「よ、世の中には顔が似ている人が四人ほどいるらしいですし……」
「あ、そうですか」
「それでは」
莉緒すは走った。
人に迷惑をかけない範囲で。
莉緒すは捕まった。
邪智暴虐な唯斗に。
あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙。
「君!名前は!」
そんなどこぞのアニメ映画みたいに名前聞かれても……。
唯斗は私の手を握って顔をズイッと近づけた。
ちょいちょいちょいちょいちょいちょい!
近い近い近い近い近い近い!
あぁ……。
なんかいい匂いが……。
ってそんなこと考えとる場合か!
名前名前……。
私は脳をフル回転させて名前を考えた。
「莉音……」
「莉音か」
しまった、かすり過ぎた。
私の実名(莉緒)にんを付け足しただけになった。
流石にバレたか……?
「そうか」
「はい」
良かったバレてない。
どんだけピュアなんだよ、この男。
「莉音!俺の恋愛相談に乗ってくれ!」
「は?」
聞き間違えかと耳を疑った。
でも、聴力検査は満点だった。
そしてなにより、唯斗のこのキラキラした目!
明らかにガチのやつだ。
「百岡第一中だろ?俺もなんだ」
「いや、これは違くて……。えっと、コスプレみたいなものだから……。その……」
「そうなのか?凝ったコスプレしてるなぁ」
思いっきりずっこけそうになった。
流石に無理があるかと思い込んでいたが、このピュア男信じちゃったよ。
「寒いな。カフェ入ろうよ。自余紹介もしたいし」
「ちょ、ちょっと!」
◇◆◇
入ったのは普通のカフェだった。
良かったぁぁぁぁあ。
隣りにあるメイド喫茶にでも行くのかと思った。
私は温かい飲み物を頼んだけど、唯斗はシェイクを頼んでいる。
……馬鹿なの?
こんな寒い時期に。
「自己紹介からするわ。俺は百岡第一中、中一の岡山唯斗」
「あれ、自己紹介まだだっけ?」
「うん」
良かったぁぁぁぁぁあ。
唯斗って呼んでなくて良かったぁぁぁぁあ。
「私は……。中学は言えないかな。春本莉音。岡山さんと同い年」
「唯斗でいいよ。俺も莉音って呼ぶわ」
唯斗は笑顔でそう言った。
眩しい。
好きな人にフィルターがかかるってこういうことなんだ。
すっごい眩しい。
「本題に入るわ。好きな人がいるんだ」
「急だね」
「幼馴染でさ、距離が結構近いんだ。でも、最近避けられてる気がしてさ」
なるほど、幼馴染に避けられていると。
ん?
幼馴染の異性って私と彩音だけだよね?
で、私はありえないって言ってたから彩音か。
「なるほどね。というか、何で私を相談相手なんかに……」
「似てるんだ」
「あ、そう」
「塩対応……」
似てるか……。
あんな儚げな少女と私のどこが似ているというのか……。
見る目ないやろコイツ。
いや、こんな人に惹かれる私も見る目ないなぁ。
「避けられてる……ね。私には理由は分からない」
「そんな。女子ならアイツの気持ち分かると思ったのに……」
「その人の気持は、その人にしか分からないものだよ。一目で人の感情が理解できたら、顔色をうかがうことをしなくてもいいでしょ?」
「まぁ……」
「そんな楽な生き方、神様が許さないと思う。神様は顔色をうかがうことで、私達に何かを学ばせたいんじゃないかな?その人と同じ生物だから気持ちが分かるなんてことはないよ」
「うっわ、ド正論」
唯斗は若干私の言ったことに引いたような仕草をしたけど、すぐに真面目な顔をした。
「確かに、人に甘えすぎんのは良くないな。神様に怒られちゃうかもだし」
「あ、追加。私、別に神様信じてないよ」
唯斗は大きな音を立てて、椅子から滑り落ちた。
「信じてないんかい!」
店員さんが急いで駆け寄ってきて、唯斗に話しかけている。
唯斗は店員さんに苦笑いをし、私を見た。
「紛らわしい物言いをするな」
「あのさ」
「話を聞け」
「私の相談も乗ってくれない?」
私は唯斗を見た。
唯斗は少し固まって、頷いた。
固まってたときに何を考えていたのか、私は分かるよ?
『マジかよコイツ。初対面のやつに相談なんて……。あ、俺もか』
みたいなこと考えてたよね?
さてと、待たせ過ぎるのも良くないし、さっさ話すかな。
「私も、幼馴染のことが好きなの」
「マジ?一緒じゃん!」
「でも向こうは私のこと、対象外らしいの」
「……」
「恋愛対象外。分かるかな?」
「まさか……」
「そう、見込みがないの」
唯斗は目を見開いた。
こんな話、本人に話すのは私くらいだろうな。
私は性格が悪いから、唯斗に直接言う。
バレなきゃ犯罪じゃない。
いつもはそう考えないけど、今日だけその考え方をしよう。
物事には柔軟性が大切だ。
「私ね、昔その人と結婚しようって約束したの。子どもの約束だし、向こうはきっとどうでもいいと思ってる。私が粘着質なだけだし、向こうは私のことは恋愛対象外だし、初恋はそこで終わったの」
「……」
「でも私、諦め悪いから。まだその人のことが好きなんだ。向こうからしたら迷惑だろうけどさ」
「良いんじゃねーの?」
唯斗が私に向かって、ぶっきらぼうに言った。
話しながら俯いてしまった顔を上げると、優しい顔をしながら私を見る唯斗と目があった。
「別に、好きでいるくらい良いんじゃねーの?好きでいるだけで、どんな迷惑がかかるんだよ。誰を好きでいようとお前の自由だろ?」
「わぁ、ナンパ野郎がまともなこと言ってる……」
「お?喧嘩するか?」
そっか、好きでいて良いんだ。
でもさ、唯斗。
その相手が君だって言ったら、君はその言葉を私に言える?
「あとね、私さっき出てきた会社の社長の娘なの」
「え、ええぇぇぇぇぇえ!おい!あれ大手企業だぞ!」
「そうだね」
「マジかよ!」
唯斗は脱力した状態で椅子に寄りかかった。
「そんなお嬢様が俺に相談なんてして良いのか?」
「君だから良いんだよ。大人に話したら、すぐにお見合いさせようとするでしょうね。それじゃあ、相手が不憫だよ」
「相手は莉音が社長令嬢だって知ってるのか?」
私は首を横に振った。
莉音としてはカミングアウトしたけど、莉緒としてはまだだからだ。
「何度か、相手とのお見合いの話はお父さんに進められてたんだ。でも、私は断った」
「どうして?見合いをすれば、相手が手に入るのに……」
「そんな強引なやり方は嫌だったの。私は、お金持ちだからという理由で相手と結婚したいわけじゃないの。心が欲しい。無理やりじゃない、彼の心が……。」
私は外を見た。
まだ明るい外には、カラスが飛んでいる。
ここからは、君の知らない話だよ。
みなさんこんにちは!このストーリーも順調に進んでおります!ずっと隠していた自分の正体がバレかけた莉緒がついた嘘がかなり意外な方向に行ってしまいましたね。さらには莉音として唯斗に社長令嬢であることをカミングアウト!この後を書くのが楽しみです!次回のストーリーもお楽しみに!