照れる私と照れない君の痴話喧嘩
「愛してる」
「愛してる」
「……ま、負けたぁ!」
「嘘だろ、まだ一回だぞ」
私達は今、何をしているかというと、愛してるゲームをしている。
そう、これが今回の作戦。
愛してるゲームでさりげに愛を伝えてみる〜!
「急に愛してるゲームやりたいとか……。好きな人とやった方が絶対楽しいだろ」
だから今やってるんでしょうが。
とは言えない。
「いきなり恋バナ?」
「ちげーよ」
お、この話に乗って唯斗の好きな人を聞き出そう。
私は唯斗の顔にズイッと顔を近づけた。
少しの顔色の変化を見逃さないために。
「な、何だよ」
「好きな人いる?」
「お前が恋バナ始めてんじゃねーか」
唯斗は少し顔を逸らした。
おかしいな、唯斗のことだから即答すると思ったのに。
「ねぇねぇ、いるの?いないの?」
「い……るけど?」
約束ほっぽって好きな人にアタックしてるとぉ?
まぁ、私が粘着質なだけか。
あーあ、虚しいなぁ。
「好きな人は誰なの?」
「言う訳ねぇだろ」
この反応はマジのやつだ。
私は唯斗から離れて、お弁当に手を付け始めた。
「まぁ、応援はするけどさ。他の男に取られないように早めに行動しときなよ?」
私は唯斗に微笑んで、お米を食べた。
流石お母さん、今日のお米も固めだ。
これはもう少し水を多くしたほうがいいかもね。
「……悪い虫は追い払ってるっつぅの」
「え?なんか言った?」
「言ってねぇよバーカ」
「なにそれ、ほんとムカつく」
あ、ヤバ。
口が滑った。
私は急いで口を抑えて、そっと唯斗の方を見た。
唯斗は目がガンギまった目で私を見ている。
あああああああああああ!
やばい!
やらかした!
「ほぉう?じゃあ何でお前はそんなムカつくやつと昼食を取ってんだよ」
私は急いで残りのお弁当を口に入れて、立ち上がった。
「唯斗、私は謝らないからね!」
「そうかよ!好きにしろ!」
私は屋上のドアに手をかけて、振り向いた。
「バーカ!大っ嫌い!」
私はドアを勢いよく開けて、走って教室に戻った。
「うるせーよ……。このバカが……」
◇◆◇
「はいバカ〜。どっちもバカ〜」
私は教室に戻って、舞菜にことの詳細を話した。
結果、どっちもどっちと言われてしまった。
私も悪いと思ってる。
でも、約束を破ろうとしてることを、私はどうしても許せないんだ。
「お前もまぁまぁ粘着質だよな」
結城がやって来て、私にそう言った。
「結城ぃ……」
「おぉ、よしよし」
結城は私の頭を撫でた。
舞菜はそんな私を見て、「やばい」と言いたそうな顔をした。
「結城……。唯斗に殺されるよ……?」
「知らねーよ。あいつが誤解させるようなこと言うから。俺はちゃんと忠告したからな?」
殺される?
忠告?
やばい、何の話ししてるのか分からない。
「舞菜、莉緒。今日カラオケ行かない?」
結城がいきなりカラオケに誘ってきた。
行きたいけど……。
行く気が起きないなぁ……。
「気分じゃない……」
「私は予定あり」
「「一人カラオケいってらっしゃい」」
私と舞菜は同じことを同じタイミングで言った。
私たちは顔を見合わせて笑った。
しばらく笑ってたら、結城まで笑い出した、
楽しくて楽しくて、唯斗のことなんて忘れてた。
放課後、私は先生に呼び出されて職員室によっていた。
「……。それって……」
「あぁ、君のお父上にお願いしたい」
「どこからその情報を?」
「伝手ががあるんだよ」
「……」
私は職員室を出た。
知られないようにしてたことを、なぜ先生が……?
何にせよお父さんに報告しておかなければならない。
私は裏門から出て電話でお父さんの会社の人を呼んだ。
◇◆◇
「佐藤さん、仕事中にごめんね」
「いえいえ、お嬢の頼みとあらば、地の底からでも舞い上がってきますよ。社長も今日は公務だけだったと思うし」
私は車の中で佐藤さんと会話していた。
そう、私のお父さんの仕事というのが大手企業の社長である。
このことは、唯斗も舞菜も知らない。
結城だけが知っている。
実は言うと、結城はお父さんの秘書だったんだよね。
秘書に息子さんがいるって聞いたお父さんが、「お見合いとかどうだ?」と強引にお見合いを進めてきた。
その結果、仕方なくお見合いに出席すると結城がいた。
思い出すと、かなりカオスなお見合いだったなぁ……。
ーなんでここにいるの!?結城!
ーお前こそなんでいるんだよ!?莉緒!
いやぁ、なかなかにカオスだったなぁ。
気がついたら会社についていた。
「着きましたよ、お嬢」
「あ、ありがとう。ここからは一人で行けるから」
「分かりました。それじゃあ、俺は仕事に戻りますね」
「うん、ありがとう」
私は佐藤さんに手を振って、会社の受付に向かった。
今日は後藤さんいないらしいけど、ちゃんと通してもらえるかな……。
「すみません、社長室にに行きたいのでカードキーをいただいてもよろしいですか?」
「……どなたですか?」
受付の人は眉をひそめて私を見た。
娘って言って信じてもらえるかどうか……。
「社長の娘です」
「お名前は」
「春本莉緒です」
私が名乗ると、受付の人は素直にカードキーを渡してくれた。
エレベーターに乗りに行くと、社員と思わしき人が、思い切りぶつかってきた。
あまりの勢いに私は床に倒れ込んでしまった。
「いったぁ……」
膝から言ったから、少し擦りむいてしまって血が出ている。
ぶつかってきた人を見ると、その人はちょっとぽっちゃりしていた。
その人は私を軽蔑したような目で私を見下ろしていた。
「おい!何で学生がこんなところにいる!つまみ出せ!」
警備員の人が、私のところに走ってきた。
そして、私の腕を少し乱暴に掴んで私を立たせた。
そして、入口方面まで無理やり腕を引っ張り始めた。
「やめてください!離してください!」
「お嬢ちゃん、わかってるかい?学生がいるところじゃないんだよ?」
「父親がここで働いてるんです!」
まずい。
ロビーで騒ぎまくっているから、人が集まってきた。
なんとかしないと。
「南川さん!」
エレベーターから降りてきた南川さん、私は南川さんを呼び止めた。
南川さんは私の様子を見て、目を見開いてどんどん青ざめていった。
ですよね。
社長の娘が膝擦りむいてるわ、警備員に引きずられてるわ、社員の人に罵られてるわで最悪な状態だ。
こんなところお父さんに見られたらこの人たちはを庇えない。
できればお父さんがエレベーターに居ないことを祈r
「南川、今莉緒の声がしたが……。来ているのか?」
お父さん参上。
はい、終わった〜。
私は真実をありのまま話すことしかできない。
「莉緒!」
お父さんが私のところに走って来た。
それを見た警備員と社員さんは戸惑いを隠しきれていない。
二人共、え?を連呼して状況が掴めていない。
周りの人もそうだ。
「莉緒、どうしてこんなところに……。それよりもその傷は……」
「そこの社員の方と警備員さんが『学生はでていけ』と無理やり……」
お父さんの表情には明らかに怒りがあった。
南川さんは呆れた顔でため息を付いている。
「君達二人、ただでは済まさないよ?」
「なぜですか!俺達は学生がいたから追い出そうとしただけで……!」
「その子は私の娘だ。そういえば分かるかな?」
警備員と社員さんは自分の状況が分かったようで、みるみる青ざめていく。
野次馬していた人もお通夜のような顔をしている。
『助けてくれれば権力が手に入ったのでは!?』と悔しがる人もいた。
「莉緒、社長室に行こうか。話があるんだろう?」
「え、でも今降りてきたばかりじゃ……」
「飲み物を買いに来ただけだよ。南川、ココアを二本買ってくるように」
「……分かりました」
私とお父さんは、会社の最上階にある社長室に行った。