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終わりなき地図の旅  作者: 梅干し
第零章 旅立ち編
1/4

[プロローグ]

黄昏が村を包み、静寂が支配している。


家々の扉は閉ざされ、村の広場にはかつての賑わいの面影はない。


この村で生き残った者はもういないだろう。


少年の名はエルン。


彼は家族を失った。


一夜のうちに、家族はどこかへ消えた。


痕跡はなかった。


父も母も、弟も、ただ影のように消え去った。


朝が来ても、村の他の者も同じ運命をたどっていた。


奇妙なことに、村全体が何かに飲み込まれたようだった。


残されたのは荒れ果てた家と、冷たい風が吹く村の静けさだけ。


エルンは独りだった。




3日間、村を出ることもできず、ただ村を彷徨い、わずかな食料を口にして日々を過ごしていた。


心の中には、どこかで家族が戻ってくるのではないかという希望があった。


しかし、それも薄れつつあった。




夜になると、村を覆う静寂の中に、何か異様なものを感じ取るようになっていた。


その夜、村に何かが現れた。


遠くから聞こえる奇妙な笑い声と、獰猛な音。


窓の外を覗き込むと、小さな影が村の広場を走り回っているのが見えた。


ゴブリンだ。


低く甲高い声を上げながら、家々を荒らしていた。


エルンの体は恐怖で凍りついた。


彼には戦う術などなかった。




彼はすぐにクローゼットに身を隠し、息を潜めた。


小さな物音ひとつでも聞かれてしまえば、すぐに見つかるだろう。


クローゼットの中で膝を抱え、震えていると、手が何かに触れた。


父の古びたカバンだった。


埃をかぶったそのカバンの中には、父が大切にしていた手帳が入っていた。


エルンは無意識のうちにその手帳を開くと、驚愕の事実を目にする。


そこにはゴブリンの生態が詳細に記されていたのだ。


「光に弱い…視力が弱い…音に敏感…」


手帳にはゴブリンの弱点が書かれていた。


エルンは、これを活かせば、逃げられるかもしれないと考えた。


その時、家の扉が軋む音が聞こえ、ゴブリンの一匹が中に入ってきた。


エルンの喉は乾ききり、全身が震えたが、手帳に記された弱点を頼りに、近くにあったランプを手に取った。


彼は必死に息を整え、ゴブリンが近づいてくるのを待った。


心臓が高鳴る中、ランプを持ってクローゼットの扉を少しだけ開けた。


ゴブリンが家に入ってくる音がした。


足音が近づいてくる。


息を殺し、タイミングを見計らう。


すぐ目の前にゴブリンの姿が現れたその瞬間、エルンはランプを振りかざし、ゴブリンの顔に向かって油を浴びせ、火を灯した。


ランプの火が一気に広がり、ゴブリンは悲鳴を上げながら倒れた。


しかし、火はゴブリンだけでなく、家の中にも燃え広がっていった。




古びた木製の家具や壁が一瞬で炎に包まれた。


エルンはパニックに陥り、逃げ道を探しながら後ずさる。


その時、壁に飾られていた家族の肖像画が目に入った。


父、母、そして弟の微笑んでいる顔が、炎に包まれていく。


エルンは涙をこらえながら、家から飛び出した。


家全体が燃え上がり、村はますます混乱に陥っていく。




まだ村には多くのゴブリンが徘徊していた。


十数匹もの幻獣が村を荒らし回っている。


エルンにはもう、この場所に留まる理由はなかった。


彼は、父の手帳をしっかりと抱え、息を殺しながら村を後にした。


闇の中、彼は孤独に旅立った。


家族を探すために、そして手帳に記された未知の世界を自らの目で見届けるために。

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