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異世界作品詰め合わせ

カモナマイダンジョン

作者: 平井敦史

「いらっしゃいませ。内部見学をご予約なさっていた方ですね。お手数ですが、こちらにご署名をお願いします」


 私がペンと羊皮紙を差し出すと、入居希望者さまは達筆な字で署名されました。


「『葉常はつねミミック』さまですね。申し遅れました。私、当ダンジョンの管理人を任されております『螺宮らみやミア子』と申します。ご覧の通りラミアです。よろしくお願いいたします」


 私がお辞儀をすると、葉常はつねさまも丁寧に頭を下げられます。腰の低いお人ですね。


葉常はつねさま、本日はダンジョン『トイフェルスハイム西青山にしあおやま』にようこそおいでくださいました。では、早速ご案内いたします」


 そう言って、私はダンジョンの奥へと葉常はつねさまをいざないます。


 薄暗いダンジョンの中に、葉常はつねさまのぺこっ、ぺこっという足音が響きます。

 ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、ミミックにもちゃんと手足はあるのですよ。宝箱に擬態する時は仕舞っていますけれど。


 あ、私はラミアですから、蛇の下半身で爬行はこうする際にはほとんど音は立てません。足音が響いてしまう種族の方は不便ですね。


「こちらのダンジョンにはどんな方たちが入居されているのですか?」


 歩きながら、葉常はつねさまが質問されました。


「色々な方が入居されていますよ。ゴブリンもいらっしゃれば、スピリッツ系の方たちもいらっしゃいますし、ゴーレムからミノタウロスまで」


「バラエティ豊かですね」


「はい。当ダンジョンのマスターは死霊王リッチですが、ご入居はどのような方でも大歓迎です」


 物件ダンジョンによっては入居者の属性を限定している場合も少なくありません。アンデッド系オンリーとか、ビースト系オンリーとか。

 その点、うちのダンマスは来るもの拒まずの方針なのです。


「あ、もしかして、そういうのはお嫌ですか?」


「いえいえ。全然気にしませんよ」


「それは良かったです」


 入居者さまの中には、他の入居者の方の属性を気になさる方もいらっしゃいますから、それを聞いて一安心です。


「ところで、螺宮らみやさんのそのエプロン、素敵ですね。特にそのひよこの絵が可愛らしくて」


「はい。お気に入りですので、褒めていただけて嬉しいです」


 ひよこがピヨピヨ鳴きながら歩いている絵が刺繍されたエプロン。ダンマスから支給されたもので、何やらこだわりがあるらしいのですが、実際可愛いですし、お気に入りというのは本当のことです。


 そんな話をしているうちに、私たちは空室の前にやって来ました。


「こちらのお部屋はいかがでしょうか」


 部屋に入った葉常はつねさまは、室内を丹念に確認なさいます。


「良い内装ですね。最近は凝り過ぎてかえってチープに見えてしまう内装も少なくないですが、この部屋は実に良い。高級感があって、ここなら宝箱が置かれていることにも説得力があるでしょう」


「ありがとうございます」


「それに、照明の明るさもちょうど良いですね。これは発光ゴケですか?」


「はい。明るすぎず暗すぎず、適度な明るさを実現したのは、弊社の研究の成果です」


 ダンマスの配下の幽霊レイスの中に、こういったものの研究開発が得意な人がいるのです。

 ちょっと偏屈ですが根は良い方ですよ。


「うん、水回りも問題なさそうだ」


「サポート体制も確立しておりますので、何か問題がございましたらすぐに対応いたします」


「そうですか。それは安心ですね」


 葉常はつねさまは一通り室内を確認し終え、満足そうな表情をなさいました。


「気に入りました。やはりここに決めようと思います」


「ありがとうございます」


「それにこちらは、交通の便も良いですしね」


「はい。駅から徒歩5分ですから、多くの冒険者の訪問が期待できます」


「おお、それはいい」


「では、こちらが契約書です」


 羊皮紙を葉常はつねさまにお渡しし、記載内容を読み上げていきます。葉常はつねさまは書面に目を通しながらふむふむと頷かれ、最後に署名してくださいました。


「クーリングオフをご希望の場合は、8日以内にお申し出ください」


「わかりました」


 お気に召したようですので、多分大丈夫だとは思いますけれど。


 その後、葉常はつねさまとの契約は正式に成立し、当ダンジョンに入居なさいました。

 先ほども述べた通り、交通至便な当ダンジョンには多くの冒険者が訪れ、葉常はつねさまのお部屋も賑わっていたのですが……。


「私の魔法使いとしての勘が告げている。部屋の中には貴重な魔導書が眠っているに違いないよ」


 ある日、葉常はつねさまのお部屋の前で、薄い胸を反らしながらそう宣言していた小柄なエルフが、何故か髪型を直毛ストレートから縦ロールに変えてそそくさと立ち去るのが目撃されて以来、葉常はつねさまのお姿を見た人は誰もいません。


 悲しいことですが、ダンジョンとはそういうところなのです。



――Fin.

千年()以上()生き()た魔()法使い()だなんて一言も言ってないじゃない。

まあ、あの人が来たならダンジョンそのものが攻略し尽くされてしまうはずなので、きっと無関係な他エルフ(たにん)ですよ。知らんけど。



前作との落差がハンノキ滝級ですが、ガチシリアス系の話を連発するとハードルが上がってしまいますもので^^;

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「KAC2024 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2024~」のお題に合わせて執筆した作品群。
本作は第二弾です。
第一弾『少年は全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを夢想する』お題は「書き出しが『○○には三分以内にやらなければならないことがあった』」+特別お題『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』。歴史物です。
第二弾 本作です。お題は「住宅の内見」。異世界ファンタジーです。
第三弾『だから開けるなと言ったでしょう』お題は「箱」。童話です。多分。
第四弾『指がささくれ立った女』お題は「ささくれ」。ホラーです。多分。
第五弾『雪山奇譚』お題は「はなさないで」。現実世界ファンタジーです。
第六弾『とりあえず手向山』お題は「トリあえず」。純文学です。
第七弾『色は移ろう』お題は「色」。ミステリーです。多分。
第八弾『ナポレオンフィッシュと眼鏡の君』お題は「めがね」。現実世界恋愛物です。
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