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9.知希との再会2
ぼんやりヒダネムシの光によって浮かび上がる黒い影。
ひとじゃない。人よりも大きく、異常に手足が長く、歪な体躯。ぷん、と鼻を突く異臭が一段と強くなり辺りに漂う。
カタカタと、知らず体が震える。
(ーーー花喰い…)
どうしよう。
起動が早まる。パキリと何かが枝を踏む音。
明るい月明かりに、少しずつその容貌が照らされていく。
次の瞬間、彼岸花の悲鳴があがった。
ひっ、と喉の奥で悲鳴が漏れる。
ブチブチと無造作に、花を引き抜く音。
不快と不安を掻き立てる咀嚼音。森の中をかけぬける、重く飲み込まれそうな風の音。
ただ聞こえ続けるそれらを塞ぐすべもなく、永遠と続くように感じる時間。
花喰いは、手近な所に咲く花を食べているようだった。おそらくこちらには気付いていない。
それでも、全く生きた心地がしなかった。
「…さ、お。…み…さ…」
(ーーーえ…?)
聞こえた声に息を飲む。
「…美沙緒、み…」
この声は。自分の名を呼ぶ、この声は。
(嘘…)
愕然としたまま、花を貪り続ける化け物を見る。
ーーー知希…?
確信だった。
あれはーーーあの花喰いは、紛れもなく美沙緒の探し人ーーー“知希”だ、と。
ーーー“「花が見つけてほしくない。帰りたくない。花喰いに食べられた、…あるいは」”
(紗綾はなんて言おうとしたーーー?)
あるいは。
ーーー花喰いになってしまった…?




